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ケンブリッジ大学史学部シリーズ  作者: 881374
第二章、これぞ最も現実的な異世界転生の実現方法だ⁉
11/22

第8話、完璧なる嘘発見器。

「──ところで教授、この量子魔導クォンタムマジックスマートフォンて、『ステータスウィンドウ』や『属性名』の表示以外には、どんなことができるのですか?」


「……む、いきなり何だね、ハリスン君」




 毎度お馴染みの、ケンブリッジ大学史学部の誇る、最新鋭の量子魔導クォンタムマジック研究室にて、前回紹介された、異世界系Web小説等においてよく見られる、ファンタジーワールドならではの『魔法的イベント』を、この現実世界においてもリアリティを一切損なうことなく実現させることができるという、人呼んで『量子魔導クォンタムマジックスマートフォン』をいろいろといじくりながら、当研究室所属の唯一の研究員である僕は、直属の上司で室長のスター教授に向かって、ふと頭に浮かんだ素朴な疑問を問いかけてみた。




「いえね、このスマホの原理からしたら、いかにもゲーム脳なWeb小説的ギミックだけではなく、もっと一般的な超常的能力である、『未来予測』とか『読心』とかも、十分実現可能かと思ったんですよ」


「おお、さすがは我が助手、相変わらず目の付け所がいいな! 確かに異世界において使用することを目的に開発された、科学技術と魔法技術とのハイブリッドの申し子、量子魔導クォンタムマジックスマートフォンは、かの『ユング心理学』で言うところの、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってきているとされる、『集合的無意識』と常に接続状態にあるからして、例えば自分のすぐ目の前にいる人物の『記憶と知識』がどういったものがあり得るのか、あらゆる可能性を計算して、ほぼすべての解答を算出シミュレートし、まさしく『読心』そのままなことを実現できるし、元々原理的に量子コンピュータそのものであり、それに加えて魔法という『反則技』すらも組み込まれているゆえに、『未来予測』についても、ある意味完璧にこなすことができるであろう。──しかしじゃなあ、その『完璧』であることこそが、問題だったりするのじゃよ」


「へ? 何で、『完璧』だったら、まずいんです?」


「何度も何度も言うように、わざわざ量子論なぞ引き合いに出すまでもなく、ごく普通の一般常識的にも、未来というものには無限の可能性があるからして、まさにその未来を対象にしている『未来予測』はもちろん、ある人物にとっての、例えばほんの一瞬後とはいえ、『未来』における『思考パターン』は無限にあることになって、『読心』においても、答えを一つに絞り込むことができなくなるのじゃよ」


「……ああ、なるほど、おっしゃりたいことがわかりました。真に理想的な量子コンピュータとも言い得る、この量子魔導クォンタムマジックスマホは、量子の超次元的性質を有するゆえに、無限に存在し得る、世界そのものの『未来のパターン』や、ある特定の人物の『未来の思考パターン』に対して、そのすべてについて予測計算シミュレーションして、完璧に弾き出すことはできるけど、我々は別に『すべてのパターン』を知りたいのではなく、最も適切なる『唯一絶対の解答』を知りたいのであって、残念ながらそれを得ることは、論理的にできないってわけなんですね?」


「そうそう、無限にあり得る『未来のパターン』や『思考パターン』を、たった一つだけ的中させることなんて、神様にだって不可能じゃろう。この量子魔導クォンタムマジックスマホとて、実現する確率の高い、上位4つをリストアップして、画面内に表示するのが関の山じゃ」


「いや、無限にあり得る未来のパターンを、4つにまで絞り込めるなんて、それだけでも大したものですよ! つまり後は僕たち人間が自分の頭で考えて、答えを出せってことなんですね?」


「……う〜ん、それも確かに、『正解』()()()なんじゃがのう」


「な、何ですか、その、いかにも含みのあるおっしゃりようは?」


「……実はの、このスマホって、使い方によっては『裏技』的に、唯一絶対の解答では無いものの、それはそれで使用者にとっては、非常に役に立つ情報をもたらすことができるのじゃよ」


