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4時間目


――なんでやねーーん!?――ねーん―ねーん―ねーん……

 広い食堂に本職のつっこみがこだましました。

「い……いやぁ、なんでやねんと言われましても」

 そのつっこみを前にしてほとほと困っている彼女の相方。

 二人は今週末に、ある番組の収録で披露するネタの合わせをするため、学院の一階にある食堂へとやってきたのです。しかし、合わせどころか、漫才の『ま』の字も出ることなく、コメディエンヌであるボケ担当の秋蘭は尋問されるはめになりました。

「『なんでやねんと言われましても』っておひおひ!ボケがつっこみ潰してどうすんねん!」

 がやがやしている食堂の端の席で、近くの人の目を独占しながら美稀がわめきました。

「つっこみ潰すとかじゃなくて、おれっちボケてへんし」

 目を点にしながら秋蘭が言いました。

「ってゆうか食べようやー、冷たくなって調理前のルーみたいになったカレー嫌やもん」

 秋蘭はスプーンを右手で握りしめ、いただきまーすと一声吠えます。

「いやそこまで固くならんし!ってか話聞けー」

 美稀もフォークでソーセージを一突きし、顔の前でぶんぶん振って暴れます。

「ってゆうかあんたらめっちゃ目立ってんで、食事中はお静かに」

 お盆の上に湯気の立った丼ばちを乗せたみちるが、二人が挟むテーブルの横を通り過ぎざまそう言いました。そして美稀の隣に腰かけます。秋蘭とは向かい合う形になりました。

「これはあたしたち二人の問題や、首突っ込まんといてくれる?」

「いや、あたし全然関係ないです」

 美稀の発言に、秋蘭は顔の横で手を上げて断言しました。

「首突っ込んだ覚えはないなあ。単にマナーの悪いソーセージに注意しただけで」

「そ……そーせーじ……?」

 美稀はフォークに刺さったソーセージをわなわな震わせながら声を絞り出します。

「ちよっとー!誰がソーセージやねん!誰がー!」

 またもソーセージをぶんぶん振る美稀。その時、ソーセージが遠心力に耐えかねて宙を舞いました。

「も~みちるちゃん、ここにいたんだぁ~んぐっ!」

 そのソーセージを見事口でキャッチする隆也君。近々サーカス団からお呼びがかかることでしょう。

「いやどんなヘボい芸のサーカス団やねん!ってかなんでここで食べるんさ!?」

「なんでここで食べたらあかんねん」

フォークのみをビシッとみちるに向けた美稀に、箸を持ったみちるが尋ねました。

「い……や……だって」

「ミキティ隣空いてる~?今日はひと際混んでるね~」

 どもっている美稀に、隆也がウインクひとつして言いました。

「え……あ、うんっ」

 少し赤くなりながら美稀はこくりと頷きます。

「美稀はさ、みちるみたいな美女と隆也みたいな美男が一緒にラブラブしながらご飯食べんのが気に食わんねん。自分におぞましい程のコンプレックスを抱いてるねん。ネガティブの塊やねん。自己嫌悪の神やねん」

「あ゛ぁ゛ー?秋蘭何か言ったー?」

「蝶々さんが飛んでる♡」

 秋蘭はおめめきらきらさせながら、窓の外の木々を眺めています。

「それは違う。全然違う。そんなことない」

 みちるが真っ向から秋蘭を見て真剣な眼差しでそう言いました。

「え……みちる……」

 美稀が思い直したようにみちるを見つめます。

「隆也とラブラブしてる要素なんかミジンコの欠片もない。ミトコンドリア程もない」

「み……みちるちゃん、それはもはやミクロ単位だよ……」

「ってあたしのフォローちゃうんかい!」

「話の脱線事故を起こしすぎている」

「うわっ」

 その場の四人全員が、小さな悲鳴をあげました。みちるの隣には、いつからそこに存在していたのか、めがねを曇らせたかおるが座っていました。

「かおる……おったんか……」

「昼は食堂で食事を摂る時間だ」

 美稀の囁くような呟きにも、すかさず答えるかおるちゃん。

「それより、桃はもうええんか」

 みちるの問いかけに、かおるはこくりと頷きました。

「保健室の紋先生が寮まで付き添ってくれるらしい。……まあそこに至るまでいろいろあったが」

 言ってかおるはとんこつラーメンの麺をすすり始めます。あ、更にめがね曇った。

「いろいろって?」

 秋蘭の質問に、

「さっき秋蘭が尋問されるはめになった原因となる人物が、保健室に教科書を返しに来た」

「う゛っ」

かおるが答えて、秋蘭が呻きます。

「教科書……?……おうおうそうやった!」

 美稀が一瞬訝しげな顔をして、そして意気揚揚と声を張り上げました。

「危うく話が脱線するところだったが」

「十分脱線しきっている」

 あ――かおるの冷静発言に言葉が詰まる美稀ちゃん。でもすぐ気を取り直して、

「あんたは何故あんなに六神伶と仲がいい!?いつ、どこで、なにが、どうして!!」

「わー!もーまたそれかよ!かおるがいらんこと言うからやで、事故に見せかけて一生懸命脱線させてたのにー!」

「……ふっ」

「え……え?何なんですかその黒幕級の怪しげな笑みは……?」

「かおるはいつでも謎に満ちてるねん。そんなことより!今日学校が終わったら、あんたの部屋で拷問が待ってるからな!くっ……くくくくくはちじゅういち!」

「何!?なんかわからんけど怖い!」

「何だか大変そうだねー、ま、愛しあう二人には関係ないことだよね、みちるちゃんっ」

「……」

「無視だねっ」

 にこやかに微笑む隆也の頬を、一筋の涙が流れました。

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