《4月11日 火曜日》
4月11日、火曜日。
約束どおり、朝からマリヤの家に訪れた崇。
リビングに通されると、いつものようにマリヤの姿を撮影する。
[カシャッ!]
「もう、たーくん!撮るなら、先に声をかけてよ。
不細工に写ってたら、どうするのよ!」
笑いながら文句を言うマリヤに崇も笑顔で返す。
「大丈夫、大丈夫。いつもマリヤは綺麗だよ」
そんな崇の言葉に照れながらも、マリヤは準備したお茶を出す。
「お、ありがとう」
そう言って、お茶を口に運ぶ崇。
「そんな、私の方こそ毎日ありがとうね」
すっかり元気を取り戻したマリヤの様子を見て優しく微笑む崇。
「気にすんなよ」
表情とは裏腹に、ぶっきらぼうに答える崇。
そんな崇の態度を笑うマリヤ。
「ほんと、たーくんは変わらないね」
「そんなことないさ。これでも随分、大人になったんだぜ?」
そう言って、崇も笑う。
「ほら、今日もカメラ…使うだろ?」
「うん!」
崇から手渡されたカメラのフィルムを巻くマリヤ。
[カシャン]
残り16枚の表示をジッと見つめるマリヤ。
黙ってカメラを崇に返すと、朔夜の分のお茶も入れるために台所へと向かった。
ほどなくして、朔夜が部屋に入ってくる。
「おはよう」
朔夜の声が聞こえる。
小さな頃から3人で過ごしてきた。
朝から家に崇がいても、何の疑問も持たない関係である。
崇も、そんな関係を心地よく感じながら朔夜を迎える。
「おはよう」
「お、紅茶のいい匂いがするな」
昨夜の言葉に、マリヤが声をかける。
「いま、さーちゃんの分も入れてるから」
「ああ、ありがとう」
マリヤが朔夜の分のティーカップを持って戻ってくる。
3人は静かに紅茶を飲む。
特に会話もなく、沈黙が部屋に訪れる。
しかし、何の気まずさもない。
3人が一緒にいることは、彼らにとってごく自然なことなのだ。
紅茶を飲み干し一息つくと、崇が立ち上がる。
「さてと、そろそろ仕事に行ってくるわ。
おっとっと、その前に」
[カシャッ!]
マリヤと朔夜が仲良く並んで紅茶を飲んでいる姿を撮る崇。
「じゃあ、行ってくるな」
それだけ言うと、崇は仕事へと向かった。
背中からは、2人からの優しい声が聞こえる。
「いってらっしゃい」