「はあ? 裏技的使い方、ですって?」




「一言で言うと、未来予測に関しては、『完璧なるリスク回避』であり、読心に関しては、『完璧なる嘘発見器』じゃよ」




「へ………………………って、完璧なるリスク回避に嘘発見器、ですってえ⁉」




「まず『リスク回避』についてじゃが、これって下手すると、長編小説一冊分くらい語っても語りきれないかも知れないから、また別の機会に話すことにしよう。──まあ、『天気予報は、晴れる確率よりも、雨の降る確率のほうが、より重要である』ということを、頭の片隅にでも覚えていてくれたまえ。それに対して『嘘発見器』のほうは、話は簡単じゃ。人が現在心の中で思っていることを、ズバリただ一つだけ当てることなぞ、量子コンピュータはおろか神様にだって不可能じゃが、的中可能性の高い候補を4から10ほどリストアップして、量子魔導クォンタムマジックスマホの画面上に表示することなら、どうにか可能じゃろう。──それで、『嘘』というものは、当然実際に口に出すことになるから、それとスマホに表示された『本当の思考』候補と比較すれば、その真偽のほどをはかれるというわけじゃよ」




 ──‼


「な、なるほど! 嘘っていうのは当然実際に口に出さなければ意味が無いから、スマホの画面上に4つほど表示されている『本当の気持ち』と、ざっとでいいから見比べると、その言葉が嘘か本当くらいは見分けられるってわけですね⁉ すごい! これって異世界だけでなく、この現実世界においても大量生産して売りさばけば、大金持ちになれるかも知れませんよ⁉」


「……やはり君も、そう思うかね?」


「そりゃそうですよ、こんなの普通の人たちはもちろん、警察や軍隊等なんかも、喉から手が出るほど欲しがるんじゃないですか?」




「すまんが、生憎私自身は、この世界にしろどのような異世界にしろ、量子魔導クォンタムマジックスマートフォンが完璧な嘘発見器になり得ることは、絶対に秘密にして、誰にも使わせないようにするつもりなんじゃ。──何せ、私はまだまだ、死にたくはないからな」




 ──!


「な、何ですか、その、『死にたくない』から、せっかくの完璧な、量子魔導クォンタムマジックスマホの嘘発見器機能を、すべての世界において、けして使わせないって⁉」


「うんうん、君の言い分はもっともじゃ。──これ以降ちょっとメタ的な話になるが、今まさにこの作品をご覧の、日本におけるWeb小説の関係者の皆様におかれても、非常に疑問に思われていることだろう。その多くは、Web小説や商業ラノベの愛読者であられるだろうし、場合によっては、自ら『嘘を見破るスキル』を題材にした作品を作成されたことがある、小説家(予備軍)の方も含まれているかも知れぬしな。──それでは、なぜに私は、量子魔導クォンタムマジックスマホに元から備え付けの、『読心機能』を利用するだけで可能となる、『真に理想的な嘘発見器機能』を絶対的に禁止しようとしているのか? それをこれから微に入り細に入り、語っていきたいと思うのじゃ」


「──ちょっ、何でいきなり、読者の皆様に向かって、語りかけ始めてるんですか⁉」


 そんなぼくのツッコミの言葉なぞ完全に無視して、更に滔々と言を紡いでいく、スター教授。




「そもそも『人の嘘を見破るスキル』なぞ、Web小説や商業ラノベにおいては、それほど珍しいものではなく、むしろ定番の一つと言っても良いじゃろう。



 例えば──


 日常的な恋愛等の、男と女の駆け引きの場において。


 ギャンブルやテーブルゲーム等の、心理戦中心の勝負の場にいおいて。


 権謀術策渦巻く、政治家や官僚や王侯貴族たちの、権力闘争の場において。


 弁護側と検察側が知力の限りを尽くして対峙する、法廷の場において。


 海千山千の魑魅魍魎が跋扈する、商取引の場において。


 国際紛争等を解決するための、国家間の交渉の場において。


 すでに戦争状態下での軍師や参謀としての、戦略立案の場において。


 ──数々のWeb小説や商業ラノベの主人公たちが、『人の嘘を見破るスキル』を駆使して大活躍してきたことは、皆さん良くご存じのことであろう。



 なのに、何ゆえ私は、量子魔導クォンタムマジックスマートフォンであれば余裕で実現し得る、『人の嘘を見破るスキル』を絶対的に禁止しようとしているのか?




