プロローグ2
入室してきたのはノクトだけではないようで、彼の後ろには四人の影が。
「そそ、怜君と巴月ちゃんが兄妹になってから、まだ一回も話してないみたいだし、それに私達も友達になったばっかだしー、ここは落ち着いてもらわないと! ね、クロウ」
「リンの言う通りだな。ま、こんなところに長いこと閉じ込められたら、そりゃ気が滅入だろうな」
「……欲求不満?遊ん、で、発散?」
「ウェル、欲求不満は違うし、遊びじゃねぇーぞ。怜太を相手にそんな余裕あるわけないだろ」
「ん……それ、は、わかる。だから……本気、で、遊ぶ」
ノクト以外の四人の内、三人が話している。
全員ノクト同様の年齢のようだ。
最初に話したのが、リン。
口調から察するに明るい性格の、赤髪ショートカットの少女。
その次が、クロウ。
少し大雑把そうな話し方の少年。
茶髪で短髪の、喧嘩慣れしていそうな風貌である。
最後がウェル。
たどたどしい話し方の一番身長が小さい少女。
薄浅葱色の髪が特徴で、この中でも最年少であることは、誰が見ても分かる。
「ま、余裕がないのは確かだが、僕たちでやるしかないだろう」
先ほどの三人を見やり、ノクトが話をまとめていく。
「と言うわけで、時雨さん、僕たちが時間を稼いできますので」
「あなた達……」
時雨は、心配そうで、どこか申訳なさそうな表情をしている。
まだ年端もいかない子供たちに、この事態を押し付けることに対しての罪悪感。
しかし、催眠ガスが効くまで、持ちこたえられないのも事実。
故に次の言葉がなかなか出てこないようだ。
そこへ、一人の少女が歩み寄り、声をかける。
「お母さん大丈夫です」
残っていた最後の一人は、時雨の娘。綺麗なプラチナの髪の巴月であった。
落ち着いた口調だが、目は固い意思があることが分かる程、力強いものだ。
「怜君を、いえ、兄さんを止めてきますので、待っていて下さい」
「巴月――私たち大人の責任なのに……任せてごめんね。そして、ありがとう。あなたの義兄さんを止めてきてちょうだい」
計五人が、それぞれ準備を始めている。
催眠ガスが換気されるのを待っている間、クロウは軽い準備運動をし、リンは伸びをして身体をほぐし、ノクトは巴月と作戦を練っている。
ウェルは、何処からかとりだした骨付きチキンを、骨ごと食べ〝ハムハム〟という謎の可愛らしい音と共に、骨が容赦なく砕ける音を響かせていた。
一刻を争うときに、子供でありながら自分たちが行くと言い張る。
換気まで数分の待ち時間が発生するとはいえ、少し緊張感のない光景を目の当たりにしたら、それは誰でも疑問に思う事だろう。
「主任。あの子供たちはいったい……それに止めるって、この状況を止めるって、本当にできるんですか?」
「あなたは最近配属されたのでしたね。私たちの施設が設立された理由は記憶しているわね?」
「は、はい。魔力適齢期に到っていない状態で魔術を使い魔力暴走を起こす。つまり、身体が魔術回路の急激な活性化に追いついておらず、不安定な状態になる。そんな子供たち魔術適齢期まで管理し育成する機関。それが我々ノアです」
「そう、その背景など今は省くとして、大まかその通り。個人差はあるけれど、魔術適齢期が十歳から、それまでに覚えられる魔術と言えば、基礎防御魔術の〝纏い〟ぐらい。それでも十歳前に身に着けられるのは異例だけどね」
催眠ガスの換気が終わるまでの間、新人職員達に向けて説明をする。
配属される前にある程度の説明は受けているので、まずは理解度の確認。
「ですが、それでは……」
「何故この子達がいるかって疑問よね?」
そう、配属された際に聞かされるのは此処までの話。
ここからは先ほど男性職員が言っていた、情報規制された話になってくるのだ。
新人職員からすれば、不安定な子供たちをぶつけても結果は火を見るよりも明らかである。
と言いたいのだろう。
確かに、ただ不安定な子供達なら、そうであろう。
「あの子達はね……更にそのレアケース。魔術ではなく、魔法を発現させて機関に預けられた子達なの」
「――ま、魔法ですか! 公式で確認されているだけでも、世界に五千人しかいない魔法を――」
「そうよ、二千六十年に起こった〝終末の日〟で百億人いた人口は激減。一世紀たった今でも世界人口五億人にも満たない。子供の数も限られているし、こんな言い方は余りしたくないけど、自国の子供で数少ない魔法を使える時点で、国家資産としては計り知れない。だから情報規制されているのよ」
新人職員達は時雨の説明を聞き納得と共に、自分達ではこれ以上は、図ることなど到底できないと理解し、頷く事しか出来ないでいる。
「換気完了いたしました」
換気作業を管理していた職員から、作業完了の合図がでる。
各々、準備していた子供達が動きを止め、マジックミラーの前に集合して来た。
「よし皆、準備はいいね」
ノクトは、皆の意思を確認するように、全員の顔を見渡す。
返事はないが、全員こくりと頷き問題ないことを確認した。
「リン、頼むよ」
「あいあいさー」
リンは皆より一歩前に出て半回転、残り四人の方へ向き直と、右手を頭上に上げて詠唱する。
「リンク」
すると、残り四人の足元から、青みがかった魔法陣が出現し、ゆっくりと上がっていく。
全員の頭部分まで来た辺りで、平面に上がって来た魔法陣が、九十度角度を変えて顔の前で縮小する。
小さくなった魔法陣は、皆の額にくっ付き、そのまま吸い込まれて消えていった。
「思考でやり取りできるようにパスをつなぐのは大事だが、詠唱とか身振り手振りがなくても、本当はできんだろ? いんのかそれ」
「クロウは分かってないねー。こーゆうのは、雰囲気が大事でしょ!」
意味はないと公言し、万遍の笑みを浮かべるリン。
クロウは軽くため息しつつ、両手お広げやれやれっとジェスチャーしている。
これ以上、口を挟む気はないようで、特に言い返しはしなかった。
リンは、またその場で半回転すると、マジックミラーの先、目下の最終防ラインに目を向けた。
「じゃ、いっくよー」
そう言い放った瞬間、五人の子供達がその場から一瞬にして消えた。
数ある作品の中かから一読頂き有難うございます。
読まれて色々思う事もあるでしょうが、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
本日18時頃にも予約掲載されますので、気が向いた方は是非に!