表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/79

   そろそろ試練を受ける時



 エマの食堂に足を踏み入れると、カウンターにはエミリオやリーンハルト、アイーダが雑談をかわしていた。

 カシアとランクスに気づき、彼らは話すのをやめて二人に目を向ける。


「カシア、今日もギードさんに挑んできたの? いつもコテンパンにやられてるのに、全然めげないわね。感心、感心」


 朗らかに笑うアイーダへ、ランクスが眉をひそめる。


「頼むからコイツを煽らないでくれ。すぐ調子に乗って無茶しやがるから」


「ええ。カシアは浮かれると周りが見えなくなりますからね。魔法を教えるのが面倒になりますよ」


 エミリオが相槌を打っているところへ、ランクスがその隣に座る。

 カシアも座ろうとしたが、ランクスの隣は面白くなかったので、敢えてリーンハルトとアイーダの間に座った。


 厨房のほうから「もうちょっと待っててねー」とエマの声が飛んでくる。肉を焼いているのか、香ばしい臭いが店内に広がり、カシアの空腹を加速させた。


「ところでランクス、エミリオ。カシアの特訓はどこまで進んでいる?」


 腕を組んで椅子に深く腰かけていたリーンハルトが、不意に口を開いた。それを受けてランクスは苦笑を浮かべる。


「最初はオレが手を抜いた攻撃でも防ぐことで精一杯だったが、今は少し本気を出しても反撃できるぐらいには成長したな。村に来る魔物も一人で退治できるようにはなったし……。腕力はないが、素早いからオレの服をかすることはたまにあるぜ」


 確かに以前よりもランクスの動きについていけるようにはなったし、ランクスが本気を出してくる瞬間もある。だが、まだ体に傷をつけたことがないので、今はそれがカシアの中で当面の目標となっていた。


 表情を変えずに今度はエミリオが口を開く。


「魔法はまだまだ初級の域を抜け出ていないですよ。ただ、火や氷の攻撃魔法も、回復や結界の魔法も覚えてくれました。順調に半端者になってますよ」


 最後の一言は余計だろうが。

 無言でカシアがこめかみに青筋を立てていると、リーンハルトがわずかにうなった。


「それぐらいの力がついたなら、そろそろ正式にストラント村の住人になるための試練を受けてもよさそうだな」


「試練って……なにをやるんだ?」


 カシアが首をかしげると、アイーダが「懐かしいわね」と大きく息をついた。


「この村に住む力があるかを試すために、近くにいる魔物の群れを一人で倒すのよ。私の時は森でグリフィンを二十体ほど引き連れた魔王を倒したんだけど、結構あっさり片付いたわよ」


 軽々と言っているが、鷲と獅子を合わせたような魔物のグリフィンは、カシアが一匹倒すだけでも苦戦する魔物だ。魔王クラスともなると、まだ相手にしたこともない。しかもアイーダは魔法も武器も使わず、素手のみで二十体――改めて彼女の強さを思い知る。


 今の自分にそんなことができるのか? とカシアが自問自答を始めたところで、ランクスが「お前は特別だろうが」とぼやいた。


「アイーダみたいな無茶をする必要はねぇが、確かにそろそろ試練を受けても大丈夫とは思う」


「それなら隣のブリジッド地方で弱小魔王と魔物の一味が現れているらしいですよ。ゴブリンばかりが集まっているようですから、カシアの試練にはうってつけだと思いますよ?」


 エミリオの提案に、ランクスたちが各々うなずく。

 勝手に話を進められて訳が分からなくなっているカシアに、ランクスは含みのある笑みを向けた。


「じゃあ今度、カシア一人でそいつらを退治してもらおうか。まともに戦えるか、オレとエミリオが見届けてやる」


「待て、私も同行しよう。お前たち二人に任せておくのは、少し心もとないからな」


 リーンハルトの意見に、ランクスとエミリオが少し不快そうに眉根を寄せる。おそらく「口うるさいのが来んのかよ」「面倒ですね」と思っているのだろう。


 この二人の面白くなさそうな顔を見ると、気分がスッとする。

 カシアが小さく嘲笑を浮かべると、それを見たランクスが「うわ、可愛くねぇ」と小声で吐き捨てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=755204208&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