twinkle―――光side
「ねぇ、聞いた?」
「……何を?」
「もう!昨日あれだけ念を押したのに聞いてないの!?」
「あー………ラジオ?」
「そう!私の癒しのひとときを、翠にもお裾分けしてあげようと思ってるのに…また来週までお預けになっちゃったじゃん…」
「お裾分けしなくてもいいよー」
「ダメダメ!コウさんの癒しボイスは聞くべき!」
「確かに癒しを求めてるけどさー…」
「それに!昨夜は最後に私の投稿メールを読んでもらったの!」
「え、すごいじゃん。初めて?」
「そう!初!ペンネームだけどさ、私の名前を呼んでくれるコウさんの声に失神しちゃいそうだったー」
「…重症だね」
「癒されすぎて、ふにゃふにゃだよー!」
「そんなに良い声なのかねー?」
「聞いてないからわかんないの!それに顔だってイケメンなの!」
「ラジオ番組なのに顔わかるの?」
「この前、新聞にチラッと載ってたんだー。『地元の有名人』とかいうコーナーだったんだけど…確かにちょっとした有名人だよね、ラジオ番組のパーソナリティーも。……確かここに挟んでたはず…」
「持ち歩いてるの?どんだけ好きなの?(笑)」
「遠い存在の芸能人より、近くの王子様っていうじゃん!」
「……そんな言葉聞いたことないよ?」
「まあまあ、そんなこと言わずに………あ、あった!ほら!」
「確かにイケメン」
「でっしょー?」
「みっこの好きそうな顔だよねー」
「実は声よりも顔がタイプ!」
「清々しいくらいに素直(笑) みっこのミーハー発揮されてますねー」
「ラジオでしか会えないなんて…寂しすぎる!」
「はいはい」
「適当に流してる……来週は絶対聞いて!私と、コウさん語りしよ!」
「わかった わかった、来週はちゃんと聞くから。ほら!早く食べよ?お昼休み終わっちゃう!」
「やばっ!あと15分しかない!」
(俺の話をしてる…)
2列も離れて座る女子二人が盛り上がっている。
食堂内にはもう人が少なくなってきていたためか、話し声がよく通る。
二人が話していた内容は、俺がバイトでやってるラジオ番組のことだった。
(隣のクラスの渡部さんと……辻村さん…)
今の俺と同じようにパーソナリティーを務める叔父に「お前、良い声してんなー。…ラジオで喋らない?」と声をかけられたことが始まりだった。
嫌々ながら始めた今では、普段とは違う自分になれるこの仕事が、毎週の楽しみになっている。
(『うさぎのみっちゃん』は、渡部さんだったんだ…)
二人の話を聞きながら、黙々と食事をすすめる。
黒渕メガネ、黒髪モッサリ頭、ハリのない少し小さめの声、極めつけにコミュ障。友達と呼べる人は、今 目の前に座る幼馴染みの青木純一郎くらいだ。
こんな冴えない俺 坂本光と、地元のラジオ番組『きらきらひかる』のパーソナリティーを務める コウが、同一人物だなんて気付かないだろう。
「あっちの女子二人、お前の話をしてたな」
「…そだね…」
そう。この学校で知っているのは、純一郎だけなのだ。
「……………」
「…純ちゃん、早く食べないと昼休み終わるよ?」
「はぁぁ………」
純一郎は、目の前に紙切れがあったら飛んでいってしまいそうなくらいに、盛大なため息をつく。
「光。お前さ、そのモッサリ辞めない?」
「顔見られたくない」
「名前負けしてんよ?」
「知ってる」
「だったら、変えようよ!変わろうよ!」
「コウのときは頑張ってるよ?」
「普段からも頑張ってよ!」
「やだ。注目されたくない」
「ひーかーるー」
「嫌なものは嫌。…先に戻るよ?」
「待ってよ、俺も行く!」
「良い顔してるのに隠すなんて勿体ない…宝の持ち腐れだよ」などと、ブツブツ呟く純一郎の声を聞きながら、先程の女子二人の会話を思い出していた。
(…来週は辻村さんも聞くのかな?)
期待が心の中に広がり始めるとすぐに、不安の波が襲ってくる。
(大丈夫。大丈夫。今の俺は…)
「昔の光じゃないよ。今の光は、昔の光じゃない。大丈夫」
そう、肩を叩いてくれる純一郎に、小さくお礼を言った。