1:過去の悪夢
ーーやめて!嫌だっ…!!!
熱い…右目が焼けるようだ…
ーーあぁ…あ…い、たい…
高笑いする人の手には血まみれのナイフ
ーーどうして…こんな…
あまりの痛さに薄れる意識
「はっ…!!!」
またこの夢…
嫌な汗をたっぷりかいて目覚めた朝
私の視界は左半分しかない
髪で隠れた右目にはなにもない。
まだ少し、痛む。
もうかなり前なのに…
額に触れると長い前髪から突き出る角。
“鬼の角”
ーー忌子よ…
ーー近づかないで!
ーー恐ろしい…
ーー殺されるぞ!!
物心がつき始めた頃、浴びせられた数々の罵声。
私を見る目はいつも冷たく、穢れたものでもみるかのようだった。
そっと角に触れ、顔を洗いにいく。
「今日は水を汲みに行かなくちゃ…」
身支度を整え、水を汲みにいく。
静かな山奥には私以外誰もいない。
山にいる生き物たちだけは私の事を恐れない。
しばらくして近くの川にたどり着くと向こう岸に何か見えた。
「…人?」
山奥に住んでからかなり経つから争いごとなどの事は分からないけど。
ぴくりとも動かない死体に小さくため息をもらし、さらに上流へ向かおうとしたその時
「うっ…」
死体が、動いた。
まだ、生きてる…?
服が濡れる事も気にせず死体と思った人に近づく。
小さく呻き声を漏らす人はどうやらまだ息があるようだ。
「ねぇ…生きてるの…?」
静かに問いかけてみる
「うっ…ん〜…」
よく見ると怪我らしきものは見当たらない。
何でこんな所に…
少し苦しそうに歪められた顔を覗き込む
「…え…?」
気づかぬうちに前のめりになった体はいとも容易く引き寄せられ、相手の腕にすっぽりと収まっていた。