第7話、ステータスウィンドウを実際に表示する方法。
「……教授、何を研究をそっちのけで、スマホばかりいじくっているのです? いくら課金をぶっ込んでも、ショタ○督とは『ケッコンカッコカリ』はできませんよ?」
その日いつものように、ケンブリッジ大学史学部量子魔導研究室へと訪れてみれば、室長であり、僕こと唯一の研究員であるハリスンの直属の上司である、スター教授が、あれだけ執念を燃やしていた異世界転生の実験を放り出して、一心不乱にスマホの画面にかじりついていたのである。
「何で私がスマホに向かっているだけで、『艦○れ』をやっていると決めつけるのじゃ⁉ しかも『ショタ○督』なんてオリジナルキャラではなく、二次創作のやつじゃろうが!」
いかにも「心外じゃ!」、といった感じで食ってかかってくる、教授殿。
……くくく、しらばっくれようとしても無駄だ。てめえが実は『艦○れ』重課金勢で、しかもショタコンであることを、知らないとでも思っていたのか?
「まあ、教授の歪んだ性癖は、さておくとして」
「歪んだ性癖とか言うな!」
「『艦○れ』ではなかったら、何をそんなに根を詰めて、スマホを操作していたのです?」
「だから、私が『艦○れ』以外には、根を詰めないような言い方をするな! いいからこのスマホの内蔵カメラを、私のほうに向けてみたまえ!」
そのように言って、僕のほうにマットブラックのスマホを、投げて寄越す教授であったが、
「──ちょっ、まさか⁉」
何とスマホのモニター内の教授の画像の頭上には、『ケンブリッジ大学史学部教授』という表示が記されていたのだ。
──そう。あたかもRPG等でお馴染みの、各キャラクターの頭上に表示される、『属性名』でもあるかのように。
「……これって、一体」
「ふふん、どうじゃ、すごいだろう? これぞ『異世界系Web小説の、ゲーム脳的お約束ガジェットを実現しよう!』企画第二弾の、『現実世界において「ステータスウィンドウ」を表示できるスマートフォン』じゃ」
「へ? ステータスウィンドウって……」
「日本産の異世界転生モノのWeb小説において、これぞ『ゲーム脳』の最たるものといえば、何と言っても『ステータスウィンドウ』だろう。あくまでもゲーム中に、別枠において、自分のアバターや敵キャラの各種パラメータを確認するために設けられているもので、あくまでもゲームを遂行するためのギミックなのであり、このようについ『あくまでも』を重複して使用してしまうほど、『これはゲーム独自の仕様なのであって、現実世界ではこういうことは絶対あり得ないんですよ?』と言っておるのに、何で異世界とはいえ『れっきとした現実世界』において、当たり前のように実現しようとするかねえ、『ゲーム脳』Web作家の皆さんときたら?」
た、確かに。
……しかも、何も無い空間に、いきなり『窓枠』が現れるところも、使われている各種パラメータの単位も、ゲームそのまんまと来ているし、少しはひねりを加えろよな⁉
「第一、生きた人間の各種パラメータが、固定的に数値化できるわけないじゃろうが?
