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《4月14日 金曜日》

あれから崇は毎日、マリヤの家を訪ねた。


そして、仕事へ向かう前の短い時間を利用して、写真を撮り続けた。


それが終わると、マリヤと朔夜に見送られて仕事に出かける。


崇自身、奇妙な共同生活だとは感じていた。


だが、そこに感じる温もりは何物にも換えがたいものがあった。



崇の仕事は普段と変わらず忙しく、帰りも遅い日が続いた。


そんな中で、写真を撮りにいくため、いつもより早く起きなければならない。


正直、朝の起床は辛かった。


それでも崇は、マリヤの笑顔を見るためならと、そんな苦痛にも耐えた。



ヌクヌクと温かい布団と断腸の思いで別れを告げ、スーツに着替える。


コートを羽織り、まだ肌寒い外へと出かける。


平日の崇は、そんな戦いを毎朝繰り広げていた。




4月14日、金曜日。


この日はマリヤの提案で、久しぶりに3人で夕食を外でとろうという話になっていた。


夕食ということなので、仕事帰りに家へ来て欲しいとマリヤから頼まれていた。



崇は、久しぶりにゆっくりとした時間に起床する。


温かい布団の中でまどろみながら朝を過ごし、ちょっとした幸せを感じた崇。


だが、油断しずぎて遅刻しそうになり、慌てて出勤の用意をする。


コートを羽織ると、駆け出して駅に向かった。



職場に着くと、いつも通り慌しく仕事をこなしていく崇。


気がつくと、あっという間に昼休みになっていた。



コンビニの弁当を買って、職場の入っているビルの屋上へと向かう。


屋上の日向に置かれたベンチに座り、弁当を掻き込むようにして食べる。


食後の缶コーヒーを飲みながら、崇はあのカメラを取り出し、じっと見つめる。


カメラを見つめながら、このカメラが起こした奇跡を思い起こす。


自分でも、とても信じられないと崇は思った。


それでも得がたい時間をくれたカメラに感謝の想いを込めて見つめる。


カメラを見つめているうち、ふと崇は今後のことについて思いを馳せる。



いつかは終わりが来てしまう仮初の時間。


カメラがくれた時間は、永遠ではない。


マリヤは…そして、自分はその「終わり」の時を受け入れられるのだろうか。


崇は、そう考えると不安に陥る。



仮初の「今」をマリヤは、無邪気に喜んでいる。


その気持ちは、崇も同じである。



再び訪れた3人の日常。


いままで何とも思っていなかった時間。


今は、それがかけがえのないものであることを知ってしまった。


だからこそ「終わり」を受け入れられる自信が崇には持てなかった。



この日は、無理矢理に仕事を切り上げた崇。


珍しい光景に、同僚から「デートか?」などとからかわれる。


崇は、「同窓会ですよ」などと言いながら、仕事場の部屋を出た。



職場を抜け出し、建物のエントランスから外へ出る。


ビル間風なのか、冷たく強い風が崇に吹きつけてくる。


上を見上げれば、すっかり夜の帳も下り、都会のただ黒いだけの空が見えた。


春の底冷えが身にしみる。


コートの襟元を握りながら、崇はマリヤの家へと向かって歩き出した。



夕食の場所は、3人の思い出の店にした。


崇は、昔に戻ったような感覚を覚える。


それは、きっと他の2人もそうなのだろう。



やがてお酒も入って、3人の昔話に花が咲く。


朔夜が崇の失敗談をマリヤに語って聞かせる。


「お前、それは内緒の約束だろ!」


崇が笑いながら、朔夜を小突く。


そして、お返しに朔夜の失敗談を披露する。


「おい、その話はやめてくれよ!」


あまりに朔夜が情けない声を出すので、崇もマリヤも吹き出す。


そして、いつまでも3人の笑い声が店内に響く。



目の端に涙を浮かべながら、顔を真っ赤にして笑っていた朔夜。


笑い疲れたのか、一生懸命に呼吸を整えると話題を変える。


「そうだ、崇。いつものカメラは持ってるか?久しぶりにみんなで撮ろうぜ」


そんな朔夜の言葉に、笑顔でマリヤも賛成する。


「いいわね!そうしようよ!ね?」


そう言うとマリヤは店員を呼び、写真を撮ってもらいたいとお願いする。


店員は、快くカメラマンを引き受けてくれた。



「たーくんも、もっとこっちに寄って!」


カメラを店員に渡したマリヤが崇にそう声をかける。


照れくさそうにマリヤに寄る崇。


そんな様子を嬉しそうに見ながら朔夜もマリヤに寄る。



[カシャッ!]



店員の合図で、笑顔の3人が写真に収まった。

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