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~自動車編~

苦手その1 「自動車の運転」


社会人1年生の桜舞う春の話です。新入の工員としてあくせく働いて、初任給で何を買おうかな、そうだ、新しいゲームの筐体を買おう!なんて思っていた私に、直属の上司が言いました。


「社用車を運転する機会も出てくるだろう、今のうちに免許取ってこい」


意味不明でした。移動手段なんて自転車があれば充分だし、遠出するならバスか電車があるじゃん。そう思っていた私に、唐突に出された運転免許取得命令。上司の言うことは絶対だと思っていたので、嫌々免許を取りに行きました。まだ慣れぬ仕事が終わった後に教習所に通って、ゲームに没頭するはずの退勤後の時間と週末も教習所に通い詰めて。社会人って大変なんだなぁ……そう思いました。


今の教習所事情がどんなものか不明なのですが、当時は実技講習の前に「シミュレーター」というゲームセンターのレーシングゲーム筐体のようなものがありまして、ふぅん、こんな感じなんだ、楽勝じゃん?って思ってたら時速150kmくらいで走っていて、優しい教官から、「その速度で走ったら完全にアウトだねぇ」という優しいご指摘を受けました。


で、シミュレータが終わると、実際の教習車に乗って実技教習と学科の授業を受けるわけですが、問題は実技。ギアがうまく入らないわ脱輪するわエンストするわ、ポールにヒットして「もう1回」と補習が決まってしまうわ……早めの段階で絶望したわけですが、それでも上司命令なので、途中で投げるわけにもいきません。場内教習を何とか終え(3回は延長したと思う)、続いては路上教習です。こんな細い道路無理!とか、白線を踏まずに駐車するなんて高度なテクニック使えるか!とか、車線変更?恐ろしくてできぬ!とか、高速道路?一生乗ってやるもんか!恐怖におののき、泣きそうになり……。それでも卒検までたどり着いたのは「上司命令」という絶対逆らえない圧力のおかげだったと思います。


数回の補習とその都度補習料金を払いつつ、奇跡的に運転免許は取得したわけですが、初任給と翌月の給料は教習所の授業料で消えてなくなりました。


そんな苦労を重ね心身を摩耗させ、やっとのことで運転免許は取得。さぁ来月こそゲームを買うぞと思っていた矢先に、先輩社員が言いました。「免許取ったんだから車、買うんでしょ? 買うよな?」と。意味不明でした。なんなんでしょうか、この圧力は。


運転免許取得と自動車の購入がワンセットという考え方に全く理解が示せないものの、そこを「いや、車に興味ないんで……」なんて言おうものなら、会社の空気を読まない新人、ということで悪評が広まってしまうかもしれない。それを危惧した私「あぁ、次の休みに車屋さんに行こうと思ってました」なんて1mmも本心じゃないことを言ってしまったんです。


で、律儀にその週末、中古車販売店に足を運んだ私だったのですが、そもそも「自動車そのもの」に興味がないので、車種の知識が皆無。


「どんなお車をお探しでしょうか?」と声をかけてきてくれた店員さん。胸のプレートに"営業"とあります。


「教習所で乗ってた車がいい」と言った私に「お客様の年齢では、少々渋いかもしれませんね……」とご指摘頂いてしまう。渋いということは、ミドルとかシニア世代に人気の車種なんだなぁと勉強したわけです私。


「逆にどんな車がいいのですか?」と店員さんに質問をぶつけたわけですが、店員さん、渋面です。そりゃあそうですよね、車種もろくに知らないうえ、軽自動車がいいとか、スポーツカーがいいとか、アウトドアで使えるものがいいとか、具体的なヒントがゼロなわけですから。こんなお客、正直迷惑だったと思います。


店員さんは困り果てて、展示してある中古車を、これはどうでしょう?と1台1台、解説付きで回ってくれました。大人になるって、大変ななんだなぁ……と思いました。


一緒に回ってくれているのにも関わらず、この色は嫌だ。とか、これは女の子向けですよね?とか、大きすぎて無理。とか、高すぎる。とか、文句だけは一丁前に言うものだから、店員さん、さらに困り果てて「オークションという手もあります、オークションであればお値段もお安くできますし……」と仰る。だったら最初からそう言ってくれよ、と思うわけですがノーヒントなんだから入札のしようがないわけで。


で、そんな困ったお客の私の頭に、ふと読んでいた小説の主人公が乗っていた車種が浮かんだわけです。でも、もしかしたら架空の車種なのかもしれない。架空の車種が欲しいなどとのたまったら、この若いの、おつむ大丈夫か?と疑われて当たり前なので、もしそうだったら2度とこの販売店の近辺は歩かない。そう誓って、恐る恐る話してみました。


結果、その車種は実在していました。恥をかかずに済みました。これで堂々と歩けます。店員さんいわく、年代的にもマッチするし、お値段もお手頃とのこと。これ以上悩むのは面倒だったし"正直不要なもの選び"で疲れていたので「それを入札してください」と言って帰ってきました。


──後日。


お店から、落札成功の電話が来ました。


落札に成功したということは、代金を支払わなければならないというごく当たり前の事態が発生するわけで。泣く泣くローンを組みました。


初任給で買うはずだったゲーム筐体を買ったのは2年めに入った春、1年がかりで手に入れました。社用車は結局運転する機会がありませんでした。


──そして今。


ある程度車種の知識も増え、運転免許の更新もしました。ペーパードライバーと化す予定でしたが、自動車はあればあったで便利な場面がありまして、週の半分以上は運転していますがほとんど通勤に限定されています。


教習所以来、高速道路には乗っていません。車線変更は恐ろしくてできません。渋滞していても大きな道路しか走りません。回り道という選択肢はありません。バックで駐車も恐ろしくてできません。夜間の運転はしたくありません。60kmで走行するのがやっとです。2車線の右折が苦手です。追い越しされたことは何度もありますが、追い越したことはありません。ドライブ?そんな趣味はありません。


私が将来お金持ちになったら……専属の運転手さんを雇いたいと思っています。


(次の苦手に続く)

自動車の運転も苦手ですが、遊園地のゴーカートの運転も苦手です。でも、レーシングゲームは得意です。

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