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   これからの日常を目の当たりにして


 その時。ふと、いくつもの大きな影が村に落ちていることに気づく。

 その影には翼があり、円を作ってグルグルとその場を回り続けている。


 一見すると鳥に見える。

 しかし影は家一軒を丸々覆う大きさだ。


(鳥? こんな大きな鳥、見たことないぞ?)


 カシアは目を細めて空を見上げる。そこには獅子と虎の頭を持ち、大きな翼を羽ばたかせている鳥が六頭ほど旋回していた。

 生まれて初めて見たが、カシアはそれが何なのかを肌で感じる。


 あれは鳥じゃなくて、魔物だ。

 目を大きく開いたまま上空を凝視するカシアに、ランクスがクククと喉で人の悪そうな笑いを奏でた。


「言い忘れてたが、村の近くに魔界へ通じる洞窟があるんだ。だから、あんなキマイラみたいな魔物がしょっちゅう村を襲ってくるから気をつけろよ。この村じゃあ、自分の身は自分で守ることが鉄則だからな」


 説明されている間に、魔物たちが村へ降りてくる。

 その光景に驚いた様子もなく、ランクスはカシアを見やると、村を顎で指した。


「口で言うより見たほうが早い。カシア、村へ戻るぞ」


 こちらが答える前にランクスが村へ歩き始めたので、カシアも少し距離を空けて後へ続く。


 丘を降りていくと、村の中では何人もの村人が魔物に応戦していた。

 剣を持つ者、杖を持つ者ばかりではなく、なぜかフライパンやお玉を手にしたおばちゃんや、釣り竿を持った小さな老人もいる。そして長い甘栗色の髪を結った素手の女性――アイーダの姿もあった。


 のどかだった村は、突如として戦場と化していた。


 最も魔物に接近していたのは、素手のアイーダだった。しかも怖がるどころか、目が嬉々として輝いていた。


「たぁっ!」


 威勢のいい声とともに繰り出された正拳が魔物を打ち、その巨体を大きく後ろへ飛ばす。その隙におばちゃんがフライパンで魔物の頭を殴打する。

 他にも目をやると、魔物が振り下ろした爪を村人が草刈り鎌であっさり受け止めていたり、杖の先や手の平から放った炎で魔物をこんがりと焼いたりしていた。


 苦戦どころか、村人たちは一方的に魔物を倒していた。日々の家事や農作業をこなすかのように。

 ああ日常なんだな、と素直にカシアは理解した。そしてこれが自分の日常になるのだと思った瞬間に言葉を失う。


 半開きになった口をそのままにカシアが村を見つめていると、隣に並んだランクスが背中を叩いてきた。


「この村に残ると決めたこと、後悔すんなよ?」


 誰が後悔なんてするか!

 ……と言い返す余裕などあるはずもなく、ただ、ただ、カシアはその場に立ち尽くし続けた。

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