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第 9 話 龍、街を視察するのこと

第九話、更新しました。

良かったらお読みください。

模擬試合から一週間が経った。

私はこの一週間、華琳殿の命令で街の警備の草案を考えていたが、華琳殿に許可をもらえたのが昨日。

そして今日は、午後から街の視察に行くことになっている。


「き、貴様は誰だ!?」

「ん?」


集合場所で待っていると、背後から春蘭殿の声が聞こえてきた。

振り返ると大剣を構えた春蘭殿とその後ろで警戒している桂花殿がいた。

二人は私の顔を見た途端、驚いた顔になる。


「・・・・・・どうしたのだ? 龍よ」

「?」

「何故、髪型を変えたのよ! 不審者が侵入したのかと思っちゃったじゃない!」


春蘭殿の問いに首を傾げると、桂花殿がそう怒鳴ってきた。


ああ、そう言えば髪型をポニーテールに直すのを忘れていたよ。


挿絵(By みてみん)


「さっきまで倉庫の整理をしていたんだよ。掃除の時、決まって三つ編みで三角巾だったものでね」


ポニーテール+三角巾だと、どうも違和感がある。

そのため、三つ編み+三角巾にしていたワケだが、今日は倉庫からそのまま集合場所へやってきたので、三つ編みをポニーテールに直すのを忘れていたのだ。


「ふ、ふ~ん。そ、そうなの」

「うむ。それは仕方がないな」


桂花殿は若干、納得していない風だったが、春蘭殿はうんうんと頷いてくれた。


まぁ、三つ編み+三角巾は私の感覚だからね。

桂花殿が納得しなくても当たり前だ。


「で、華琳殿と秋蘭殿はまだお昼かい?」

「うむ。食事は済んだのだが・・・・・・、何か髪のまとまりが悪いとかでな。今、秋蘭に整えさせている」

「なるほど」


今日はいつもより、若干湿度が高い感じだからな。明日あたり雨でも降るかな?


私もこの長髪を整えるのに少し時間がかかるので、女の子の気持ちは分からんでもない。

それに華琳殿は州牧だ。身嗜みにも気をつけなくてはならないから仕方がないな。


「・・・・・・それにしても、華琳殿の州牧就任は大変なことだね」

「華琳さまには既に陳留刺史としての十分な実績があるだろう。州牧など、ごく正当な評価、いや、むしろ低いくらいだ」

「ははは。そうだね」

「うむ。本来の州牧が逃亡した非常時でもあるしな。中央にも、わざわざ人を選別して派遣するより、有能な華琳さまに任せよう、と思った見る目のある奴がいたのだろう」

「それに、中央にも知り合いは何人かいたしね」

「ほぅ・・・・・・」


中央の知り合いか・・・・・・。

なるほど華琳殿の州牧就任の裏には佳花殿も絡んでいるというわけか。


「中央の知り合いというと、袁紹の?」

「ええ。袁紹の所って、扱いは悪かったけど、中央との繋がりだけはたくさん作れたのよね」

「・・・・・・それを知って華琳殿は怒ってます?」


私が振り返ってそう尋ねると、華琳殿は笑顔で桂花殿を見つめる。


「別に怒らないわよ」

「華琳さま・・・・・・」

「なりふりを構っていられるほど、今の私たちに力も余裕もないでしょう。使えるものなら天の知識でも部下の繋がりでも、遠慮なく使わせてもらうわ」


桂花殿を見つめていた華琳殿は、次に私の顔をマジマジと見つめてくる。


やっぱり気になるかな? この髪型。


「・・・・・・似合ってるわね、その髪型。決めたわ。いつもその髪型にしなさい」

「はぁ・・・・・・、それは構いませんが、何故(なにゆえ)?」

「理由はその髪型の方が可愛いからよ。いいわね、明日からもその髪型にしなさい」

「は、はぁ・・・・・・、分かりました」


可愛いから三つ編みですか・・・・・・。

まぁ、髪型にこだわりはないから別にいいけど、理由がなぁ・・・・・・。

このままだと男というのが益々分からなくなりそうな気がするのは私だけかな?


