第6話、もはや異世界にスマホは常識か?
「……『スマホ』、じゃと?」
「ええ、『スマホ』です」
毎度お馴染み、ケンブリッジ大学史学部量子魔導研究室にて、性懲りもなく、ためになるのかならないのかわからない、熱い『異世界転生』談義を闘わせている、室長のスター教授と、僕こと唯一の研究員であるハリスンであったが、今日に限っては何とも微妙な雰囲気をかもし出していた。
──なぜなら僕の質問が、異世界転生について語るには、あまりにも突飛すぎたのだから。
「……この研究室の現在における最も重要な研究目標は、『異世界転生そのものや、異世界における様々なファンタジー的現象を、SF的視点によって科学的に論証する』と言うものですが、これに関してはまず大前提として、そもそも異世界における、人々の暮らしぶりから国家規模の文化文明の『科学的発展の度合い』が、どの程度のレベルにあるのかが、問題になってくると思うのですが?」
「確かにそうじゃな、基本的には現代日本のWeb小説あたりでよく言うように、『中世ヨーロッパ程度の文化レベル』といったふうに、ぶっちゃけ『科学的色合い』なぞほとんど見受けられない、素朴な剣と魔法のファンタジーワールドということになるのだろうが、何度も言うように一口に『異世界』と言っても、量子論的には無限の『タイプ』があり得るのであり、それこそ我々の現代社会よりも、はるかに科学技術が発展を遂げている、SF的未来社会そのものの異世界だってあり得るだろう。──そう言った論理的可能性を鑑みれば、基本的には中世ヨーロッパレベルの剣と魔法のファンタジーワールドでありながらも、一方で現代社会並みの科学技術も混在しているという、『魔法と科学のハイブリッドワールド』だって、存在していても構わんだろうよ」
「──と言うところで、肝心の『最初の質問』に戻るんですが、最近の日本産のWeb小説等でよく見られるように、剣と魔法の異世界にスマートフォンのような、まさしく『オーバーテクノロジー』とも言い得る、科学的ガジェットが存在していても、構わないってことですね?」
「……う〜ん、私としても、今後異世界ならではの超常現象を、現実性を損なうことなく科学的に実現するためにも、スマホがあったほうが何かと便利だから、是非ともその存在を認めたいところなんじゃがなあ」
「もしかして、何か問題でも?」
「──最近日本産のWeb小説の影響か、スマホ等の最新の科学技術からなるガジェットが、普通に存在している異世界が目につくようになったのだが、何と論理的裏付けなぞほとんど無く、なぜスマホがその世界に存在しているのか、理由や原理をきちんと説明できる者がいないのだよ」
………………………………………は?
「ええと、教授、それってまさか、『メタ』的な話ですか? 『最近のWeb小説が間違いだらけで、作中の異世界人たちが迷惑を被っている』とか何とかいう」
「何を今更、言っておるんだ? すでに説明したろう、量子論や集合的無意識論や、何よりも本作独自の『ギャルゲ理論』に則れば、可能性の上ではこの現実世界以外に、あらゆるタイプの異世界が存在し得て、『あらゆる』と言うことは、既存か未知かにかかわらず、Web小説等の個々の創作物そっくりそのままの異世界も、一つ一つが必ず存在することになっていると。──つまり最近の日本の創作界のように、『何の理由もなくスマホが存在している異世界』を描いたWeb小説を作成すれば、本当に『何の理由もなくスマホが存在している異世界』が、存在してしまうことになるのじゃよ」
「はあ? 何の理由もなくスマホが存在してしまうなんて、そんな馬鹿な⁉」
「……これもすべては、何度も何度も言うように、ほとんどのWeb作家が、自分の頭で考えて作品を創っていないからなのじゃ」
「ほんといい加減にしろよ、あいつら! いくら他の作品において認められているからって、何の理由も無く、自分の作品の中の異世界にスマホを登場させるような、頭の悪いパクリ行為ばっかりするんじゃねえよ⁉」
「そうじゃ、すべての問題は、そこに帰結するのだ。──そしてだからこそ、独自に考えられた正当な理由さえあれば、異世界にスマホが存在しても、何の問題も無くなるわけなのじゃよ」
