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ケンブリッジ大学史学部シリーズ  作者: 881374
第二章、これぞ最も現実的な異世界転生の実現方法だ⁉
5/22

第2話、織田信長。(後編)

「──もう、いい加減にしてもらいたいよ!」


 ケンブリッジ大学史学部の誇る、我が量子魔導クォンタムマジック研究室の奥ほどに置かれている、応接用テーブルを挟んで、私の対面のソファに座っている人物は、いかにも堪りかねたようにして、不快極まる表情で吐き捨てた。


 今回私の自慢の試作量子コンピュータを土台ベースとする、新開発の『異世界転生マシン』の記念すべき最初の稼働実験によって、この2019年のイギリスへと転生してきたお方ときたら、何だか『異世界転生』に関して憤懣やるかたなしといった、思いがあられるご様子であった。


 ──それではこれより、詳しく話を聞いていくこととしよう。




「……それで、貴殿は自分が、かの『織田おだ信長のぶなが』であると、言い張るわけなのじゃな? 並み居る日本の戦国武将の中でも、一際ひときわ有名な」




 私の今ひとたびの念押しに、何ら躊躇することなく大きく頷く、目の前の男性。


「そうだ。──しかし、問題なのは、俺が信長かどうかでは無く、あの忌々しき『転生者』どものほうだ!」


「……忌々しいって、皆さんこぞって、貴殿のことを、心底慕っておるわけなんじゃろう?」




「慕いすぎなんだよ! 何で現代日本から『戦国転生』してきた転生者のやつらって、武将になるのも商人になるのも政治家になるのも技術者になるのも芸人になるのも、全部俺に頼ってくるんだよ⁉ 後世の評価はどうだか知らないけれど、俺はただの戦国武将なんだ! どんな願いでも叶えてやれる、それこそ異世界転生や世界そのものを司っている、Web小説とやらお得意の『女神』の類いなんかとは違うんだよ⁉」




 ……あー、なるほど。

 戦国時代における、織田信長の人気は群を抜いていて、それこそ日本のWeb作品においては無数に取り上げられているから、それを読んだことがあったら、もしも戦国時代に異世界転生をすることになった場合、右も左もわからない状況において、いの一番に頼るべきは、何と言っても織田信長──ってことになるんじゃろうなあ。


 しかも信長と言えば、特にその『先進性』で有名だから、転生者ならではの『現代日本人としての記憶や知識』を応用した、戦法や商法や政策や工法や演技法なんかを披露して、役に立ったり気に入ってもらったりすれば、大出世の道が開かれる可能性が大いにあり得るってことで、とにもかくにも転生者たちとしたら、信長にすがりつかざるを得ないってわけなのじゃろう。


 ……ま、確かに、信長自身としたら、堪ったものではないだろうから、のべつ幕なく戦国時代に転生してきて、自分にまとわりついてくる転生者たちを、現代日本にいる時点で、『戦国転生』モノのWeb小説における『信長偏重』路線を是正させること等によって、むやみやたらな『織田信長贔屓(フィーバー)』を抑制してくれと言うのも、一見道理に適っているようじゃが──。




 おそらくは玉石混交の有り様の転生者たちとはいえ、実は文字通り磨けば光るのであり、結局は信長側の使()()()()なんじゃがのう。




 ──そんなことを密かに考えていれば、『信長』氏のほうは、ますます怒りを募らせながら、言葉ぐちを続けていく。


「……そもそも、現代日本における『信長フィーバー』がいい加減なものに過ぎないのは、明々白々なのだ。──その最たる例が、『前世が織田信長』と嘯く輩が、ごまんといることだ!」


 ──ほう。

 これは()()()()()()、話の流れになったではないか。


「ふむ、それは、どうしてかのう?」


「どうしてもこうしても、あるか! 普通、俺を前世に持つ者は、一人っきりに決まっているだろうが⁉ つまり『自分の前世は織田信長である』なんて言っている輩は、ほぼ全員が大法螺吹きってわけなんだよ!」


 私の狡猾なる誘導に、まんまと乗ってくる、『信長』氏。

 ……ふふ、もはやこっちものじゃて。




「──いいや、そんなことはないぞ? 実はこの現代世界における物理学の中核をなす量子論や、ユング心理学の誇る集合的無意識論に則れば、ある一人の歴史的著名人を前世に持つ現代人が何人いようと、別におかしくはないのじゃよ」




