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   ジジイが生きている間に……


    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 村の雑用を終わらせてから、カシアは昼過ぎに森で体を休めていたシャンドたちの元へ向かった。傷は魔法で治ったが、まだ体力は回復しておらず、魔物たちは木の上で気持ちよさそうに日差しを浴びてまどろんでいるところだった。

 こちらに気づくと、シャンドはすぐに下へ降りて颯爽とカシアの所までやって来た。


「姐さん、なにかこの私に用が? 私たちもだいぶ体力が戻り、また姐さんを手伝うことができるようになったぞ」


「いや、アタシの手伝いはいい。それよりも、アンタらに聞きたいことがあるんだ。休んでいる時に悪いが、ちょっと魔物たちを集めてくれ」


 言われるままにシャンドは指笛を吹き、休んでいた魔物たちを集合させる。まだ気だるそうな顔をしているが、どの魔物も今朝より血色はよくなっていた。

 カシアは全体を見渡しながら、話を始める。


「やっとギードを見返す方法が分かったんだ。それにはエナージュの杖が必要なんだが……念のために聞いておくけど、アンタらの中でエナージュの杖を知っているヤツはいるか?」


 魔物たちは顔を見合わせてから、各々に首を横に振った。


「魔界も広いからな。己の故郷や拠点にしている地域といった範囲の噂しか耳にせぬ。私も部下も同じ地域の出身だが、そんな杖の話は聞いたこともない」


 シャンドの報告に他の魔物たちもうなずく。朝にオスワルドから聞いていた通りだったが、カシアは内心がっかりする。


「そうか……ったく、死に際に杖を避難させるなんて、よっぽどのお宝だったんだろうな。厄介なことしやがって」


「おそらく私の一族と同じ、寿命のある魔王だったのであろうな。子々孫々に一族が繁栄するよう、大切な秘宝を伝承し続けたいと考えて――」


 そう言った後にシャンドは「ん?」と言葉をとめる。少し考えてからハッとなり、目を見開いた。


「姐さん、これは重要なことだ!」


「ど、どうしたんだ急に?」


「そもそも魔王で子孫を残し、家族を持つ一族は少ないのだ。それを調べて周辺の話を聞き込んでいけば、エナージュの杖のありかに辿り着くかもしれぬ」


 何度か目をまたたかせてから、カシアは「でかしたシャンド!」と彼の背中を強く叩いた。

 げふっ、と咳き込みはしたが、すぐにシャンドは誇らしげに胸を張った。


「私も由緒正しき血統の一族だからな。ただ、それでも数百単位で一族が存在している。しかも身内がいることを隠している一族も多い。すべて調べるのは不可能だろう」


 魔界全土に散っている、身内がいる魔王の一族を探すのは苦労しそうだとカシアは思う。しかし、見つかるかもしれないという希望は持てる。

 カシアは勝ち気な笑みを浮かべ、シャンドの肩を叩いた。


「よし。じゃあ今から魔界へ行って、総力を挙げて調べてきてくれ。期限は一ヶ月、できませんって言うのは聞かないからな」


 一瞬シャンドの体が強張り、顔色がみるみる青ざめた。


「な……一ヶ月? 私と部下だけで魔界全土を調べるには、あまりに途方もない――」


「いくら強くてもギードはジジィだ、いつ死ぬか分からない。死んでからじゃあ、ジジィを悔しがらせることができないだろ」


 この村にいることも、ランクスたちに鍛えてもらっていることも、すべてはギードをギャフンと言わせて見返すため。認めたくはないが、これが今の生き甲斐みたいなもの。

 生まれてこない子供を四十年間も待ち続けているギードが、可哀相だと思った訳じゃない。


 目に力を入れ、カシアは無言でシャンドたちに拒否は許さないと睨みつける。

 殺気すら漂い始めたカシアへシャンドや魔物たちはたじろぎ、鈍い動きでまばらにうなずいた。

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