「異世界にスマホが存在していてもいい、独自かつ正当な理由ですって?」
「左様、私自身としては、異世界にスマホがあること自体は、けして否定しないが、『他の異世界(=Web小説)にスマホがあるんだから、うちの世界(=作品)にもスマホがあっても、別に構わないだろう』という、(創作者として)『思考停止』した考え方(=二番煎じやパクリ)は厳に慎むべきであり、もし己の世界(=作品)にスマホを存在させるとしたら、それなりの『理由』を、あくまでも(それぞれの作者が)『自分で考える』べきなのだよ」
何でわざわざ台詞内に(括弧)を多用して、各方面にケンカを売るような真似をしているんだよ⁉
「……それで、その、『それなりの理由』と言うのは?」
「いくら現在においては『スマホ容認』の空気が優勢だからって、戦国時代の日本そのままの異世界にスマホが存在するのは、どう考えても不自然じゃろう? やはりそこには何らかの、(その作品ならではの)『独自の』理由が必要と思うのだ」
「……う〜ん、それって、むしろ異世界としては一般的な『中世ヨーロッパ』的な世界観の場合も含めて、『現代日本人が異世界転移をした際に、一緒に持ち込んだ』では駄目なんですか?」
「駄目に決まっているだろう? 忘れてもらっては困るが、質量保存等の物理法則に基づけば、スマホどころかその持ち主自身が、現代日本から肉体丸ごと別の世界へ、異世界転生ならぬ異世界転移をしてくることなんて、けしてあり得ないというのが、我が量子魔導研究室における基本的考え方だろうが?」
……あ、そういえば、そうでした。
「それから、『ネットに接続できるかどうか』という、問題もあるぞ?」
「……確かに、最初はほとんどの世界(作品)において、『常識的に考えて、異世界では現代日本のネットに接続できるはずはない』という、考え方(作品)が主流を占めていたのに、昨今ではいつの間にか、『異世界でもネットに接続できて当たり前』といった、考え方(作品)ばかりになってきてますよね」
「これもただ、先行した異世界(作品)をなぞっているだけの、『悪しき例』じゃな。もしも異世界でネットに接続ができるようにしたいのなら、各異世界(作品)において、それなりの論理的根拠を設けるべきだろう」
「……ああ、例えば先ほど教授がおっしゃっていた、『魔術と科学とのハイブリッド化』なんかが実現している異世界とかですね?」
「そうそう、ちなみに私が想定している理想的な異世界においては、まさに我が研究室がその名に冠している、『量子魔導』構想に基づいて、科学技術と魔法技術とのハイブリッドの産物である、新たなるハイブリッド異世界そのものの基盤をなす、『量子魔導システム』自体が、集合的無意識論や量子論に則って構築されていることになっているゆえに、そこで一般的に使用されている量子魔導スマートフォンにおいても、集合的無意識を介することによってこそ、現代日本のネットに接続できるようになっており、実はこの特性を持つからこそ、次回以降に紹介する予定の、ゲーム脳的な異世界(作品)でお馴染みの、『ステータスウィンドウ』等についても、この世界(作品)では量子魔導スマホを使って表示することになっているんじゃよ(露骨な宣伝)」
「そういえば、そうでしたね。──わかりました、それでは最後に、これまでに述べたことをまとめておきましょう。もはやすべての異世界においては、そこが中世ヨーロッパ風世界観であろうが戦国日本風世界観であろうが、普通にスマホが存在していて、ネット接続を始めとする、普通のスマホ並みの諸機能はもちろん、それぞれの異世界ごとに独自の機能を付加しようが、何ら問題はありませんが、単に『他の異世界にもスマホやネット環境があるから』といった他力本願ではなく、ちゃんと(おのおのの作品の作者が自分自身の頭で考えることによって)スマホやネット環境が存在するにふさわしい論理的根拠を確立させておく必要がある──といった感じでよろしいのですね、教授?」
「うむ、これに関しては、現代日本におけるWeb作家の皆様にも、是非とも参考にしていただきたいところであり、どうぞ御一考のほど、よろしくお願いいたします♡」




