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斯くして燠は暁に淀む  作者: えむ
第一章 暗中に泥(なず)む
11/42

03-01

 友人に呼ばれたから。

 イドがここ老樹の国を訪れた理由は、ひとえにそれだった。


 古く幼少期から親交のある友からのお呼びである。例え山三つほどの旅路を辿ろうとも応えないのは無粋の一言に尽きる。尽きるし、またぞろ下らないやり取りを交わすだけとは思うが何より友との再会を拒む理由がイドにはなかった。


 向こうからは丁寧に書状が送られて来ていた。

 しかも伝令付きで。

 わざわざそんな事などしなくともどちらかだけ寄越すか愛鳥でも送ってくれれば二つ返事で向かうというのに。

 そんな友人の律儀さに相変わらずの人となりを感じると同時、“お前の詰まらない話が聞きたくなった。前回は私がそちらに行ったので今回はお前が来い”と達筆な字で綴られた書状の中身を見て、では取って置きの話を用意していこうと意気込んで路を歩いた次第だった。


 友人が寄越した伝令ともイドは顔馴染みで、名をカルバンと言う。

 彼女は友人と同じ白群びゃくぐん色の髪の持ち主で、古き老樹の先祖を持つ血筋は皆その色をしているという話をイドは聞いた事があった。

 そんな白群色の二人からイドはよくからかわれていた。灰のような銀色の髪をしたイドを見て「そちらのほうがよほど老樹のような色だ」と。


 しかし、老樹の国の大地に生きる木々の色は灰色とは程遠い。実際には薄い青みがかった葉を茂らせる樹種である。

 だからどちらかといえば友人とカルバンの髪色の方が近いのだった。

 それを言うと二人は決まって「字面の問題だ」、「感覚の話ですね」と柔らかく笑って灰色を迎え入れる。


 道中でもそうだった。

 二つ目の山を越えたところで薄い青みがかった葉の木々が増え出し、それに気が付いた同伴のカルバンが「第二の故郷へようこそ」と言って柔らかく笑った。

 イドは自分の口から自然と「ただいま帰った」と出たことに気付いてほくそ笑んだ。

 カルバンはその後、道半ばで別の伝令と合流して西の沼へ向かっていった。なにやら火急の用であるらしく、イドは一人でもう一つの山越えに臨んだ。

 同伴がおらずとも別段問題は無い。

 最後の山は普段よりも気温が低かったせいか珍しく霞みがかっていて視界が悪かったがこのような事は初めてではない。実際、友人と共に山越えをしようとした時に霞みどころか雪に降られたうえに山の主と遭遇し、全力で山道を駆けた事もあるからその時と比べれば状況としては温いのだった。

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