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   カシアの仁義



 村の入り口に近づいた辺りで、シャンドは数人の人影を見つける。

 咄嗟にシャンドたちは気配を殺し、身を隠して様子をうかがう。

 そこには背後にエミリオとリーンハルトを従えたランクスが、カシアへ詰め寄っている最中だった。


「嫌な予感がしたからお前さんを尾行していたが……まさか魔物に杖を探しに行かせるとは思わなかったぜ。まったく、考えなしにもほどがあるぞ」


 なあ、と同意を求められて、エミリオが大きくうなずく。


「互いの利益のために人と魔物が手を組むことはありますが、あいつらはいつでも裏切る機会を狙っているんですよ。本来、人と魔物が仲よくすることなど不可能ですからね」


 リーンハルトも同意見らしく、エミリオに続いてうなずいていた。

 無言を続けるカシアへ、ランクスは呆れたように肩をすくめる。


「どうせ杖の探索に行ったフリして、魔界へ逃げ帰るのがオチだ。もしくは嘘の情報をつかませて、お前さんをだまし討ちするかもしれない。殺られたくなかったら、次に会った時には容赦するなよ」


 ついさっき逃げることも考えていただけに、ランクスの言葉が今のシャンドたちの耳には痛い。そしてカシアがその話に同意するところも聞きたくなかった。


 シャンドが耳を塞ぎたい気分になっていると、ようやくカシアが口を開いた。


「魔物だろうが人間だろうが、裏切るヤツは裏切るじゃないか。それに、アイツらはアタシの舎弟なんだ。これはアタシのいた盗賊団のお頭の言葉だけど……下にいるヤツらを信じずして、人の上に立てる訳ないってね」


 予想を大きく外した答えに、シャンドを含め、魔物たちが息を呑む。

 ランクスたちもこの答えが意外だったのか、三人は言葉を失う。戸惑いつつ顔を見合わせてから、リーンハルトが語り出した。


「カシア、君の考えは間違ってはいないが、魔王や魔物に対してその考えは危険だ。もし君が彼らに騙されてしまえば、助けが間に合わないかもしれない」


 そんな話に迷う素振りすら見せず、カシアは真っ直ぐな眼差しで三人を見据える。


「いくら脅しても、アタシはアタシの舎弟を信じる。もし裏切られたら、アタシはそこまでだったってだけの話だ」


 まさかこんなに信用されていたとは。

 声は出さなかったが、魔物の誰もが驚き、うろたえて視線が泳ぐ。

 一人シャンドは瞳を閉じて深呼吸すると、魔物たちに向かって小声で話しかけた。


「姐さんは我々のことを信じてくれている。この期待に応えられずして、魔界の実力者になれる訳がない」


 村に背を向け、シャンドはマントを翻しながら一歩を踏み出す。


「これより一ヶ月間、全力でエナージュの杖のありかを突きとめる。手段は問わぬ。皆の者、すぐに魔界へ向かい、各々に散れ」


 誰も反論する者はおらず、魔物たちは表情を引き締めてシャンドの命令にうなずいた。

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