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   出でよ、とっておき!

(アタシは夢でも見てるのか? 一体どうなってんだ?)


 予想外の光景にカシアが息を呑んでいると、村の奥から一人の青年が駆けてきた。


 深い飴色の短い髪と、力強く整った眉をした若者だった。半袖から覗く腕は目前の厳つい老人と比べると明らかに細い。しかしギュッと筋肉が凝縮しているように見える。少なくとも田畑を耕して得た肉体ではない。

 腰に長剣を携えており、カシアたちが短剣を抜いているのを見ても青蘭の瞳に動揺はなく、腕に覚えがあるという自信がこちらへ伝わってくる。


 青年は老人に駆け寄ると、歯を見せながら苦笑した。


「ああ間に合った。ギード師匠、あとはオレが相手しますから休んで下さいよ」


 名を呼ばれてギードはフンッと鼻息を鳴らす。


「俺が相手をしたほうが、さっさと終わらせられる。ランクス、お前は引っ込んでいろ」


「師匠に任せたら畑がグチャグチャになって、跡形もなくなりますから。それに――」


 青年ランクスは肩をすくめながら、不敵な笑みをカシアに向ける――と、急に前へ飛び出し、剣を抜きながら一番近くにいた者を斬りつけてきた。


「危ないっ!」


 カシアは疾走し、標的になっていた仲間の服の裾を強く引いて後退させる。

 間一髪、切っ先が仲間の胸元をかすったものの、斬られたのは外套のみだった。


「おっ、いい動きするじゃねーか」


 感心しながらランクスはカシアへ剣を振り下ろす。

 咄嗟に短剣でランクスの剣を受けとめるが、本気を出していないのか、カシアの手に伝わってきた衝撃は弱い。


(舐めたマネしやがって! ちくしょう……っ)


 舌打ちしながらカシアはランクスの剣を払い、自ら斬り込んでいく。

 素早く短剣を閃かせてカシアは連撃を繰り出す。だが、ことごとく受け流されてしまい、ランクスの余裕の表情も加わって腹立たしさが増した。


 こちらの苦戦に気づいた仲間たちが、剣を振り上げてランクスへ向かってきた。


「この野郎、調子に乗るんじゃねえ!」


 盗賊たちの動きを見やり、ランクスは軽く跳び引く。そして剣を握る手に力を込めた。

 鮮やかに弧を描いた途端――何本もの剣がランクスの一振りで破壊された。


 続けざまに見せつけられる信じられない現実にカシアの背中が総毛立つ。

 無意識の内に手が腰の皮袋へ向かっていた。


(こんなヤツらをまともに相手できるか! とっておきを使って鼻をあかしてやる)


 カシアは駆け出してランクスから距離を取ると、皮袋の中から小ビンを取り出し、親指で栓をポンッと押し開ける。途端に黄土色の煙が立ち上り、家よりも大きく屈強な人型に姿を変えていった。


「出てこいゴーレム! さっさとそのジジィたちを踏み潰せ」


 カシアの呼びかけに応えるようなオォーンという咆哮とともに、ゴーレムの体が煙からレンガへ切り替わる。その姿は半分透き通っているが、決して夢幻ではない。ズゥンッと地響きを立て、ゴーレムはギードの目前に着地した。


 これが首領から譲り受けたとっておき。

 ゴーレムは本来魔力を持った者でなければ呼び出せない、幻獣と呼ばれるものの一種。だが古の魔導士が小ビンにゴーレムを封じ込め、魔力のない者でも呼び出せる道具を作り出した。それが巡り巡って盗賊団の手元に渡って今に至る。


(いくら強くても所詮は人間。ゴーレム相手に勝ち目なんてあるもんか!)


 今度こそ自分たちが優位に立てたと思い、カシアは静かにほくそ笑んだ。


 ゴーレムの蹴りが地を削りながらギードへ迫っていく。

 しかしギードは目前のゴーレムに顔色ひとつ変えず、クワを構えた。


「邪魔だ、退け」


 片手に持ったクワを、上から下へ一振りする。

 ジャッ、と。カシアの耳が刃を研ぐような音を拾う。


 その直後。巨大な足がギードへ届く前に、ゴーレムの体が縦真っ二つに分かれた。

 崩れ落ちてゆくゴーレムの体は、地面へ着く前に粉となり空へ消えていった。


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