twinkle―――翠side
「翠、聞いた?」
「聞いたよー」
「それで?それで?」
「確かに良い声だった」
「でっしょー?♪」
「うん…」
「イケメンな上に癒しボイス…ヤバいよー!」
昼休み時間の、いつもの席に座って、いつもの会話。
恒例になってきた、美希子の"コウさんトーク"
昔からラジオ好きだった美希子が、ラジオから仕入れたネタを話すことで昼休み時間を盛り上げていたが、最近の美希子からは「コウさんカッコいい」としか聞いていない。
あーだこーだ言う美希子に適当に相槌を打ちながら、昨夜のラジオ番組を思い出していた。
大人になりきれていない、男子高校生みたいな声。
だけど、はしゃいでいる感じはなくて、すごく落ち着いていて…
(昔 聞いたことのある声みたいな…懐かしい感じがした…)
「ねぇ、翠」
「んー?」
「コウさんって、何歳くらいかなぁ?」
「この前見せてもらった記事の写真は、ちらっとしか見てない…」
「…んー……あ、あった。ほら」
「うーん……うちらとそんなに変わらないのかなぁ?」
「だよねー。私もそう思う!」
「でも、写真じゃわかんないねー」
「実際に会いたいー!」
「みっこはイケメンを見て、目の保養にしたいだけでしょ(笑)」
「あ、バレた(笑)でもさ、同じ年くらいだったら、学校とか被ってるかもしんないよ?」
「世間は狭いからねー」
「そうそう!実はこの食堂の中にいる人かも…」
「なぁんて、ね!」などと冗談を言う美希子と、一緒に笑う。
(そんなことあったら、すごいよ)
ふと視線を感じ、そちらに目を向ける。
が、その視線はすぐに反らされてしまった。
目を向けた先には、知ってる二人。
(光くんと純ちゃんだ。こんなに近くにいたんだ…)
気付いていなかった。
他学年の人も利用している食堂内には人が多く、周りのことなんて気にしてもいなかった。
(二人、仲がいいなー)
思わず微笑むと、今度はしっかりと視線が合う。
(光くん、さっきも見てた…?)
光の視線は反らされ、純一郎に向けられる。
(小さい頃は、あたしもあの二人の中にいたのにな…)
・・・・・
『みーちゃん、いっしょに遊ぼー?』
『ひかる、みどりがいないと元気なくなるんだよなー』
『ちがっ!じゅんちゃん、いじわる言わないで!』
『ほんとのことじゃん!』
『二人ともケンカはダメ!』
『………』『………』
『みどりもね、二人がいないと元気なくなるよ?』
・・・・・
「何、一人で笑ってるの?」
美希子の言葉に、現実に引き戻される。
もう一度 光と純一郎を見るが、そこにはもう居なかった。
「そこに座ってた二人、翠の幼馴染みだっけ?」
「そうなんだけど…もう長い間 会話してない…」
「坂本くんだっけ?同じクラスでしょ?」
「うん…」
「話しかければいいじゃん」
「そうなんだけどー…」
「あたしなら話しかけない。あのモッサリ根暗がうつっちゃいそうだもん」
「……………」
「あ、時間がもうない!翠も急いで食べて!」
「え、うそ!ほんとだ、ヤバいー!」
先程思い出した幼稚園の頃の思い出も、心の底に溜まる苦い思いも、全部一緒に飲みこむようにご飯をかき込んでいった。