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   意表を突かれたマジ説教


    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 柔らかな朝の光が降り注ぎ、森に木漏れ日が溢れる中、カシアは昨日と同じように大カゴを背負って川へ向かっていた。


(畜生ジジィめ、こんなに洗い物を寄こしやがって)


 ここへ来る前のことを思い出し、カシアは膨れっ面になる。


 目が覚めるとなぜかギードのベッドに寝かされており、慌てて起き上がったら「お前が使ったんだから、シーツを洗ってこい」とギードに押しつけられてしまった。朝一にやりたくなかったが、さっさと終わらせたかったので、朝食をとる前にここへ足を運んだのだ。


 こっそりシャンドたちにさせようと思ったが、昨日オスワルドのお玉と結界にやられ、体がひどく疲弊して未だに動ける状況ではない。そんな舎弟たちに雑用を押しつけるのは、弱い者いじめをしているようで気が引けた。


 川に到着し、カシアは昨日と同じようにシーツを足で怒り任せに洗う。

 ふと視界の隅に灰色の物が映り、カシアはそちらへ瞳を向ける。


 そこは昨日の洗濯の時に違和感を感じた、オスワルドたちの小屋の脇で揺らめいていた部分であった。

 今日はあの揺らめきはなく、代わりに小さな石碑が佇んでいた。目を細めて見ると、そこには『ミリアム』という女性らしき名前が彫られていた。


(あれは墓か? 昨日までなかったのに……村で誰か死んだって訳でもないし、なにがあったんだ?)


 動きをとめてカシアが墓を見続けていると、背後から人の足音が聞こえてくる。次第に大きくなり、カシアは弾かれたように振り向く。

 現れたのは、目を据わらせ、口端を引きつらせたランクスだった。


「カシア! ギード師匠の寝込みを襲うなんて、なに考えてんだ! しかも魔物たちも利用して……これからはもっとしごいて、お前さんの性根ごと叩き直してやるから覚悟してろよ」


 嫌だと言いたいところだったが、これ以上ランクスに口うるさく言われるほうがもっと嫌だったので、カシアは反論せずに洗い物を再開する。

 ふてくされるカシアの頭を、ランクスは軽く小突いた。


「いくら師匠でも、昼間と違って夜は視界が悪いから、とんでもない所にお前さんを投げ飛ばしちまって、運悪く死んでいたかもしれないんだ。……あんまり心配させんなよ」


 心配? ランクスがアタシを?

 これは新手の冗談かと思ったが、そんな軽々しい空気ではない。本気で心配してくれたのだと気づき、カシアの目が泳いだ。


 盗賊の仲間たちと別れて、また自分は一人になったと思っていた。

 でも、こんな風に心配してくれる人がいる。


 一人じゃないんだ、と思った瞬間、目が潤みそうになった。



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