迷惑なラブレター。……ラブレター?
○月×日。天気、晴れ。
天国のおとーさん、おかーさん。元気にしていますでしょうか? 貴方達の息子はとっても元気に育っています。
――いやいや、落ち着け。確かに俺は一人で暮らしているが、所謂一人暮らしであって、両親と死別した訳じゃない。兎に角落ち着け、素数を数えろ……!
えー、と。1、2、3、5、7、11――って、1は素数じゃないっ。まだかなり混乱してるな。落ち着け、びーくーる。クールになれ、俺。
さて、いきなりだが諸君は非現実的な現実を目の当たりにした場合、どのような行動を取るだろうか。見ての通り、俺は現実逃避を選択した。何故かって? 学校が終わって部屋に戻ってきたらとんでもないモノがあったからだ。
ソレは壁にあった。
“好きです。一緒になってください。”
と、そう書いてあった。……血文字で。まだスプレーの方が可愛い。……それでも迷惑度は大して変わらんが。
正直に言おう。俺はかつて、これ程までに情熱的且つ、猟奇的なラブレター――いや、ラブレターと呼んでいいモノかはわからないが、兎に角ラブレターということにしておこう。ラブレターと断言したら世界中の真面目に書かれたラブレターに失礼だ。ジャンピング土下座では足りないくらいには。
で、話を戻そう。俺はこの様なラブレター(仮)を見たことが無い。むしろ、見たことがあるヤツは今すぐに俺の前に出てきてくれ。お前となら友達をすっ飛ばして心友になってしかも、一杯交わせそうな気がするぜ。
そもそもだ。何だ、この一緒になれってのは。
頭からガブリと齧られて美味しく頂くってか、腹ん中入れってんですかコノヤロー!
つーか、壁だけじゃ足りないのか“さい”の部分がベッドにまで及んでるじゃねーか。しかもなんか若干サイズ変わってるし、でかくなってるし。……誰かに見られたらどうするんだよ。壁はともかく、ベッドに付いた血は落とせるのか? パッと見、殺人現場じゃねーか。しかも猟奇的な。やべーって、おい。
……ん? 血文字が消えた? ……いや、また何か出てきた。
“わたし、メイさん。今、貴方の後ろにいるの”
……は? 後ろ?
――というか、ここは学校じゃねーよ。何処の怪談だ。
とりあえず、後ろを――
「どわぁっ!?」
何かいる―――――っ!?
「な、な、何だお前……っ!」
「わたし? わたしはメイ」
「名前はいいっ! お前が何者なのか聞いてるんだっ!!」
さっきまで誰もいなかった上、鍵も閉めている。そんな状況下で、俺に気づかれること無く後ろにいるこいつは何者なのか……?
「ん。魔王の姪」
いやいやいやいや。所謂魔界から来たとでも言うのか、こいつは。
そして、何故魔王本人やら、娘やらで無く、姪という微妙な位置なのか。ある種のお約束を無視してんじゃねぇよっ!
「……あー。500無量大数程譲って、それが真実だとしよう。んで、さっきのあれは何なんだ?」
そう言って、書き換えられた壁に書かれている血文字を指差す。
「ラブレター」
……なんてこった。本当にラブレターだったのか。何て嫌なラブレターだ……。
……確かに目の前にいるこのメイとやらは美人だ。認めよう。普通にラブレターをもらえたならどれだけ嬉しかったことか……。だけど普通じゃない、明らかに普通じゃない。むしろ異常すぎる。……はい、ここ笑っていいぞー。
「……アレがか?」
「ん。インパクトが大事と聞いた」
「インパクトしかねぇよっ!」
「大丈夫」
何がだ。何も大丈夫じゃない。
「――で? 何であんなトチ狂ったとしか思えないラブレターを?」
「惚れた」
「は?」
「一目惚れ」
…………おーけー。まずは冷静になれ。びーくーるだ。……またか。
「――――。一目惚れっても、俺はお前と会うどころか擦れ違ったことすらないはずだが? お前の話を信じるなら、別世界にいたんだろ?」
「ん。でも、私が知ってるから大丈夫」
だから何も大丈夫なんかじゃない。
ええい、さっきから原稿用紙一行分以上のことを喋らんヤツめ! 致命的に説明が足りてないんだよ!
「わたしはメイ。魔王の姪だから」
「そんな安直なのかっ!? いいのか、そんな由来でっ!!?」
「わたしをお嫁さんにして」
「何でだっ! 脈拍がまるでねぇよっ! せめて疑問符くらい入れろっ!!」
「じゃあ婿に来い」
「人の話を聞けっ! つーか、命令!!?」
「いいから来る」
パチン、と指を鳴らして出てきたのは、兎に角禍々しい扉。或いは門。
具体的に言うと、大鎌持った骸骨が上に付いてる。
「いやいやいやいやいやいやいや。待て待て待て待て、落ち着け! 冷静になれ! アレか? アレに入れってか!? あんなん、あからさまに地獄への直行便じゃねーか、コノヤロー! アレに入るくらいだったら、街のド真ん中で悪魔召喚の儀式をしたほうが――」
「うるさい」
「――ぶっ!?」
デコピンで扉の前まで吹っ飛ばされる俺。
新発見。人はデコピンで宙を舞う。……なんて嬉しくない情報だ。
「行く」
さながら猫のように襟を掴んで摘み上げられる俺。
――っておい、マジで摘んでるよ! ……一体どんな力してんだこいつ……!
「待て待て待て待て!」
手足をバタつかせる俺。が、抵抗虚しく、いんざどあー。
「イヤァ――――――ッ!!!」
俺の明日はどっちだ!?
……そういえば、結局最後まで一行以上の言葉を発しなかったな、こいつ。
続かない。
初めまして。
初めて短編書きました。
正直、少々不安です。
感想待ってます。