「………………………………は?」


 自分が何を聞かされたのか、理解できなかったのか、一瞬とはいえ呆けきった顔で、完全に静止してしまう『信長』氏。


「──いやいやいや、そんな馬鹿な! 何で物理学や心理学に則ると、俺を前世に持つやつが、大勢いても良くなるんだよ⁉」


 とはいえ、すぐに再起動して、私へと血相を変えて食ってかかってきた。


 だから私は、至極丁寧に、『世界の真理』というものを、ご披露してあげたのだ。




「実はじゃな、『前世が織田信長』と言っても、別に本当に貴殿の生まれ変わりである必要は無く、ただ単に、『織田信長としての前世の記憶』さえ持ってればいいのじゃよ」




「……え、それって、どういうことだ? 俺の生まれ変わりでも無いのに、俺としての前世の記憶を持っているだと? そんなことがあり得るのか?」


 そして私はそれに対して、栄えある量子魔導クォンタムマジック研究室の主任教授であり、『異世界転生マシン』の発明者として、()()()()()()()()()()()()を、口にする。




「あり得るも何も、そもそも『生まれ変わり』なんて、あるはずがないではないか?」




「──いやいやいや、それを言っちゃ、おしまいだろ⁉ ていうか、まさに世界をまたいだ『生まれ変わり』である、異世界転生そのものを、否定してしまったようなものじゃないか!」


「……あのなあ、実は世界というものは、量子論──特に多世界解釈に則れば、最初からすべて存在しているし、そして最後の最後まですべての世界が、消滅もしなければ改変すらもされることなく、ずっとそのままの姿で存在続けるのであって、もしも戦国時代が、現代日本からタイムトラベルしたり異世界転生したりして移動できる、『別の独立した世界』だとしたら──いえね、普通戦国時代というのは、現代日本と地続きの『現代日本の過去の時代』に過ぎないはずなのじゃが、昨今の日本のWeb小説にみたいに、あんなに馬鹿の一つ覚えに『戦国転生』が当たり前のようにして実行できるとなると、現代日本とは別個に独立した、『異世界の一つ』ということになってしまうのじゃよ。そうすると当然すべての世界の中で、『織田信長』と呼び得る人物は、現在確固として存在する『戦国時代という名の異世界』の中に存在している織田信長ただ一人だけとなり、多世界パラレルワールド解釈的には、()()()()()()()()()現代日本にとってはパラレルワールドにおいて()()()()()()()()()織田信長の『生まれ変わり』なんて、存在するはずがなくなるのじゃ」


「そ、そりゃそうだよな! だったらここにいる、俺は何者だって話になるしな! 自分たちで散々SF小説やラノベやWeb小説で、『()()()織田信長』を登場させているんだ、それで現代日本にまで『織田信長の生まれ変わり』なんかがいることになったら、完全に矛盾しているだろうよ!」


「ああ、まさにこの今回のエピソードがいい例じゃろう。ギャグだかシニカルだか知らんが、こうして織田信長を登場させておいて、その一方で『生まれ変わり』も存在しているなんて、欲張りにもほどがあるってものじゃよ。いやあ、ご理解いただけて、良かった良かった♡」


「……ちょっと待て、『生まれ変わり』そのものが絶対にあり得ないというのに、さっきあんたが言っていたように、現代日本人が『織田信長としての前世の記憶』を持っていることなんてあり得るのか?」


「あり得るあり得る、なぜなら、貴殿はさっき、『生まれ変わり』があり得ないなら、『異世界転生』だってできないのでは? ──とか何とか言っておったが、実は『生まれ変わり』はできなくても、『異世界転生』自体は、それこそ量子論に引き続いて今度は集合的無意識論に則れば、ちゃんと実現できることになっているので、これと同じ方法をとればいいだけなのじゃ」


「は? 集合的無意識論って……」


「そもそもだねえ、現代物理学の『質量保存の法則』その他の物理法則──つうか、世間一般の常識に則れば、複数の世界の間を、人間等の物質が丸ごと物理的に転移できたりするわけがなく、タイムトラベルとか異世界『転移』なんかが、実現できるはずがないんじゃよ」


