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   魔王に出し抜かれて

「エミリオ、危ない!」


 咄嗟にランクスはエミリオを突き飛ばし、ソルの口内を穿とうと狙う。


 にやり。ソルの口元が不穏に歪む。

 そして俊敏に口を閉じ、下から上へ爪を振り上げた。


(マズい、防げるか?)


 ランクスは剣でどうにか爪を受ける。

 だが、土砂崩れのような勢いに力負けし、体が大きく後ろへ吹き飛んだ。


 空を舞う最中、ソルがランクスへ迫る。


「面倒だ、さっさと始末してやる」


 ソルの溢れ出る殺気が、すべて自分のところへ向けられている。

 そんな気配を感じているのに、ランクスは目を閉じずに剣を握り続けることが精一杯だった。


 次の瞬間――。

 風の渦がソルを横殴りにし、リーンハルトの槍が炎を揺らしながら鋭い突きを繰り出す。


 小さく「チッ」と舌打ちし、ソルは身を翻してリーンハルトへ向かった。

 飛ばされたままのランクスは、背中から木にぶつかる。鋭い痛みが胸を突き上げ、全身へ広がった。


 そのまま地面へ崩れ落ちると、即座にエミリオが駆けつける。


「大丈夫ですか、ランクス!」


 口を動かしながらエミリオは回復魔法をかける。しかし、魔界で力が弱っているせいか、いつもより効きは遅かった。

 足に力を入れて立ち上がると、ランクスはふらつきながら剣を握り直した。


「オレは大丈夫だ。早くリーンハルトを加勢してくれ」


 チラリと光の結界を見ると、ベルゼも鈍いながら動き始めている。悠長に回復している暇はなかった。

 エミリオは「分かりました」と言い残し、駆けながら魔力を貯め、雷の矢をソルとベルゼへ放つ。


 駆け出そうとしたランクスは、脇に走る痛みに顔をしかめた。


(肋骨にヒビが入ったか? まあ、こんな痛みなら後からいくらでも治せる)


 心で強がりながらも、痛みで息がとまる。それでもランクスは歯を食いしばり、ソルへ斬りかかった。


「案外しぶといな人間ども。フンッ、時間がもったいないわ」


 鼻を鳴らしながらソルはランクスの剣を避けると、踵を返して飛行した。

 そして向かった先は、カシアたちが向かった方角だった。


「じゃあな、ベルゼに人間ども。テメーらの命より、杖のほうが大事なんだよ」


 そう言ってソルは姿を消してしまった。


「ヤバい、カシアがソルに追いつかれる!」


 ギョッとなってランクスがエミリオに叫ぶと、彼は小さく首を横に振った。


「アレは私と相性が悪いですね。肉体が強靱すぎると魔法が効かないんですよ。だから二人のどちらかが追って下さい」


 ランクスがリーンハルトに視線を送ると、彼はベルゼが飛ばす氷の槍を避けていた。

 こちらと目が合い、リーンハルトは応戦したまま叫んだ。


「ランクス、お前が行くんだ! ベルゼは私とエミリオで食いとめてみせる!」


 迷っている暇はない。ランクスがうなずくのを見て、エミリオは指先を真上に指し、わずかな魔力を飛ばす。


 そして上空から舞い降りてきたのは、純白の羊らしき幻獣だった。半透明の体はモコモコとした毛に覆われ、頭の左右には鋭く尖った角が生えていた。


「力こそありませんが、走ることだけは誰にも負けません。ランクス、それに乗ってソルを追って下さい」


「分かった。杖を村に届けたら、すぐ助けに戻る。それまで生きていろよ」


 ランクスは助走をつけて幻獣に乗ると、そのまま後ろを見ずに幻獣を走らせた。

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