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   親分のものは舎弟のもの


    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 村に戻って即座にカシアは雑用を押しつけられ、自動的にシャンドたちも雑用をする羽目になった。

 おかげで村の中で魔物が人々の生活を手助けするという、世にも奇妙な光景が広がった。


「姐さーん、ギロンの実はこれぐらいでいいっすか?」


 カシアが薪割りをしているところに、森へ行っていたワーウルフが戻ってきた。両手に持っている大カゴの中はギロンの実が山盛りに入っており、狼というより貧相な野良犬と言ったほうがしっくりくる顔は、どこか誇らしげに笑っているように見える。

 手をとめてワーウルフに近づき、カシアは「よくやった」とその背中を叩いた。


「それだけ集まれば十分だ、ありがとう。まだ動けるなら、あっちでガーゴイルたちが屋根の修理してるから、手伝いに……あれ?」


 ふとワーウルフの鼻頭に赤い筋が走っていることに気づき、カシアは思わず手を伸ばして指でつつく。

 直後、「ぎゃっ!」とワーウルフの肩が跳ね、手で鼻頭を覆った。


「い、痛いっす。さっき実を採ろうとして藪の奥に突っ込んだら、ビシィッって小枝が鼻に当たったんすよ。でも二、三日すれば治りますから、心配は無用っす」


「でも痛むんだろ? 傷を見せてみろ、今すぐ治してやるから」


 そう言うとカシアはワーウルフに手をかざして回復魔法を施す。小さな傷はあっという間に消え、しっとり艶やかな鼻がヒクヒクと動いた。


「大切な舎弟なんだ。ちょっとでも困ったことがあったらアタシに言うんだぞ」


「ありがとっす、姐さん!」


 嬉しそうに目を輝かせてから、ワーウルフは村のほうへと走っていった。

 その背を見送ると、カシアは再び薪を割ろうとする。と――。


「部下を治してくれたのだな。感謝するぞ、姐さん」


 頭上からシャンドの声が聞こえてきてカシアが見上げると、魔法で浮遊した彼の手には皿に乗ったサンドイッチがあった。凝った装飾の貴族風の服には不似合いな光景に、自然と笑いがこみ上げてしまう。

 一人にやつくカシアを不思議そうに眺めながら、シャンドはゆっくりと地面に降り立った。


「この皿はどこに置けばいいのだ?」


「ああ、アタシの後ろに置いてくれればいいよ。ありがとう、腹が減ってしょうがなかったんだ」


 カシアは足下にあった残り一個の薪を割ると、斧から手を離して皿を持つ。だが、そのままサンドイッチに手をつけずに、シャンドへ差し出す。


「せっかく持って来てくれたんだから、シャンドも食べなよ」


 勧められることが意外だったのか、シャンドは目を丸くしながら、カシアとサンドイッチを交互に見た。


「いいのか、姐さん?」


「もちろん。舎弟の物は親分の物だけど、親分の物は舎弟の物でもある。遠慮しなくていいよ、足らなかったら森で木の実でも見つけて食い足せばいいから」


 もう元の盗賊仲間たちのところには戻れない。だからこそ、世話になった首領にしてもらったことを舎弟たちにしてあげたいと思う。そうすれば会えなくても、仲間たちとの繋がりは消えないような気がする。

 実の家族を知らないからこそ、この繋がりを失いたくなかった。


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