「──ぶっちゃけたな、おい⁉ あんたこの瞬間に、出版界のほとんど全員を、敵に回してしまったんじゃないのか⁉」


「しかし、それに対して、異世界『転生』なら、その実現可能性はけして否定できないのじゃ。だって単なる普通の異世界人のお子さんが、ある日突然自分のことを、『現代日本人の生まれ変わり』だなんて世迷い言をほざき始めようとも、それが本当なのかただの妄想なのか、誰にも判断できないし、そういう意味からも、リアリティ的には何ら問題は無いわけではないか?」


「……今度は、Web小説界のほとんど全員を、敵に回した、だと?」

「この、実際に世界の間を物理的にも精神的にも転移することなく、しかも『生まれ変わる』ことすらせずに、『異世界転生』を実現する方法、それはこの現代世界におけるユング心理学の言うところの、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』がすべて集まってくるとされる、すべての世界における全人類共通の超自我領域たる、『集合的無意識』にアクセスすることによって、ある特定の現代日本人の『記憶と知識』が脳みそに刷り込まれてしまって、それがまさしく『前世の記憶』のようなものになって、自分のことを『現代日本人の生まれ変わり』と思い込むようになるといった次第なのじゃ」


「集合的無意識って、何だそりゃ?」


「極簡単に言うと、『先人の知恵の集積』みたいなもので、世に言う『天才発明家ならではの閃き』は、ここに偶然アクセスすることによってもたらされたとも言われており、別に全然荒唐無稽な超常的代物ではなく、人間誰しも何かの拍子にアクセス可能な精神的領域であって、ぶっちゃけて言えば、『夢の世界』そのものだという説もあるのじゃ。それだったら文字通り、誰でも夜寝るだけでアクセスできるじゃろう?」


「ゆ、夢だと?」




「例えば現代日本人が、戦国時代において織田信長になってしまうという、非常に詳細に描かれた現実そのままの夢を見たとしよう、普通の者だったら、単なる夢としてすぐに忘れてしまうだけじゃろうが、思い込みが激しい者だったら、『こんなに詳細でリアルな夢が、ただの夢のはずがない、これぞ前世の記憶なんだ! 俺は織田信長の生まれ変わりだったんだ!』と、あらぬことをわめきだすなんて、十分あり得るとは思わぬか?」




「──っ、それって、まさか⁉」


「そうなのじゃよ、現代日本において、『俺の前世は信長だ』なんて主張している者のほとんどは、単なるでまかせじゃろうが、本気で信じ込んでいる者たちに関しては、こうして夢を見る形で集合的無意識にアクセスを果たして、『織田信長としての記憶と知識』を己の脳みそに刷り込まれて、それを『前世の記憶の復活』と見なしてしまっているわけなのじゃ」


「うおっ、そういう言い方をされると、これまで単なる眉唾物のオカルト話と思っていたものが、途端に信憑性が跳ね上がってしまったぞ⁉」


「そしてだからこそ、貴殿は自分にばかりまとわりついてくる、『自称現代日本からの転生者』の皆さんを、邪険に扱ったりせずに、むしろ厚遇すべきなのじゃ」


「へ? どうして?」


「やれやれ、先程も言っただろうが、『集合的無意識へのアクセスとは、「天才ならではの閃き」みたいなものだから、一応誰にでもアクセスできる可能性がある』と。──でもこれって逆に言えば、『天才でなければ、夢で垣間見る等の偶然以外には、アクセスはほぼ不可能』ということになり、そして天才というものは『1%の才能と99%の努力』でなれるものであり、つまり、何かの発明や発見を目標にして、不断の努力を重ねて最後の最後に獲得することのできる、『奇跡的な閃き』こそが、『集合的無意識へのアクセス』そのものなのであって、これまた先程述べたように、複数の世界間を転移することはけしてできないのだから、貴殿にまとわりついてきている『自称転生者』の武将や商人や芸人たちは、生粋の戦国時代の人間でありながら、その道を究めに究めた結果、奇跡的に集合的無意識とのアクセスを果たし、『現代日本の知識』という、戦国時代のレベルを超越したスキルを手に入れたのであり、彼らの力を利用できるとしたら、他のどの戦国武将よりも遙かに優位になれて、永らく続いた戦国の世を制して全国統一を成すことすらも、けして夢ではなくなるわけなのじゃよ」


