いざ魔界へ!
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村の近くにある洞窟を下へ下へと進んでいくと、一刻ほどして出口が見えてくる。
洞窟を抜けると、日頃から慣れ親しんだ青空はなく、鉄サビのような茶褐色の空と、横に細く伸びる漆黒の雲がまばらに浮かび、縞模様を作っていた。
辺りは森に囲まれており、その木々の幹や枝は焦げ茶であったが、その枝につける葉は赤黒い物や淀んだ藍色の物が多く、こちらも見たことのない物ばかりだった。
「ここが魔界……」
カシアはワーライオンの背に担がれながら、きょろきょろと辺りを見渡す。洞窟を進んでいく最中、魔界へ近づくにつれて体から力が抜けてしまったのだ。魔力も弱まり、空を飛ぶこともできず、こうして背負われることになってしまった。
湿度が高く、呼吸をするほどに胸が詰まっていく。まるで肺に水が溜まっていくような感じがして、あまりいい気分ではなかった。
「ソルとベルゼがいる所までは、ここから近いのか?」
カシアの問いに、シャンドはフッとキザったらしい笑みを作る。
「普通に歩いていけば距離はある。が、乗り物を使えば半日で着く」
「乗り物って……馬車でも使うのか?」
「この由緒正しき血統の私には、もっと相応しい乗り物がある。今から呼んでみせようではないか」
そう言うとシャンドは腰に挿していた細い筒のような物を抜き、先端のフタを外す。
途端に大量の白い煙が筒から吹き出して真上に広がる。そしてゆっくりと一行の前に降りてきた。
白い煙と思っていたものが形作られてゆく。
長くふさふさした銀の体毛に、大木のような長い胴体から生える短い四肢。円らな瞳をしたイタチの顔。尻尾は大きな球状の形をしており、なんとも愛くるしい。
半分透けたように見える体が、幻獣の証だった。
「これは我が一族に代々受け継がれる、幻獣レミュア。見た目に似合わず、素早く地を駆ける――姐さん、どうかしたのか?」
ザコ魔王のシャンドでさえ、こんな使える幻獣を呼べるのに。……シャンドのくせに生意気だ。
ロクでもないミミズもどきのことを思い出してしまい、カシアは落胆で表情を曇らせる。
だが、すぐに気を取り直して口元を緩ませた。
(舎弟の物はアタシの物だからな。だからこの幻獣もアタシの物だ)
そんなカシアを不思議そうに見てから、シャンドは魔物たちへ「飛べぬ者は乗れ」と号令をかける。
ワーライオンに運ばれ、カシアは魔物たちに挟まれてレミュアの背へ乗る。手が体毛に触れると、極上の絹のような触り心地に驚く。
この毛を売れば少量でも高値が付きそうだとカシアが思っているところで、レミュアの体がのしりと動いた。
一歩踏み出した瞬間、その巨躯からは想像できない速さでレミュアが駆け出す。
目だけ動かして左右を見ると、馬で馳せる時のように辺りの風景が流れていた。それに合わせてガーゴイルたちやシャンドが飛び、平行して進んでいく。
最初はこの図体で木や岩などにぶつからないかと心配していたが、レミュアは長い体をうまくしならせて、森の中を縫うように駆けていた。慣れてくると気分がよくなってきて、カシアは体毛にしがみつきながら爽快感を楽しんだ。