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三章 修行の成果は即実行!

 絶え間なく続く薪割りの音が、森や村の中、夕空へと響き渡る。

 自分の庭で黙々と斧を振り続けるギードの顔に、疲れた様子はまったくない。動きが鈍るどころか、汗ひとつかいてはいなかった。


(よしよし、アタシには気づいていないな)


 ギードから少し離れた所にある木にカシアは身を隠し、気配を殺しながらニヤリと笑う。

 腰の短剣――シルフィーの剣の柄に手を置き、音を立てないように鞘から抜く。カシアがうっかり精霊を呼ぶ石に触れてしまわぬよう、鍛冶師が金属のカバーを被せたため、柄の先にある青い石は銀の輝きに変わっていた。


 ランクスたちから「精霊は使うな」と禁止令を出されてしまい、使おうとすれば口やかましく説教されるので、カシアも渋々従っている。しかし精霊を使えないのは残念だったが、手にしっくり馴染むこの剣がカシアは気に入っていた。


 新たな薪を置き、ギードが手斧の刃を軽く食い込ませる。

 その瞬間、カシアはその場を飛び出した。


「ジジィ、覚悟しろ!」


 素早くギードの背後に迫り、カシアは右手をかざす。

 内からこみ上げてきた魔力を、ギードの手を狙って放つ。


 直後、手斧や薪と一緒にギードの手が、大きな氷の塊に包まれた。


(やった! この新しく覚えた氷結魔法、ギードに効いた!)


 まずは相手の武器を封じて、攻撃力を減らすこと。つい最近ランクスから教わったことだった。

 利き手を封じて武器を使えなくさせれば、勝機が見えてくるはず。カシアはそう信じ、ギードを斬りつけようとした。


「フンッ、小賢しいマネを」


 鼻を鳴らしながらギードが振り向く。その顔に焦りの色はない。


「こんなもの、俺には効かん」


 グッと凍ったほうの腕に、ギードは力を込める。すると呆気なく氷は砕け、利き腕が解放されてしまった。


「マジかよ、これも効かないのか!」


 動揺するカシアに、ギードの裏拳が飛んでくる。

 避けきれず――ドォンッ! カシアの胸元に衝撃が走る。


 地面から足が離れ、カシアの体は真後ろの木まで飛ばされた。

 背中を強打し、思わずカシアは咳き込む。しかし、これぐらいで弱音を吐いていられない。


 胸に手を当て、即座に回復魔法をかけて痛みを消すと、カシアは再び剣を構えてギードへ挑もうとした。


「おい、カシア! 今日はそこまでだ」


 真横からランクスの声が飛んでくる。

 勝負の邪魔をされてカシアが苛立たしげに舌打ちすると、ランクスの手が伸びてきて頭を小突かれた。


「ったく、どうしてお前さんはいつもいつも、新しいことを覚えたらギード師匠に挑んでいくんだよ?」


「当然だろ。アタシの目標はギードに勝つことなんだ。新しく覚えたことが通じるかを試さなくてどうするんだ」


 まだ鼻息が荒いカシアを見やり、ギードは無言で踵を返す。

 小屋へ入ろうとするギードの背中を、カシアは「待ちやがれ!」と追いかけようとする。だが、襟首をランクスにつかまれて足をとめられた。


「待ちやがれ、はこっちの台詞だ。まだ特訓を始めて三ヶ月しか経ってないんだぞ。いくら回復魔法が使えるからって毎度ギード師匠に挑んでいたら、強くなる前に体が壊れちまうぜ」


 真っ当な意見だがカシアは素直にうなずけず、ランクスを恨めしそうに睨みつける。

 ランクスはその目を気にせず、「ほら、メシの時間だぞ」とカシアを引きずってギードの小屋を後にした。

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