「華琳さま。髪の方は大丈夫ですか?」

「ええ。雨でも降るのかしらね? いつもと違うようにしかまとまらなかったのよ・・・・・・、どう? 政也から見て変じゃないかしら?」

「え? そ、そうですねぇ・・・・・・」


春蘭殿の問いに答えた華琳殿がそう尋ねてくる。

我に返った私は、華琳殿の髪をじっくりと見ていく。


うむ。少し、まとまりが悪い気がするが、いつもの華琳殿と変わりはない。


「ええ。大丈夫ですよ」

「ならいいわ。それに州牧になったおかげで季衣との約束を守ることができたわけだもの。言うことはないわね」

「そうですか。あれ? ところで、季衣は?」


街へは皆で行く予定だったはずなんだけど・・・・・・、いつも賑やかな季衣の姿が見えない。


「今朝、山賊のアジトが分かったという報告が入ってな。討伐は私か姉者か龍がでるから街を見てこいと言ったのだか、聞かなくてな」

「そうなのか・・・・・・」

「ああ。自分の村と同じ目に遭っている村を見ていられんのだろう。はりきって出掛けていったぞ」

「じゃ、お土産くらいは買って帰らないといけないな」

「なんだ、考えることは同じか」

「あんたたち、観光に行くわけじゃないのよ?」

「視察はちゃんとやりますよ。その上で季衣にお土産を買うくらいは別に良いでしょう、華琳殿?」

「仕事をちゃんとするならね」

「はいっ!」

「・・・・・・返事だけにならなければいいけど」

「さて、揃ったのなら出掛けるわよ。桂花、留守番、よろしくお願いね」

「・・・・・・はい。いってらっしゃいませ」


桂花殿は少し複雑そうにしながらも、そう返事をして私たちを送りだした。桂花殿が留守番なのは、非常事態に備えてだ。桂花殿なら非常事態でも冷静に対応してくれるからね。


*****


街にでると、旅芸人がいたため立ち止まる。

秋蘭殿曰く、南方から女の子三人で陳留にやってきたのは珍しいらしい。

商人のと違って安全な街道が確保されていなければ寄ってこないらしいので、それだけ私たちの働きが認められてたってことである。


「まぁ、腕としては並という所ね」


華琳殿の言う通り、この三人組の歌は上手とも下手とも言えない感じである。


「それより私たちは旅芸人の演奏を聴きに来たわけではないのよ?」


街の視察ですね。


「狭い街ではないし、時間もあまりないわ。手分けして見ていきましょうか・・・・・・」

「では、わたしは華琳さまと・・・・・・」

「政也は私に付いてきなさい」

「はい?」

「えー・・・・・・」

「・・・・・・諦めろ姉者。我々より、龍の方が素早く敵を察知できるのだからな」

「・・・・・・うぅ。そういうことか・・・・・・、龍」

「なんだい?」

「どうしたらそんなに気配を読むのが早くなるのだ?」

「う~ん。こればかりは修練してくれとしか言えないね」


気配の察知能力は、片目での剣術修業の賜物だ。

春蘭殿に片目になれとは言えないから、そう答えるしかなかったのは言うまでもない。


「華琳さま。私は街の右手側、姉者には左手側を回らせます。それでよろしいですか?」

「問題ないわ。では、突き当たりの門の所で落ち合いましょう」

「はっ」

「・・・・・・はぁ」


そんなわけで私たちは、春蘭殿や秋蘭殿と別れて回ることになった。

私と華琳殿が担当する街の中央部は、真ん中を走る大通りと、そこに並ぶ市場がメインになる。

しかし、華琳殿が最初に入ったのは小さな店や住宅がひしめき合う裏通りだ。

その理由としては、大きな所の意見は黙っていても集まるものだし、こういう所の雰囲気は実際に視察してこそ意味があるということだろう。


「はい、寄ってらっしゃい見てらっしゃーい!」


華琳殿と店の視察を行っていると、一つの露店の前に人だかりができていた。そこにいたのは露店商らしき少女だった。

