最弱と強すぎる武器
朝食を終えてからカシアはランクスたちと合流するために、村はずれにある丘へ小走りで向かう。
カシアが丘へ到着するとランクスとエミリオがすでに待ち構えていた。彼らの足元には様々な剣や杖、鎧や衣服といった物が小山を作っている。
よく見てみると、どれも細工が華やかだったり地味でも重厚感があったりして、見た目に強そうな印象を受ける。しかし中には錆びや泥が付着した物も混じっており、お宝の山のはずが、乱雑になり過ぎてゴミ山に見えてきてしまう。
「よお、来たなカシア」
こちらに気づいたランクスが手を振ってくる。それとは対照的にエミリオはただ目を向けただけで、なんとも素っ気ない態度を取ってきた。
馴れ合うつもりはない。カシアは彼らに近づくと、挨拶もせずに足元の武具や防具を指さす。
「ソレ、一体なんだ? まさか武器の手入れから教えるつもりかよ?」
「んなモンは後回しだ。ここにあるのは、村のヤツらがいらなくなった武器や防具だ。魔物退治で各国を飛び回るから、色々なアイテムを見つけたり、褒美を貰ったりして、前から使ってた得物がいらなくなることがあるんだよ。でも愛着があって捨てられねぇから、物置に放ったらかしてあったヤツだ」
言いながらランクスは上の方にあった剣を二本手に取り、鞘から引き抜く。
「この刀身が黒いヤツはブラッドスカルソード、こっちの柄が竜の頭になってるヤツはドラゴンキラー……どっちも古の英雄が愛用していたっていう由緒正しい剣だぜ。試してみるか?」
あまりカシアは剣のことには詳しくなかったが、どちらも刃から威圧感が漂っており、とてつもない威力があるのだろうと期待が膨らむ。
「じゃあ、そっちの竜のヤツを使ってみたいな」
「ああ、いいぜ。これぐらい強力な武器なら、お前さんでも斬撃を飛ばせるはずだ。オレらぐらい強くなれば、そこら辺にある錆びた剣でも、クワでも出せるけどな」
斬撃を飛ばす? 一瞬意味が分からずカシアは頭をひねる。と、村へ来た時にギードがクワを振るった風圧で仲間を吹っ飛ばしていたことを思い出す。
(あんなことがアタシもできるようになるのか。……ククッ、手が滑ったフリして、ランクスにぶつけてやろう)
内心ワクワクしながら、カシアはランクスから剣を受け取る。
ずっしりとした重さが両腕にかかり、カシアは思わず体勢を崩した。
「コ、コレ、すごく重いな」
「そうか? オレがいつも使ってる剣とそんなに変わんねぇぞ」
ちくしょう、負けてたまるか!
カシアは足を踏ん張り、剣を大きく振り上げ、ブンッと虚空を斬る。
その刹那――カシアの体が大きく後ろへ吹っ飛んだ。
「わああああっ!」
勢いで手から剣は離れ、カシアだけが空に弧を描いて落ちていく。
下へぶつかると思った瞬間、地面から突風が吹いてカシアの落下が抑えられる。
ゆっくりと体は落ちていき、地に足がついたところで風はやんだ。
その場でぽかんとなるカシアへ、ランクスが「大丈夫か?」と駆け寄る。その後ろをエミリオが髪を掻き上げながら、悠々とした足取りでやってきた。
「いきなりこの様ですか。まったく、手を焼かせてくれますね」
「今の風……なんだったんだ?」
カシアの問いに、エミリオは少し意外そうに目を丸くしてから、「一般人なら知らなくて当然ですか」とつぶやいた。
「私は魔導師。魔法で風を呼ぶくらいは造作もありませんよ」
素直に「魔法って便利だなー」とカシアが驚いていると、エミリオがランクスの頭を叩いた。
「バカですか貴方は。なんの修行もしていない最弱のカシアに、百戦錬磨の剣士が扱うような武器を渡すなんて」
叩かれた頭をさすりながら、ランクスが不満げに唇を尖らせる。
「だって最弱だからこそ強い武器を最初からあてがったほうが、足らない力を補ってくれていいじゃねーか」
「少しは考えるんですね。力が弱いってことは、剣に威力があり過ぎれば力負けするということ。斬撃を前に飛ばそうとすれば、反発して後ろへ向かう力も生まれる。それを堪える力がなければ、力が跳ね返って無様に吹っ飛ばされて当然です。最弱には最弱にあった装備が必要でしょうが」
エミリオのため息交じりの意見に、ランクスはパンッと手を叩いて「なるほど。最弱だもんな」と快く納得していた。
そんなやり取りを傍から見ていて、カシアはこめかみに青筋を立てて二人を睨む。
(最弱最弱って連呼するな! ちくしょう、今に見てろよ。強くなったら必ずお前らもブチのめしてやるからな)
悪態が喉から出かかっていたが、カシアはどうにか呑み込む。好き勝手言われて面白くないが、ここでケンカを売って目の前のお宝を逃したくなかった。