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   妙なしおらしさ


 カシアが拳を強く握って己に怒りをぶつけていると、アイーダが膝を屈めて目を合わせてきた。


「ねえカシア。ランクスから聞いたんだけど、あなた盗賊やってたらしいけど……これに懲りて足を洗ったほうがいいわよ。命がいくつあっても足らないわ。もし盗賊をやめるって約束してくれたら、一人で生活していけるだけのお金と一緒に、近くの町へ送り届けるわよ。どう?」


 静かにアイーダの言葉に耳をかたむけ、しばらく沈黙した後にカシアはコクリとうなずく。


「……うん、盗賊やめるよ。アタシがこの村へ行こうって言い出したから、仲間が危険な目にあったんだ。今さら合わせる顔なんてないから」


「よかった。大の男たちが怯えるギードさんに、倒れるまで挑み続けた根性があるんだもの。カシアだったらどこでもやれるわ」


 嬉しそうな声を出すアイーダとは反対に、ランクスは「怪しい」と不信感いっぱいにうなる。


「妙にしおらしすぎる。なに企んでんだ?」


「同感ですね。どうにも不自然に見えますよ」


 ずっと黙っていたエミリオが、無遠慮に疑いの眼差しをカシアへ向けた。

 顔を上げて、カシアは目に力を入れて三人を見据えた。


「アタシは好きで盗賊になった訳じゃないんだ。ここらが潮時だなって思ったら、気が楽になったんだよ。それに、もう意地を張っても意味がないしね」


 こちらの表情を読もうとしているのか、ランクスとエミリオは訝しげにカシアを見つめ続ける。

 と、アイーダが間に入って彼らの視線を遮った。


「カシアが盗賊をやめるって約束したんだから、もういいじゃない。これ以上問い詰めるって言うなら、私にも考えがあるわよ」


 口元に笑みを浮かべながら、アイーダはランクスたちを睨みつける。その迫力に気圧され、男二人は後ずさった。彼らの顔にうっすらと怯えが浮かんでいるのを見て、カシアの気分が少し晴れた。


「ありがとう、アイーダさん」


 心から礼を言うと、アイーダはカシアに「どういたしまして」とウィンクした。

 ランクスが「やれやれ」と息をついてから、カシアに話しかける。


「傷はエミリオの魔法で完治してるが、まだ体力は回復してないハズだ。大人しくここで休んでいるんだぞ」


 口うるさいな、と思いながらもカシアは顔に出さず、神妙な表情を作る。


「分かってる。でも……えーっと、ランクスさんだっけ? ちょっとお願いしたいことがあるんだ」


「なんだ? オレを殴らせろっていうのは勘弁してくれよ」


 そうしたいのは山々だが、今はガマンとカシアは激しく首を振る。


「違う違う。アタシがここで休んでいる間に、昨日のことをジジ……いや、ギードさんに謝りに行きたいんだ。だから、ギードさんがどこにいるのか教えて欲しい」


 カシアが頭を下げてみせると、ランクスは目を丸くして「本当にらしくないな」と漏らす。が、アイーダに無言で睨まれ、慌てて「分かった」と口にした。


「オレが案内してやるよ。いつがいいんだ?」


「できれば今から行きたいんだ。ずっと横になってるのも辛いから」


 そう言ってカシアは布団をまくり、ベッドの端に腰かけてからゆっくりと立ち上がる。まだ体に虚脱感は残っているが、歩く分には問題なかった。


「いいぜ、ついてこいよ。今ならギード師匠、庭で薪割りしてると思う」


 ランクスが手招きしてから踵を返して歩き始める。「ああ」と返事をしてから、カシアも後ろに続いた。


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