「──っ!」


「どうじゃ、これでも貴殿にまとわりついてくる者たちのことを、邪険にするつもりかな?」


「あ、いや、たとえ気に入らないやつだろうが、本当に役に立つのなら、その業績に合わせて取り立ててやるよ、それこそが俺のポリシーだからな」


「そうじゃろうとも、何せ、彼らが単なる戦国時代の人間に過ぎず、『現代日本からの転生者』というのが、妄想みたいなものでしかないのは、他ならぬ貴殿こそが、一番良くご存じのはずだしな」


「え? それって、どういう……」




「だから、何度も申しておるじゃろう? 複数の世界の間を転移することなんて、誰にもできないと。──だったら今、この戦国時代なんかではない、21世紀のイギリスにいる、現代日本の前世マニアたち同様に、自分のことを『織田信長』であると主張している、貴殿は一体、何者なんじゃろうな?」




「……俺が、何者だと? お、俺は、『織田信長』に、決まっているだろうが⁉ …………いやでも、何で戦国武将であるはずの俺が、こんなどう見ても未来の世界の、しかもくにであるエゲレスなんかにいるんだ? …………わからない、一体何がどうなっているのか、誰か俺に教えてくれ!」




 自分の『記憶』と、現在置かれている周囲の『状況』との、あまりの差異ギャップの大きさに、とうとう頭を抱えて煩悶し始める、自称『織田信長』氏。


 そんな『()()()()彼』の有り様が、とても見ていられなくなった私は、ようやく救いの手を差し伸べる。




「──目を覚ましたまえ、()()()()()、『実験』は終了じゃ!」




 あたかも日本の国技の相撲における『妙技』の一つである『猫騙し』そのままに、我が唯一の助手の顔のすぐ前で柏手を打てば、途端に我に返る、二十歳はたち絡みの白衣の青年。


「…………あ、あれ、スター教授? 僕は、一体──」


「おお、喜べ、ハリスン君! 実験は、大成功じゃぞ!」


「実験て………………ええっ、『異世界転生』が、本当に実現したのですか⁉」


「そうじゃ、見事な()『戦国転生』じゃったぞ? 君のほうは意識を失っている間、どうだったのじゃ?」


「……僕のほうですか? そうですねえ、何か『長い夢』を見ていたような気がします。──そう、確か日本の戦国時代において最も有名で、私自身もゲームで知って大ファンになった、『織田信長』になって、彼の人生をそのまますべて、なぞっていた夢を」


「──‼」


 そうか、そういうことか。


 何でイギリス人の研究者であるハリスン君が、日本の戦国時代の武将なんかになったかと思っていたら、元々ゲームを通してのファンだったからか。


 そりゃそうだよな。


 確かに集合的無意識には、古今東西のありとあらゆる人物の『記憶と知識』が存在しているが、まったく関係ない人物の『記憶と知識』が、偶然宿るとは考えられないからな。




 しかもより重要なのは、彼が『信長の()()()()()()』と、思い込んでいることじゃ。




 これは『異世界転生マシン』によって集合的無意識に強制的にアクセスさせられて、『織田信長の人生におけるすべての記憶と知識』を脳みそにインストールされたのが原因じゃが、たとえインストールするのに一瞬しかかからなかったとしても、すべての記憶がちゃんと脳内にあるから、あたかも夢の中で信長自身となって、彼の全人生をトレースしたような記憶を持つようになること──極論すれば、事実上日本の戦国時代に織田信長として『戦国転生』をして、彼自身としてその人生を全うしたも同然となるのじゃ。




 ……くくく、これは、思わぬ誤算じゃて。


 現実世界において現代人の身に、『異世界人』や『戦国武将』の『記憶と知識』をインストールすることで、事実上の『異世界人や戦国武将としての前世返り』──異世界人や戦国武将からしてみれば、『現代日本への異世界転生』を実現させるだけのマシンのつもりじゃったのだが、同時に事実上、現代人を異世界や戦国時代に転生させることにもなるとはのう。




 これは次回からの『各種実験(エピソード)』においても、いろいろと予想外の結果が期待できようというものじゃ。


 読者の皆様におかれても、本作のこれまで以上のバラエティ豊かな作品シリーズ展開の実現を、どうぞご期待なさってください!

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