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斯くして燠は暁に淀む  作者: えむ
第一章 暗中に泥(なず)む
17/42

05-01

 足が窮屈だ。

 イドは豪奢な赤絨毯を踏みしめながら、そう思った。

 どれくらいぶりかも分からない状態で履いたブーツは違和感しかない。

 足裏に伝わってくる感覚が鈍く、絨毯のもっさりした生地感が不快だ。

 加えて、窓から差し込む光が眩しい。薄暗い空間に居た身としてはこの光量は刺激が強い。

 それでも牢から城内へ上がった時と比べれば、まだ目が慣れてきている感じだった。

 これで愛用の外套も返ってくれば。

 肌に差す陽光が心なしか痛い気もするが、それも慣れの問題なのかもしれない。

 ここは老樹の国(アトウッド)城内にある大広間の一つ。薄い青みがかった森を望む大部屋である。


「おーいイド。このソファーすげえぞ」


 後ろから声。

 振り返ると灰色の服を着た長身痩躯黒髪の男が離れた所で椅子にどっかりと腰掛けているのが見える。

 ローヤだ。

 ベージュの麻製パンツは汚れだらけで、止め紐をなくした首元の生地はだらしなく垂れて灰色の裏側をのぞかせている。半端丈の袖から伸びる腕が左右に揺れ、こちらへ向かって手を振っていた。

 イドは簡単に相槌を打ってソファーに座る。

 対面するなりローヤは気怠げな半開きの黒目で藪から棒に言った。


「実際見てみるとイドって案外小さいんだな」

「喧しいわ」


 イドに自覚はある。

 控えめに言っても少年の未発達で華奢な矮躯であることは間違いない。しかし真正面から言われるのは癪だ。


「ローヤ、貴様こそその成りは何とかした方がいいと思うぞ」


 言いながらイドは頭を指差す。

 手入れがあまりされていなさそうな伸びっぱなしの黒髪がローヤの顔右半分を隠している。


「これはオシャレなの。ファッションなの」


 髪をかきあげると前髪で隠れた顔の右側が露わに。しかし右目は傷痕で潰れていてそこには無かった。


「せめて後ろ髪くらい結わえておけ」


 口添えするとローヤは椅子の横からソファーカバーを留める赤紐を抜き千切って面倒臭そうに髪を縛った。

 これでいいかと訴えているのか肩をすくめる隣人にイドは咎めの一言を言いかけたが、扉が開く音に遮られた。

 音がした方へ目を向けると、鎧纏いの兵士十数人とミラベルが部屋に入って来るのが視認できた。

 その中の一人が声を上げると兵士たちが足早にイドとローヤが居る所を取り囲んで整列。ゆったりとした足取りで後を追っていたミラベルがソファーに座って二人の顔を確認する。

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