 ──それは上記で紹介したような、『人の嘘を見破るスキル』をテーマにしたWeb小説や商業ラノベの類いが、学校や職場という一般社会から逃げ出して、自分の部屋にひきこもって、ゲームやネットや二次元美少女ばかりにうつつを抜かしていき、完全にゲーム脳な妄想癖に成り果てた、世間一般の常識はもちろん、『世界や人間にとっての真理』というものをまったくわきまえていない、ヒキオタニートの作家連中の手によって生み出された、単なる世迷い言の産物に過ぎないからなのじゃ。




 こういった、夢見がちなゲーム脳作家たちは、世間の荒波にもまれたことが無いから、人間というものを完全には理解できておらず、既存の『二次元美少女』を基にした、奇怪で歪なキャラクターしか生み出せずにいるのじゃ。


 例えば、こうした『人の嘘を見破るスキル』をテーマにした作品にありがちなヒロインとして、『生まれてから一度も嘘をついたことの無い、純真無垢そのままの美少女』なんて輩がよく見受けられるが、そんな悪い意味で『純粋培養の深窓の令嬢』なんかが存在するわけがないし、もし存在したとしても、実社会の中では3秒たりとて生きていけないじゃろう。




 ──なぜなら、人間というものは、日常的に嘘をつかなければ生きていくことのできない、哀しい生き物なのだから。空気を吐くとともに嘘を吐き続けている、醜い生き物でしかないのだから。




 そもそも『嘘』とは、他の獣たちのような鋭い牙や爪を持たない、我々人間にとっての、この弱肉強食の世の中において生き延びていくための、唯一の『武器』なのじゃ。




 それを無効化できる『人の嘘を見破るスキル』は、まさしく人類そのものを無力化するも同然で、そんな自分たちの『存在基盤』を揺るがしかねない文字通り『悪魔のスキル』を持った存在なぞを、果たして周囲の者たちは見逃してくれるであろうか?



 ──否、おそらくは、地域社会どころか、国家どころか、それこそ異世界においては人間とか魔物とかの種族すらも超えて、全世界的に全力をもって、根絶やしにしようとしてくるであろう」




 そのようにようやくにして、あたかも地の文を乗っ取るかのように、いかにも芝居じみた長文を言い終える教授であったが、こちらとしてはとても納得のいくものでは無かった。



「たかが『人の嘘を見破るスキル』を持っているくらいで、一個人を世界を挙げて潰しにかかってくるなんて、そんな馬鹿な⁉」


 堪らず大声で食ってかかってくる助手に対して、しかしその教授殿は少しも動ずることなく、むしろ穏やかな口調で話を続けた。




「『()()()人の嘘を見破るスキル』じゃと、とんでもない! Web小説や異世界の出来事だからといって、他人事とばかり見なさずに、君もちゃんと一度、我が身に置き換えて考えてみるがいい。──果たして君は、自分のほんの身近にいる、家族や、恋人や、友人や、クラスメイトや、職場の同僚等々のすべてが、常に自分の嘘を見抜けるというのに、平穏に生活していくことができるかね?」


「──っ」


 た、確かに、教授の言うように、人間にとっては『嘘をつくこと』とは、一種の社交術──つまりは『生きるすべ』なんだから、普通に生活していく上でも、四六時中嘘をつかずにはおられないというのに、そのことごとくを周りの人たちに見破られているかも知れないなんて、下手すると発狂してもおかしくはないぞ⁉




「どうやらようやく、わかってくれたようじゃな? ──まあとにかく、結論としては、『人の嘘を見破るスキル』なぞを持っていたところで、異世界はもちろんこの現実世界においても、要らぬ混乱や争いを生じさせるだけなので、我が量子魔導クォンタムマジック研究室においては、私と君との総意として、ここで開発に成功した量子魔導クォンタムマジックスマートフォンが、使いようによっては『完璧なる嘘発見器』となることについては、その事実を未来永劫封印することとする──ということなのじゃよ」

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