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ケンブリッジ大学史学部シリーズ  作者: 881374
第二章、これぞ最も現実的な異世界転生の実現方法だ⁉
4/22

第1話、織田信長。(前編)

「──はあ? 『異世界転生』を実現するマシンですってえ⁉」




 久し振りに、本当に久し振りに、職場のケンブリッジ大学史学部の時空間研究室改め、『量子魔導クォンタムマジック研究室』を訪れてみると、上司であるスター教授は相も変わらずいかにも自慢げに、僕に向かってとんでもないことを言い出したのである。




「そうじゃ、ハリスン君、見たまえ、わしの自信作を!」


 彼が得意満面で指し示した研究室の壁際には、巨大な試作量子コンピュータと接続された、コールドスリープでもできそうなカプセル型のベッドが鎮座していた。


「──ちょっ、それって前にも登場した、仮想現実シミュレーションマシンではないのですか⁉」


 トラウマレベルの思い出が、大量に脳裏によぎる。


 それはほとんど『フラッシュバック』とも、呼び得るものであった。


 ……また目覚めた途端、まったく別の世界に送り込まれたりしたら、堪ったもんじゃねえぜ。


「うん?…………ああ、違う違う! 確かにハード的な組み合わせはほとんどそのままだが、中身──つまりソフトウェアのほうは、完全に別物になっているんだよ!」


「……ほんと、ですかあ?」


「ほんとほんと! まあ、騙されたと思ってさあ、いつものようによろしく頼むよ♡」


「──いつもいつも、本当に騙されてひどい目に遭っているから、嫌なんですよ! それに何ですか、いきなり『異世界転生』とか宗旨替えして、うちの研究室の最大のテーマは、『タイムトラベル』の実現じゃなかったのですか⁉」


「だって、今回この作品が突然何の前触れも無く、しかも前後の脈略をガン無視して復活したのは、ひとえに『第七回ネット小説大賞』の一次選考を通過したからだし、ここは『郷に入っては郷に従え』に則って、『なろう系』を目指すことにしたんじゃよ。………それに、タイムトラベルについても、ネタが無くなったことだし」


「何その、メタ丸出しの理由⁉ しかも最後には、本音がぽろっと出ているし!」


「まあまあ、本当はキミだって、興味くらいあるんじゃないのか? 何せ『異世界転生』は、昨今のWeb小説界においては、最大の『トレンド』じゃからな」


「……まあ、いい加減食傷気味ですが、いまだ人気ジャンルであるのは、間違いないですね」


「そうじゃろうそうじゃろう、何せどんな引きこもりの社会不適合者でも、何の苦労も無く、剣と魔法のファンタジー世界において『勇者』になれて、ハーレムを築いてモテモテになれるんだからな!」


「言い方! 何か異世界転生系の作品の主人公の現代日本人が、他力本願かつ運任せの、人間のクズみたいに聞こえるではありませんか⁉」


「異世界行ってから本気出すくらいなら、リアルでももう少し真面目に生きろって言うんだよ」


「ヤメテ! わかりました! わかりましたから! もうこれ以上、暴言かまして、各方面に無駄にケンカを売らないでくださいよ⁉」


 いろいろな意味で手遅れにならないうちに、僕は慌ててカプセルベッドの中に潜り込んだ。


「そのように最初から、素直に言うことを聞いておればいいのじゃ、手間をとらせおって!」


「……何か、悪党の常套句みたいになっていますよ? それはともかくとして、本当にこんなインチキSF臭いマシンなんかで、僕はこれから異世界に行けるのですか?」


「ああ、悪い、説明が足りなかったか。このマシンはシステム上、被験者自身が異世界に行くのでは無く、別の世界の者がこの世界に転生してくる際の、『受け皿』となるための装置なのじゃよ」


「へ? ちょっとおっしゃっている意味が、いまいちわからないのですが……」


「あくまでも君の立場で言えば、『異世界の勇者』とか『日本の戦国武将』とかの、『前世の記憶』が甦って、いわゆる『前世返り』することを促すマシンなのじゃよ」


「え? 何で『前世返り』を促す装置が、『異世界転生』を実現するマシンってことになるのですか?」


「異世界人からすれば、現代のイギリスという『異世界』において、君という別人に『生まれ変わる』のだから、これも立派な『異世界転生』というわけなのじゃ」


「そ、そりゃあ、イギリスは異世界人からしたら異世界に当たるでしょうが、てっきり僕自身が異世界に転生できると思っていたのに、何か詐欺にでも遭ったような……」


「ちなみに、戦国武将の前世の記憶が甦る場合には、いわゆる『戦国転生』の逆ヴァージョンということになるのじゃ」


「あれ? 待ってください。このマシンによって『前世の記憶』が甦るということは、僕ってこれから、『異世界人』や『戦国武将』に、自分の精神を乗っ取られるということなんじゃ……」


「──さあ、早速実験をスタートしよう!」


「ちょ、待てこら、このマッドサイエンティストが⁉」


「真理の追究には、犠牲は付き物なのじゃ、むしろ光栄に思うがいいぞ?」


「ふ、ふざけるな…………あ、あれ、意識がだんだん、遠のいてきたぞ」


「くくく、どうやら実験は成功のようじゃな。おやすみ、ハリスン君。──『新しい君』に、目覚めるためにな♡」


「──お、覚えてろよ⁉ このクソ教授ううう〜!」


 それが僕があくまでも『僕』自身として口にした、最後の言葉となったのである。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──ここはどこで、おまえは一体誰なんだ?」




 しばらくしてから再び目覚めたハリスン君は、文字通りまったくの別人であるかのような、鋭い目つきと鋭い口調で、上司である私ことスター教授に向かって問いただした。




「う、うむ、ここは西暦2019年(今回の『なろう系』への路線変更に則して変更)のイギリスの、ケンブリッジ大学史学部の量子魔導クォンタムマジック研究室であり、私は室長兼主任教授のスターと申す者じゃが、そういう貴殿はどなた様であろうか?」


「……エゲレスだと? すると貴様は紅毛人というわけか? 俺はわり織田おだ信長のぶながと申す者だが、何ゆえもとにいたはずの俺が、くにであるエゲレスにいるのだ?」


「なっ、織田信長じゃと⁉ つまり転生は転生でも、一般的な異世界転生では無く、『戦国転生』の逆ヴァージョンというわけか⁉」


 少々特殊な形とはいえ、一応実験としては大成功を収めたことで、喜びに浮かれていれば、『信長』氏が突然カプセルベッドから立ち上がり、私へと食ってかかってきた。


「異世界転生だってえ? そうか、貴様か! 貴様が諸悪の根源だったのだな⁉」


「ちょっ、苦しい苦しい、いきなり胸ぐらを掴み上げないで! 何か知らんが、わしが異世界転生の実験を行ったのはこれが初めてであり、貴殿から恨みを買う覚えはないぞ⁉」


「ぬ、それは真か?」


「まこと、まっこと、だから落ち着いてくれ!」


「……良かろう、ただし、事情を詳しく聞かせてもらうぞ?」


「それはこっちも望むところじゃ。交渉成立ということで、まずそちらから教えてくれ。──そもそも何で戦国武将であるはずの貴殿が、『異世界転生』のことをご存じだったのじゃ?」


 そんな私の至極当然なる問いかけに対して、さも忌々しげに顔をしかめながら、


 戦国武将としては、とても信じられない爆弾宣言を言い放つ、目の前の『転生者』。




「そりゃあ、知ってるさ。何せこれまで、うんざりするほど目にしてきたのだからな。──自分のことを『現代日本からの転生者』だと言い張る、ふざけた者どもをな!」

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