最終話、むしろ『なろう系の主人公』たちが、逆転生してきたりして⁉(後編)
「……何言っているのよ、あんた? スター教授って、こことは別の世界の『イギリス』っていう国において、最初の『転生マシン』を発明した、ご本人のことでしょうが?」
「──おおっ、このような異世界の地にまで、我が名が知れ渡っておるとは、光栄じゃな!」
「ちょっと、いつまでふざけるつもりなの? あくまでも別の世界の歴史上の科学者であるスター教授が、この世界において存在し得るわけがないでしょう?」
同僚の突然の豹変に激しく動揺しつつも、努めて理性的振る舞おうとするものの、その努力は、あっさりと踏みにじられた。
「──そんなことはなかろう、君たち同様に、私自身が発明した『転生マシン』さえ使えば、いいだけの話ではないか?」
なっ⁉
「……『天使』、あなた、自分自身に『転生マシン』を使ったわけ?」
「ほっほっほっ、どうやらこの御仁は、『正しいタイプの科学者』であったようでな、ちょうど私自身も21世紀のイギリスで『転生マシン』でダイブしていたから、これ幸いと乗っ取らせてもらったのだよ」
「──そんな、馬鹿な⁉ 別々の世界の人間が、たまたま同時に『転生マシン』を使うなんてことが、あるわけないじゃない! それにさっきも言ったけど、あなたはずっと大昔の、『歴史書の中のみの存在』なのでしょうが⁉」
「……まったく、異世界転生の実践的研究者のくせに、基本中の基本もわきまえていないとはのう。いいかな? 実はあらゆる世界は、『一瞬のみの時点』に過ぎないゆえに、別々の世界間においては、お互いにあらゆる時点に転移できるのであって、まったく別々の世界で『転生マシン』を使用中の者同士でアクセスし合うことも、別の世界においてすでに死亡が確認されている者に対してアクセすることも、自由自在にできるのじゃよ。──何せ我がケンブリッジ大学史学部は、元々『タイムトラベル』こそを最大の研究目的にしているのだ、たとえ『異世界転生』であろうとも、『時間的問題』の解決なぞ、お手の物というわけじゃ」
──そ、そういえば。
「それで、いろいろな異世界のいろいろな時点において、私自らが製作のためのデータを与えた『転生マシン』が、どのように使われているかについて、情報をフィールドバックしていたら、この世界においてとても看過できないような、文字通り『神の摂理』に背いた実験が行われていることを知ってね、一言注意を促しに来たわけじゃよ」
「……ふん、『神の摂理』とは、科学者にしては、ロマンチックであられますこと。注意を促しに来られたと申されますが、一体何ほどのことがおできになられるわけですか? 同じ『転生マシン』と言っても、そちらが原始的なプロトタイプでしかないのに対して、こちらはファンタジーワールドならではの魔法技術をも融合させた、最新鋭の『量子魔導』型なのですよ? 勝ち目なぞありますまい」
そのように絶対的自信に基づいて勝ち誇ってみたものの、目の前の同僚に身をやつした『世紀の科学者』は、むしろほとほとあきれ果てたかのように、大きくため息をついた。
「……やれやれ、私の言っていることを、まったく理解していないようじゃな。──こうなりゃ『論より証拠』じゃ、見てみい」
「え…………って、えええええっ⁉」
広大な研究所内のあちこちから聞こえてきた異音に振り向けば、何と巨大な培養槽が次々に開放されていき、蜘蛛やスライムが這い出てきて、しかもスケルトンは合体して元通りの姿となり、ドラゴンの卵に至っては、孵化予定日はずっと先のはずだったのに、赤ちゃんドラゴンが元気に飛び出してくるといった始末であった。
──しかも、
『おらおら、研究員どもは邪魔立てせずにどいていないと、機械類と一緒に粉々にしちゃうぞ?』
『こっちは別の世界でちゃんと、蜘蛛やスライムやドラゴンのポテンシャルを完全に把握しているんだから、最初からフルパワーで行くよお!』
『悪いけど、二度とこんな馬鹿な真似をしないように、設備も研究データも、すべて破壊しちゃうからね♡』
束縛を離れて自由を謳歌するかのように、大暴れを開始するモンスターたちであったが、これまでの狂乱状態なぞではなく、しっかりした意思を感じさせて、何と人語すら操り始めたのだ。
「──って、こいつらもかよ⁉」
続け様に次々に開けられていく、私のすぐ目の前にある、多数の棺桶そっくりな『転生マシン』。
