表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Avenger  作者: 紫音
1/2

第1話

……この世界での最初に残る鮮やかな記憶は赤だった。


血の赤。

それも父親と母親の血の色。


何が起きたかわからない。

この世界に来た時、最初に思った事だ。


忙しい父親が珍しく取れた有給休暇と土日を合わせてのささやかな家族旅行だったはずだった。

苦笑いを浮かべて家族サービスをしなければいけないと言っていた父親の顔が今もまぶたを閉じると目に浮かぶ。


家族旅行なんて恥ずかしいから、面倒だと悪態を吐きながらも、喜ぶ両親の顔にどこか嬉しくなっていた。


その途中で急に視界がぐらついた。

父親が運転していた車はなくなり、家族3人がどこともわからない場所に放り投げだされた。


呆然とする俺と母親を励まし、どうにか人のいる場所まで行こうと言った父親。

しばらく歩き、初めて遭遇した人間はゲームやマンガで見るような野盗と言う人間だった。

信じられなかったが、野盗は俺達家族を獲物としか見ていなかったようで躊躇する事無く、俺へと向けて刃がこぼれた剣を振り下ろした。

父親は俺を守ろうと手を伸ばして力一杯に俺を押し飛ばした。

振り下ろされた刃は無情にも父親の首を切り落とし、噴き出した血が俺と母親の身体を真っ赤に染めた。

その感触は現実味がないくらいに熱かった。

そして、父親の命が散った様子を目の当たりにした母親は発狂したように声を上げた。

それは母親の心が壊れてしまった瞬間だった。

壊れた母親を見て、野盗は舌打ちをすると母親に向けて刃を振り下ろす。

母親はそれを避ける事無く、切り伏せられてしまった。


すぐそばに在ったはずの幸せが音を立てて崩れ落ちた。

父親と母親の死を目の前に涙が溢れ出た。


そんな俺を見て、野盗は俺で最後だと言うような下衆な笑みを浮かべて近づいてくる。

涙で歪む視界のなか……なぜか、その動きがスローモーションに見えた。


奇声を上げながら何とか身体を動かして野盗に体当たりをする。

反撃など考えていなかった野盗は突然の行動に驚き、体勢を崩すが何とか身を交わす。

反撃に腹を立てた野盗は無防備になった俺の背後へと剣を振り下ろそうとする。


しかし、俺の目は野盗の動きが完全にスローモーションに見えている。

その剣をかわすと剣を取り上げようと野盗の腕をつかもうとするが上手くいかず、地面に転がる。

剣を取り合おうともみくちゃになっている途中で耳にはずぶりと言う鈍い音と腕には何とも言えない感触が伝わった。視線には目を見開いた野盗の顔があり、その目は自分の命を奪った俺への憎しみが向けられている。


身体に圧し掛かる命の重さに身体が硬直するなか、野盗の背中の向こうでこと切れたはずの父親と母親の亡骸から白い光が上がり、大地に溶け込んで行ったように見えた。




その様子に俺は直感で理解してしまった。

俺達家族は『この世界に食われるために呼び出されたんだ』と。







……懐かしい悪夢ゆめを見た。


胸糞の悪さに舌打ちをすると乱暴に頭をかく。

ベッドから這いずり出ると着替えと荷物をまとめて部屋を出る。


……街道を荒らす野盗か? 生死は問わず、懸賞金はこの近辺なら受け取れるのか?


宿をとっていた酒場兼宿屋の掲示板に張られてある依頼書を覗き込む。

その中で、相手を殺しても構わない依頼書だけをピックアップして行く。

俺にとってこの世界『エルグラド』の人間の命など無価値なものだから。


エルグラドに召喚されたのは15才の時だった。

もう3年も前になる。

エルグラドには時間の感覚が薄い、日や月と言った基準が決められていない。

だから、自分の中だけだが元の世界と同じく日が昇り、沈む。また日が昇るまでの時間を1日としてそれを30日続けた日を1カ月としている。1年も同様に定義付けた。


この世界に呼び出されてどうやって生きてきたかと言えば、家族を殺した野盗の首には懸賞金がかかっていたらしく、それを狙ってきた人間達に俺は保護された。

俺のような異世界から迷い込んでくる人間は多いようで特に珍しがられる事無く、この世界の人々に受け入れられた。


……当然だ。俺達はこの世界に食われるために呼び出されたんだ。

エサが俺達家族だけであるわけがない。

この世界は定期的に多世界から人々をさらい、この世界の養分にしているのだから。


そう思った時、ふつふつと怒りが込み上げた。


そして、こう思った。

人々を定期的にさらっているなら、そのシステムがどこかに必ず存在していると。

失われた大切な者が戻らないなら、ただで食われてやるものか。

この世界に殺されて食われるなら、生きているうちにそのシステムを見つけだして破壊してやる。


この世界が壊れようが知った事ではない。


食おうとしたものが毒を持っている事を思い知らせてやる。

そう誓った。


覚悟してしまえば、後は簡単だった。

俺はエサだ。どうせ、地球や日本になど戻れないだろう。

何より、一応、人の形をしたものを殺したんだ。

その時に俺の中にある何かが壊れた。

そんな状況で元の世界に戻れても平和な場所に戻って生きて行けるわけなどない。


だから、必死に学んだ。

父親と母親の復讐を果たすために。

この世界で生きる術を……

この世界の殺し方を……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