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   ランクスの狙い


    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 昼前に村へ戻ってきてから、ランクスはカシアの特訓をエミリオに押しつけて、村の外れにある訓練場へと足を運ぶ。


 より多くの者が己を鍛え、手合わせできるようnに村の広場よりも大きく作られており、いつも農作業などを終えた村人たちが午後からやって来る。そのため、今の時間に人がいることは少なく、悠々と剣を振るうことができた。


 だが、今日は珍しく先客がおり、彼はランクスに気づくと槍を振るうのをやめてこちらを見た。


「よお、リーンハルト。こんな時間に訓練なんて珍しいな。いつもは森で獣や魔物を狩って、エマさんの所へ運んでるのに」


 朗らかに挨拶してランクスが手を挙げると、リーンハルトは無愛想な顔を向けてくる。


「お前が来るのを待っていたんだ。ランクス、少し時間を貰うぞ。カシアのことで話がしたい」


 昨日のやり取りで、なにか言い出すだろうとは思っていたが、案の定だったな。あー面倒くせぇ。

 ランクスは煩わしそうに息をつくと、リーンハルトの前に立った。


「安心しろよ。師匠たちの攻撃に巻き添えは食らってねーし、気圧されるどころか反発してやる気が上がっていたし、まったく問題なかったぞ」


「それは結果論だろう。……それよりも、私が聞きたかったのはまた別のことだ」


 別のこと? 予想がつかずランクスが頭を悩ませていると、リーンハルトが言葉を続けた。


「アイーダたちから経緯は聞いた。お前からカシアに鍛えてやろうと言い出したらしいな。魔物退治の依頼を押しつけるために、鍛えてやったんだと言っていたな?」


「ああそうだな。それがなんだって言うんだ?」


 それは事実だとランクスは軽くうなずく。

 リーンハルトはためらいがちに、ゆっくりとした口調で尋ねた。


「……ランクス、本当の目的はなんだ?」


 ランクスの顔から表情が消える。

 しかし挑んでくるようなリーンハルトの視線を逃げずに受けとめ続ける。


 沈黙して平静を取り戻すと、ランクスは頭を掻きながら口を開いた。


「別に。こんな娯楽の少ない村に、いいヒマつぶしが来たと思っただけだ。深い意味はない」


「暇つぶしの割には、少し焦っているように見受けられるが? これがカシアと同じ強さの別人だったら、ギード師たちの戦いぶりを見せたのか? いや、それはないはずだ。今までこの村に来た者たちには、もっと強くなってから見せるようにしているからな」


 確かにリーンハルトの言う通り、今のカシアと同じ力量の別人ならば、このタイミングでギードたちの戦いを見せたりはしない。

 あまりの現実離れした強さに自信をなくし、強くなることを諦める者が実際に何人もいる。死人は出ていないが、流れてきた斬撃や魔法でケガをする者もいる。見学させるだけでも、かなりの技量は必要だ。


 ランクスはため息をつくと、険しい表情を浮かべる。


「あまり突っ込んだことは聞かないでくれ。……まだ誰にも言えないんだ」


 ここでリーンハルトに真意を伝えることができれば、どれだけ気が楽になるだろうか。

 けれど、言えば取り返しのつかない状況になるかもしれない。


 今の流れを変える訳にはいかない。

 次第に有無を言わせまいとして、ランクスの目に力が入っていく。


 こちらの思いを察してくれたのか、リーンハルトは怪訝そうな顔をしながらも「そうか」と引き下がってくれた。


(ったく、変なところで細かいことに気づくヤツだな。他の連中だったら気にもとめないぞ)


 そんなことを思いながらもランクスは口にせず、「せっかくだから、稽古の相手になってくれ」と剣を構えた。


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