「──いやっふー! 無限に『死に戻り』を繰り返した俺様に、もはや怖い物は無いぜ! ついてこい、『パクリ死に戻り野郎』ども!」
「「「『パクリ』はやめてください、せめて『フォロワー』と呼んでください」」」
自分自身と同様に転生者……というより転生物である、『転生聖剣』を手にして、高らかに宣言する、オリジナルの『死に戻り少年S』と、パク……じゃなかった、自称『フォロワー』のおっさん連中からなる、二番煎じ三番煎じの『死に戻り野郎』たち。
そして、人間とモンスター一体となった、研究所の徹底的な破壊活動が始まった。
「──一体、どういうことなの? 何で培養槽や転生マシンが勝手に開放されて、不完全な転生状態だったモンスターや死に戻りたちが、理性的でありながらも、元気いっぱいに破壊活動に勤しみ出すわけ? まさかこれもすべて、あなたの仕業とか言い出すつもりじゃないでしょうね⁉」
こんな異常極まる状況だというのに、いかにも訳知り顔でニヤニヤと笑っている、同僚の皮を被った『侵略者』に対して、我を忘れて食ってかかった。
「おや、これが私の仕業じゃなかったら、むしろ驚きじゃろうが?」
「だったらどうして、プロトタイプの『転生マシン』なんかで、こんなことができるわけ⁉」
「だからさっきも言っただろうが? 別の世界にアクセスできるということは、『いかなる世界のいかなる時点』にでも、アクセスできるということだと。つまり最も原始的な『転生マシン』であろうとも、この世界なぞ足元にも及ばないまでに、科学技術や魔法技術が発展した、未来世界や異世界にアクセスして、真に最先端の技術を取得することだって、自在に為し得るのじゃよ。──何せそもそもが、未知のより優れた『叡知』を手に入れるためにこそ、私は『タイムマシン』や『転生マシン』の製作に、心血を注いできたのじゃからな」
「なっ⁉ 『転生マシン』に、そんな使い方が⁉」
「君は『異世界転生』にこだわるあまり、異世界転生とタイムトラベルとが、原理的に同じものであるという、基本的な真理にすらも、到達することができないでいたのじゃよ」
「だ、だったら、あのモンスターや死に戻りたちの変わり様は何なの⁉ あんなむちゃくちゃな異世界転生を──モンスターへの転生や異世界転生を利用した無限の『死に戻り』を、あんなにも理想的に実現することができた世界なんて、本当に存在しているわけ⁉」
「おや、君だってようくご存じじゃろうが? 君自身、何度も何度も、『聖典』とか呼んでいた世界のことじゃよ」
「……『原典』て、『小説家になろう』──つまりは、現代日本における、『なろう系』作品のこと?」
「──そうじゃ、あのモンスターや死に戻りたちに宿っている魂は、それぞれ『なろう系』作品の世界から、異世界転生してきているのじゃ!」
……何……です……って……。
ど、道理で、非現実的までに、御都合主義で、イケイケだと思ったわ!
「──いやいや、何ですか、『なろう系』から転生してきたって? 小説の世界から、それぞれの『主人公』が、このリアルな世界に転生してきたとでも言うつもりですか⁉」
「あれ? これについても、何度も何度も述べたつもりじゃが、異世界というものは無限のタイプがあり得るのじゃから、ある特定の小説そっくりそのままの現実の異世界もちゃんと存在しており、その世界の中にちゃんと存在している、『主人公』そっくりそのままの人物を、『転生マシン』を使って別の世界に異世界転生させることだって、十分に可能じゃろうが?」
「何よ、もはや何でもアリじゃん、『転生マシン』って⁉」
「そうじゃよ? 元々量子論や集合的無意識論に則れば、どのような超常現象でも実現できるのであって、いくらリアリティがどうのといちゃもん付けようとも、無限の異世界の中に、『小説家になろう』に公開されているすべての作品そっくりの現実の世界が、もれなく存在し得ることは、誰にも否定できないのじゃよ」
「──‼」
量子論や集合的無意識論に則れば、すべての『なろう系』作品が、現実に存在することになるですってえ⁉
「まあ、そう言うわけじゃから、これからはけして、既存の『なろう系』作品を逆手にとって、悪用したり的外れないちゃもんを付けたりすることは、厳に慎むことじゃな。──もちろんこれは、科学者としてだけでは無く、一般的な作者や読者としての、『マナー』についても同様じゃがな♡」