おそらくは各パラメータの数値が、常時変化し続けていて、読み取ることなんかできないと思うんじゃがのう。──ほら、ちょっと常識的に考えるだけで、ステータスウィンドウなんて、現実的に絶対実現不可能であることがわかるじゃろうが?」
「そうですよね! 別にステータスウィンドウまでいかなくても、これもまた『ゲーム脳ギミック』の極みなんですけど、目の前の人物の頭上に、『名前』とか『種族名』とか『レベル』とかいった、簡単な情報が表示されるってのも、よく見かけますよね!」
「そりゃあ、ゲームばっかりやっていると、そういうのが当たり前になってしまうんだろうけど、そんなのは川○礫先生の作品みたいに、VRMMOの世界──すなわち、文字通りゲームの世界だけにしておけばいいじゃろうが? たとえ異世界といえども、あくまでも『現実世界』である、転生系や転移系の作品の中では遠慮してもらいたいものじゃのう」
「どお〜〜〜〜しても、やりたいと言うのなら、本作が常にお手本を示しているみたいに、ちゃんと作者さん自身の脳みそで考えた、『原理』や『理由』等の理論的根拠についても、きちんと明記すべきなんですよ……まあ、目の前の人物の頭上の何もない空間に、その人自身の『名前』とか『種族名』とか『レベル』とかが表示されることに対して、本当に論理的に説明ができるとしたらですけどねw」
「──うん? 何を言っておるのじゃ、まさにそれを実現したのが、そのスマホじゃないか?」
あ、そういえば、そうでした。
「ご存じの通り、我が量子魔導研究室においては、異世界ならではのファンタジー的ギミックを、科学的視点に立って再考証して、現実的に実現させることこそを旨としておるのであり、それは当然、今回の『ステータスウィンドウ』についても、同様なのじゃよ。 ──それでは、今し方まさに君自身が、「絶対に実現不可能だ」と言ったことを、どうやって実現するのかというと、あくまでも「何もない空間に情報を文字で表示することなぞ絶対にできない」と言うのなら、空間に表示しなければいいのじゃよ」
──え、何その、いかにも『ジャパニーズ・ゼンモンドー』的詭弁は⁉
「……何をいかにも胡散臭そうな顔をしておる? 君も自分の目で実際に確認したではないか、空間ではなく、例えば『スマホ』等のデバイスの画面上に表示すればいいんでじゃよ」
あ。
「日本産のWeb小説の中でも、最も高名なる作品を例に挙げれば、『中二病なお姉ちゃん』にスマホのカメラを向けると、スマホの画面内のお姉ちゃんの画像の頭の上に、『中二病』という文字が浮かび上がって見えるようになるといった寸法じゃよ。──どうかな? 何もない空間に文字が浮かんだりするよりも、よほど現実的じゃろう? もちろん以上に述べた、『ステータスウィンドウ』や頭上での『属性表示』なんて、普通のスマホでは無理だからして、そこで登場するのが前回紹介した、量子魔導スマートフォンと相成るわけなのじゃよ」
「……ああ、なるほど、そこで前回のエピソードと繋がるわけなのですね?」
「左様、量子魔導スマートフォンは常時、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってきていると言われている、いわゆる『集合的無意識』とアクセス状態にあるから、氏名や生年月日や病歴、現在の職業や学籍等々の、『基本的情報』に始まり、何と言っても、すぐ目の前にいる人物の、過去や現在だけではなく未来をも含めて、すべての『記憶や知識』が情報として収集されているのだから、現在において大体どういったことを考えているのかといった、『読心』を実現したり、将棋の勝負中なら『次の一手』を表示したり、ミステリィ小説そのままの怪事件の最中なら、『犯人』であるのかはたまた『次の被害者』であるのかを明示したりと言うことも、十分可能なのじゃよ。ただし、こういった量子魔導スマホの画面内での、『ステータスウィンドウ』や頭上の文字によるデータは、けして確定的なものではなく、例えば、お姉ちゃんの頭上に『中二病』と表示されたとしても、確固として『中二病』であるわけではなくて、『中二病かも知れない』という、言わば『可能性』を述べているに過ぎないことを、お忘れなく。──なぜなら、現代物理学の中核をなす量子論に則れば、未来というものには無限の可能性があるのだから、いかに量子コンピュータそのものである量子魔導スマホが弾き出した計算結果とはいえ、100%確実に当たるとは限らないのであり、また、そもそもが、人の属性や各種パラメータがずっと一つに固定されているはずがなく、例えばミステリィ小説的事件においては、さっきまで『被害者候補』と記されていた人物が、次に量子魔導スマホで確認したところ、表示が『犯人候補』と成り変わることも、大いにあり得るのだ。──結局何が言いたいかと言うと、これも異世界系Web小説の作成時と同じことで、量子魔導スマホのデータは、あくまでも『判断材料』のためのデータとして用いるにとどめて、最終的には自分自身の頭で考えなさいってことなんじゃよ♡」




