いざジジイを襲撃!
それぞれに分かれ、カシアたちはギードの家へと向かう。他の村人に気づかれては厄介だったので、腰を落として足音をなるべく出さずに、早歩きで村の中を突っ切った。
ギードの家の前までいくと、まずカシアは家の周りをぐるりと歩き、武器になりそうな斧やクワなどを手に取り、魔物たちに渡して「捨ててこい」と命ずる。
それから家の扉へ近づき、持ってきた針金を鍵穴に入れると、カチャカチャと動かして鍵を開けた。
カシアは「お前だけ来い」とシャンドを呼び、二人で家の中へと侵入する。ひとつしかない部屋には、質素なテーブルと椅子とベッドが置かれており、その中でギードは歯ぎしりしながら眠っていた。
素早く辺りを見渡し、カシアは壁に立てかけてある剣を数本見つける。すぐシャンドに目配せして取りにいかせ、出口を指して外へ出るようにうながす。
一人部屋に残ったカシアは、右手を真上にかざし、間合いを計りながらギードを見据えた。
(ジジィ、覚悟しやがれ!)
カシアが魔力を出した途端、ギードがベッドから起き上がった。窓から差し込む月光に照らされた顔は、寝起きとは思えないほどに目が鋭く、背中から気迫が漂っていた。
「こんな夜中に襲撃してくるとは、イタズラがすぎるぞ!」
勢いよく立ち上がり、ギードがカシアに迫ろうとする。と――ぽよん。
ギードの頭上へ巨大な滴が落ちてきた。
『ジュッテーム! ご指名ありがとン、あなたのカットロン十三世にございますン』
柔らかで粘っこいカットロン十三世の体に、ギードの顔が半分埋もれる。
「のわっ!」
さすがのギードも不意打ちで生理的に受付けない感触に襲われたせいか、今まで聞いたこともない声を上げ、大きく後ろへ倒れた。
「よくやったミミズもどき。そのままジジィを足どめしておけ!」
カットロン十三世を置き去りにし、カシアは全力で外へ飛び出る。しかし――。
『ワッタシの名前はカットロン十三世。リピート、アフターミー? カッットルォォォオン十三世、はいっ』
さっさとギードから離れ、カットロン十三世はカシアの腕へ螺旋状に巻き付いてくる。あまりにもおぞましい粘り気と柔らかさに、背筋がむず痒くなった。
「でえぇぇいっ! 離しやがれ、このネバネバ変態ゴミ虫野郎が!」
カシアは腕を振り回し、カットロン十三世を投げ飛ばす。そして『ワッタシ飛んでるー』と嬉々とした声を残し、夜空へ消えていった。
起き上がったギードが無言で追いかけてくるのを見やり、予定通りとほくそ笑んでカシアは逃げる。かろうじて疾風のブーツを履いている分、素早さだけはギードをわずかに上回っていた。




