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   精霊いわく、生理的に嫌


 しばらくして「エミリオさん、大変だよ!」と言う少年の声が聞こえてきた。

 カシアが見やると、少し離れてカシアたちを見ていたエミリオの隣に、村へ来た時に見かけた少年が並んでいた。


 フワフワした金髪に幼さを残した丸い目と、うっすら紅潮した頬。顔だけ見れば裕福そうなお坊ちゃんという容姿だ。しかし薄汚れた服と手に持った家畜用のブラシが村の牧童だと強調している。


「ディーノ、どうしたのですか?」


 焦る少年ディーノとは対照的に、エミリオは平然と尋ねる。

 わずかに呼吸を整えてから、ディーノはカシアたちを指さした。


「あの二人とめたほうがいいよ! 精霊たちが怒り始めてる」


 声を聞いてランクスが「ちょっとタンマ」と手合わせを中断し、ディーノへ振り向いた。


「その話、本当なのか?」


「僕が嘘ついてどうするの。さっきからここらにいる風の精霊たちが、僕に『あんな弱くて乱暴な者に使われたくない』『なんか生理的に嫌』とか言ってくるんだよ。今もずーっと僕の耳元で騒いでるんだ」


 遠慮ない物言いに、カシアはムッとなりディーノを睨みつけた。


「誰が弱くて乱暴で、生理的に嫌だって? どうせ悪態つくなら、精霊なんてモノに頼らずテメーの言葉で直接言ってこいよ。そもそも、アンタの耳元にはなにもいないだろ。見え見えの嘘をつくな!」


 怒鳴っても怯える素振りさえ見せず、ディーノは目尻を押さえながら首を振った。


「うわー……理性のないバカ。風の精霊が一番嫌がるタイプの人間だ。他の精霊も毛嫌いしちゃうだろうね」


「まだ言うか、この嘘つき!」


 さらに怒りで頭が熱くなるカシアとは対照的に、ディーノは冷え切った視線を送ってくる。


「僕は精霊使いだから、空を泳ぐ精霊たちを見ることができるんだ。今、君にも見えるようにしてあげるよ」


 そう言うとディーノは片手を上にかざし、小さく早口でなにかをつぶやく。

 するとディーノの頭上にひとつ、ポウッと丸くて淡い光が群青に灯る。それを皮切りに、次々と光の珠が生まれて一帯に広がった。


 カシアが周りを見渡すと、己の近くにある光球はすべて赤みがさしていた。群青の光球に比べると、やけに動きは速く、落ち着きなくウロウロしている。

 ごくり、とランクスの喉が鳴った。


「本当に怒ってやがる……カシア、その武器はやめておけ。精霊の力を借りなくても強い武器は、ここには山ほどあるからさ」


 カシアは手中の短剣をチラリと見て、口端を上げて笑う。


「ここで引き下がったら負けじゃないか。単に扱うのが難しくなるってだけだろ? それなら意地でも使いこなしてやる」


「おいおい、こんなところで意地を張るなよ。どうしてお前さんはそう、困難なほうへ進もうとするんだ。ちょっとは自分の適性を考え――」


「うるさい! もう一勝負だ」


 問答無用でカシアはランクスを斬りつける。

 二度、三度と剣を交えるたびに、周囲の光球は赤みを増していく。


 光が深紅に変わった時――ランクスへ飛びかかろうとしたカシアに、下から強力な風が突き上げる。

 腹を強く押される感覚とともに、カシアの体が高く舞った。


「うわあああああっ!」


 大きな放物線を描いて、カシアは村を飛び越えて森のほうへと消えていった。

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