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   舎弟のものはアタシのもの!




 カシアたちが屋敷を出ると、ちょうど空を飛んでこちらにやって来たランクスたちが降りてくる。

 三人ともカシアの背後に控えるシャンドと、さらにその後ろで群がる魔物を目の当たりにして言葉を失った。


「……おいカシア、これはどういう状況なんだ?」


 こめかみを押さえてうめくように尋ねるランクスへ、カシアは歯をにっかり出した。


「コイツらは全員アタシの舎弟だ。村の森に住まわせるから、間違って倒すなよ」


「はぁ? 魔物を舎弟って、お前さんはなにを考えてんだ! 犬や猫を拾って、世話するようにはいかないんだぞ。今すぐ捨て……いや、ぶっ倒せ! お前らだってそう思うだろ?」


 ランクスがエミリオとリーンハルトに話を振ると、二人は難しい顔をするばかりで、うなずきはしなかった。

 怪訝そうなランクスの視線を受けて、エミリオが肩をすくませる。


「私たちに迷惑がかからなければいいんじゃないですか? 相手はザコ魔王とその子分。ザコがどれだけ束になろうとも、ストラント村の人間には敵いませんよ」


 予想外に反対されず、カシアはエミリオへ目を見張る。


「アンタがそんな援護するなんて、なに企んでんだ?」


「別に。ただ、いいカモが近くにいたほうが、私の懐は潤いますからね」


 そう言ってエミリオは冷笑を浮かべて、シャンドへ獲物を狙う獣のような目を向ける。

 シャンドの顔は平然としていたが、だらだらと額から冷や汗が出ていた。咄嗟にカシアはエミリオからシャンドを守ろうと立ちはだかる。


「シャンドはアタシの舎弟になったんだ。今までみたいに宝を巻き上げるようなマネはさせないからな!」


 後ろから「あ、姐さん!」とシャンドが感激した声を出す。カシアは後ろを振り向いてうなずくと、エミリオへ向き直り、親指を立てて己を指した。


「舎弟の物は親分の物だ! お宝はシャンドごとアタシが全部いただいた。人の物を盗るんじゃないぞ」


 カシアの背後で魔物たちがざわざわし始め、しゃがれ声で誰かが「あ、シャンド様がうなだれた」と言った。

 そして前方ではエミリオもうなだれ、苛立たしげに頭を掻いていた。


「カシアなんかに遅れを取るなんて……ああ、こんなに自分が情けないと思うのは生まれて初めてですよ」


 エミリオの鼻を明かすことができ、カシアは満足して胸を張る。

 様子を見守っていたリーンハルトが、おもむろにランクスの肩を叩いた。


「信用はできないが、役に立つかもしれない。ランクス、あまり短気を起こすな」


 意外と柔軟に考えられるんだな、とカシアが感心していると、ランクスが「勝手にしやがれ!」と言い捨てた。


「盗賊から足を洗ったと思ったら、今度は魔物の親分かよ。どれだけ道を踏み外したら気が済むんだ――ん?」


 ふとランクスはカシアをジッと見つめ、ニヤリと不吉な笑みを浮かべた。


「そういやカシア、オレたちが来る前に魔物を『倒せなかったら』、村の雑用を一ヶ月やるって約束したよな?」


「え? ……あっ」


 ここへ来る前のやり取りを思い出し、カシアは「しまったぁぁ!」と絶叫しながらその場で悶絶する。


 後悔を露わにしたカシアにランクスが近づくと、腕を組みながら目を合わせ「逃げんなよ」と釘を刺してきた。

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