7時間目
「号外だよー!号外だよー!」
「一枚よこしなさい」
「はいよ!今日も美しいね、春日浦みちる!」
「はいはい、どうも」
今年も例年通り、報道部が文化祭にまつわる速報を号外として送り届けてくれる模様です。
「その後、在寺院隆也とは仲良くやってるのかい?」
「はいはい、どうも」
「もし破局なんてことがあった時は、我が部に記者会見を開かせてくれよ♪」
「ふ~ん、なるほど」
「まあ、そんなことあり得ないとは思うけどね~!わははは」
「へぇ~、おやまあ」
「でも、うちのエースが面白い写真を撮ってきてねえ……文化祭で展示するつもりだから、楽しみにしててくれよハニー♪」
あ、胸ぐら掴まれた。
「あ~?誰に向かって『ハニー♪』なんて言っちゃってんのかなあ♪」
「げっ!さ……在寺院隆也……!?」
隆也くん怒ってるよ、みちるちゃん。
「お手」
「わんわんわんわんっ♪」
「え……」
みちるの隣でしゃがみながら、手をつないでもらってます。彼女と手をつなげるのがよほど嬉しいんだろうね。まるでしっぽの残像が見えるようだね。
「マジかよ……まんま犬じゃないか……なんかイメージ崩れるなあ……幻滅だなあ……」
あなたは一体彼に何を求めていたんですか。彼から得られるものは何もありませんよ、あるとすればみちるちゃんへの愛だけです。
「く~ん♡(そうだそうだ)」
「どが」
あ、ごめんね隆也くん、私のせいで。カルデラ保険きくから大丈夫、大丈夫。
「ふーん、美稀は出演してないんか。あれだけわめいてたのに」
号外の見出しには『加々美秋蘭新脚本 豪華キャストに加え、加々美自身も出演!団員まだまだ募集中!』の文字が躍っています。
「とにかく、桃の背中を押したらんと」
うーん、意外に世話好きなのかこの人。
その頃爽やか三組では。
「秋蘭ぁぁー!!秋蘭ぁぁー!!」
「ちょっともうなんやねんな、朝っぱらからうるさいねん」
秋蘭は忙しいスケジュールをぬって、おととい脚本を完成させたばかりです。しかも徹夜です。昨日は例の報道部にインタビューさせろと部室に連行され、あることないこと根掘り葉掘り尋問されました。もういらいらです、超ウルトラマックスレボリューション不機嫌です。
「今日は放課後の練習までとりあえず寝かせて……」
「その練習にあたしは参加していいのか!?えぇ!?」
美稀は秋蘭の気持ちなど知りもしないで、机に突っ伏している秋蘭の体を縦に横に揺さぶります。
「なんであたしの名前がキャストに載ってないのよー!ヒロインは仕方なく桃に譲ったけど、伶くんの傍におれる役にしてって言ったやろー!一週間前のこともう忘れたーん?」
「ぐう、ぐう、ぐう……」
「ぐお゛ー!寝んなー!!」
美稀が振り上げた手を、始業ベルがおしとどめました。美稀ちゃんつっこめず。
「はーい、みんな席に着けー」
そしてベルと同時に、うじじこと宇治之先生が教室に入ってきました。
「おーい加々美ー、教室入れよー」
「先生、加々美ねぼすけはもう教室にいます」
「え?おう、珍しい」
廊下に向かって叫んでいたうじじは、美稀の声で再び教室の中へ視線を向けました。
「ふーん、今日は政岡のところには行ってないんか」
「はい、おそらく」
「そうか。既に教科書を借りてきたしるしやな」
びくっ――秋蘭が一瞬震えたように見えました。ぐう、ぐう、ぐう……
「じゃあ、点呼とって授業始めるか。青木ー」
たらたら――秋蘭の額から冷や汗が流れているように見えました。ぐう、ぐう、ぐう……
「教科書持ってきてたんだね、良かった♪」
隣で毬萠が言いました。すると、秋蘭の机から小さな声が聞こえ始めました。まりもー、まりもー、教科書ないよー。秋蘭ちゃんは机に突っ伏して寝ています。少なくともみんなはそう思っています。
「むむ、待てよ。念には念を入れて……おい迫」
「はい」
秋蘭の隣で、迫毬萠が起立しました。
「お前加々美の親衛隊入ってるだろ、もし加々美が教科書を持ってなかった場合お前が助けるといけないから、こっちに来て俺の代わりに点呼をとりなさい」
「はーい。秋蘭、教科書持ってるよね?」
毬萠からファイナルアンサーを求められた秋蘭は、少し顔を上げてうるんだ瞳で答えました。
「うん。持ってない」
みなさん、彼女は教科書なんて持ってませんよ、えぇ~持ってませんとも。