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斯くして燠は暁に淀む  作者: えむ
序章
1/42

01

 鈍い音が響いた。と思ったら、世界が倒れていた。


 半分になった空を船が泳いでいる。堅牢な石造りの門が真横に向かって伸びている。脇道に生えた木々が真一文字を描いている。銀色の軽鎧を着た人間たちが壁を歩いているのが見える。

 石壁に身体を引っ付けて眺める世界は全てが倒れていた。

 否。

 倒れているのは世界ではない。世界が傾くわけがない。倒れているのは、


 ──儂か。


 イドは矮躯を石畳に横たえながら、そう思った。

 少し視線を動かすと見えてくる天鵞絨(ビロード)は自身が纏った外套の色。石畳に広がるそれを撫でようと手を這わす。が、思うように身体は動かなかった。

 なぜ自分の身体なのに言う事を聞かないのか。いや、それ以前になぜ自分は倒れているのかイドには分からなかった。


「まだ意識があるな」

「頑丈な餓鬼だ」


 後方から男たちの会話が聞こえる。


「次は決めろよ」

「分かってる。しかし加減が難しいな」


 崩涙が効かねえんだ仕方無えだろ。──そんな声が耳に届いた直後だった。

 明滅。

 雲耀の間もなく後頭部に激震が走った。

 衝撃に押されイドの身体が石畳を転がり体勢が反転し、見える景色が切り替わる。

 イドの目には無骨な棍棒を携えた軽鎧の人間二人の姿が映っていた。


 ──此奴ら……。


 飛び起きようとしてもやはり身体が言う事を聞かない。視界が霞む。瞼が意に反してどんどん落ちてくる。そして、


「ただいま着到した。首尾は良好か」


 背後から凛とした女の声が聞こえたそのすぐ後にイドは意識を手放した。

 左手に握り締めた紙が軽鎧の一人に毟り取られる。軽鎧はそれを二本指で挟んで女へ見せるようにしながら言う。


「今しがた取り押さえました」


 聞いた女は安堵したのか温度の無かった表情を崩しながら軽く頷いて紙を受け取り、端的に言い放った。


「ご苦労。では牢に入れておいてくれ」


 紙に押された封蝋を撫でて女は踵を返す。そして傍らにあるサインを指でなぞって静かに、しかし力強く呟いた。


「……彼が来ましたよ。華燐王」

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