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斯くして燠は暁に淀む  作者: えむ
第二章 深奥に滲む
33/42

04-02

「少し前にあった戦争を覚えておいでかしら。ああ覚えているわね。貴方たちが共同戦線から離脱して黒沼の国(ブランダルク)が壊滅的な被害を受けたあの戦争よ。そして華燐王。貴方が老樹の国(アトウッド)の長に不相応であると判明した戦争でもあったわ」


 その言葉に、男の眉尻がぴくりと跳ねる。


「国は自国を防衛する手段として武力を持つわ。当然の事よね。でも、国の兵で構成する組織だけでそれが賄えるかと言ったらそうではないでしょう?」


 国に忠節を尽くす家臣で結成する兵団、騎士団、または軍団が強力な戦力であることは間違いない。

 ただ、不測の事態に陥った場合、そういった大所帯の組織は弱い。単独行動(小回り)が利かないのだ。

 そんな弱点を補うための機構が各国にはある。というより機構を保有する義務がある。

 その内訳は、一騎当千に至る蛮力、あるいは兵団等とは別の集団のことを指す。

 噛み砕けば、超強力な遊撃手といったところか。


「だからたとえば黒沼の国(ブランダルク)でいうところの私みたいな戦力が各国にはあるのよね」


 老樹の国(アトウッド)にも無いわけはない。

 でも、とキリは続ける。


「その存在であるはずの貴方がまさか全く機能していないなんてね」

「……どういう事かな?」

「恍けても無駄。貴方が華燐王として機能していれば、黒沼の国(ブランダルク)が受ける被害はもっと少なくて済んだのだから」

「買い被り過ぎだよ」


 男の軽い返しにキリはこめかみに青筋を浮かべる。


「じゃあ、聞かせてくれる? あの場から逃げ出した理由」


 その問いに、男は少しの間をもって口を開いた。


「華燐王として立ち振る舞う場面ではないと判断した。だから戦線を離脱した」


 腹の底から何かが込み上げてくるのを感じる。

 身体の真ん中を駆け上がってくる赤色が分かる。

 頭蓋に広がるそれが沸騰したように熱い。


 ──それだけの理由で……。そんないい加減な理由で。


 ぎちり、と握った拳が鈍い音を立てる。


 ──たくさんの。


 爪が掌に刺さり、


 ──人たちを。


 血が滴って床に落ちる。


 ──見殺しにして。


 主人の胸中に湧き上がる熱に反応するように従僕が首を持ち上げて唸る。

 そんな大蜥蜴をキリは血の滲んだ手で制する。そして、自身の身体中を駆け巡って暴れ回る激情を努めて押さえこんで、極めて冷静に言葉を吐く。

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