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   最弱はお前さんだから


「やられるの早っ。意味ねーだろ」


 ランクスが顔を引きつらせてぼやいていると、


「所詮はザコ魔王。ですが、数秒でも時間稼ぎができれば十分ですよ」


 口端を上げてエミリオが笑い、急に片手を後方へかざす。

 直後、エミリオの手から無数の光が弾け、矢を射たかのようにソルとベルゼの元へ向かっていく。


 光は細い糸となって、見事に魔王二人へ絡みついて動きを抑えた。

 エミリオは息をつきながら髪を掻き上げる。


「魔力をためて、強めの結界を張りました。……あれでも軽い足どめにしかなりませんけどね」


「やっぱりそうか。このまま逃げても、すぐに追いつかれるだけだ。それなら――」


 すうっ、と目を細めると、ランクスは剣の柄へ手を持っていった。


「次はオレたちで時間稼ぎをしてやる」


 こくりとエミリオはうなずき、リーンハルトも「ああ」と言って後方を見据える。


「私たちの目的は魔王討伐ではなく、杖を村へ持ち帰ること。魔王二人を倒すのは難しいだろうが、時間稼ぎならどうにかできる」


 頼もしい言葉だが、いつも平然としている彼の横顔が青ざめている。

 おそらく今の三人の力なら、ソルたちの足どめは命がけになるのだろう。そう思うとカシアの瞳が潤みそうになった。


(人のことを散々からかってくるし、修行でアタシをぶっ飛ばしてくれるし、これでもかっていうくらい怒るし……でも、腹立たしい扱いばかりされたけれど、今は同じ村に住む仲間だ)


 どうにか自分も三人も助かる方法を考えるカシアへ、ランクスが「おい」と呼びかけてきた。


「その杖を持って、さっさと村へ戻れ。手柄は全部お前さんに譲ってやるよ」


 カシアはムッとなってランクスを睨みつける。


「アタシに命令するな! また精霊を暴走させて、今度は魔王二匹をぶっ飛ばしてやる」


「アイツらの力を甘く見るな。二度目は通用しねぇ……舎弟の魔物たちと一緒にお前さんも逃げろよ」


 逃げろと言われると、余計に逃げる気がなくなる。いっそ杖をランクスに渡して、「テメーが逃げろ」と言ってやろうかとカシアは本気で思う。

 けれど自分に時間稼ぎできる力がないことも自覚していたので、強気に出ることができなかった。


 迷うカシアに、ランクスはいつも冗談を言う時に見せる軽い笑みを向けた。


「ザコ魔王たちも含めて、この中で一番の最弱はカシアなんだ。そんなお前さんより遙かに強いオレたちが退路を作るのは当然だろ」


 ふざけんな、とカシアが言うよりも先に、ランクスはエミリオへ目配せし、飛行をとめさせる。

 あっという間にカシアたちと距離が空き、彼らの姿が小さくなる。


 後ろ髪引かれる思いだったが、ここで杖を奪い返される訳にはいかない。

 カシアは三人に聞こえないよう小声で「死ぬなよ」とこぼし、レミュアから降りずに前へ進み続けた。

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