猫の額ほどのスペースには、竹カゴがずらりと並べられている。


「ん? これは・・・・・・?」

「どうかした、政也?」


足を止めて竹カゴを見ていると、店主の少女の脇に置いてあるものに興味をそそられた。

それは箱状のフレームの中に、木や金属で作られた歯車が規則正しく並んでいる装置だった。


まぁ、歯車がこの時代にあったかどうかは別として、この精巧に作られた装置は目を見張るものがある。


興味深かそうに装置を見てると、店主の少女が気がついて、私たちに話しかけてきた。


「おお、そこのお二方、なんともお目が高い! こいつはウチが発明した、全自動カゴ編み装置や!」

「全自動・・・・・・カゴ編み装置・・・・・・?」


その言葉に華琳殿が頭に疑問符をだしながらそう呟いて、私はそれを興味深く見つめる。


全自動ねぇ・・・・・・。


「せや! この絡繰の底にこう、竹を細ぅ切った材料をぐるーっと一周突っ込んでやな・・・・・・。そこの姉さん、こっちの取っ手を持って!」

「うむうむ」


私は頷きながら装置の横についていたハンドルを手にとった。


「でな。こうやって、ぐるぐるーっと」


少女の言う通りにハンドルをグルグル回していくと、セットされた竹の薄板が装置に吸い込まれていって、しらばらくすると、装置の上から編み上げられた竹のカゴの側面がゆっくりとせり出してきた。


「ほら、こうやって、竹カゴのまわりが簡単に編めるんよ!」

「ほぅ・・・・・・、なかなか、よく出来ている」


全自動ではないが、それを言うのは無粋ってもんだろう。

まぁ、それは良いとして、この装置・・・・・・。


「・・・・・・底と枠の部分はどうするの?」

「あ、そこは手動です」

「・・・・・・そう。まぁ、便利といえば、便利ね」


華琳殿は呆れながらも、この装置をそう批評する。


そう、便利と言えば便利だ。しかし、この装置は構造的にいって試作の段階だろう。


私は絡繰を見ただけで、ある程度構造が分かる。これは祖父ちゃんの修業(未だに意味があったのか分からないものばかり)の一つに絡繰を分解し、それを元に組み立てるというものの副産物だ。


で、この装置はある程度は竹を編めるが、しばらくすると・・・・・・。


「あ、ちょ! お姉さん、危ないっ!」


少女がそう叫んだ時にはもう遅い。


「大丈夫、政也?」

「大丈夫です」


バンッという音とともに、私の持っていた装置がハンドル部分を残して周囲に吹き飛び、バラバラになった木製な歯車や、吹き飛んだ竹カゴの材料が、その辺りに散らばっている。

そう、ハンドルを回しつづけると竹のしなりに耐え切れなくなって爆発してしまうのだ。


※分かってたのなら、回すのをやめたら良かったのでは・・・・・・?


ん? 今、何か聞こえた気がするが・・・・・・、まぁ気のせいだろう。


「あー。やっぱダメやったかぁ・・・・・・」


少女は頭を掻きながら、そう呟く。


「まだそれ、試作品なんよ。普通に作ると、竹のしなりにこう強度が追い付かんでなぁ・・・・・・、こうやって、爆発してしまうんよ」

「・・・・・・で、そんなものを持ってきた理由は?」

「置いとったらこう、目立つかなぁ・・・・・・、て思てな」


やれやれ、私だったから良いものの・・・・・・。


「ならここに並んでいるカゴは、この装置で作ったものではないの?」

「ああ、村のみんなの手作りや」

「・・・・・・・・・・・・」

「やれやれ・・・・・・」


少女のその顔に華琳殿は呆れ顔だ。私も苦笑いしかできない。

ただまぁ、装置を壊してしまったし、ここは竹カゴを買うとするか。


「店主、装置を壊したお詫びだ。一つ買うよ。華琳殿、いいですね?」

「・・・・・・・・・・・・まぁ一つくらいなら、いいわ」


華琳殿に許可をもらった私は竹カゴを一つ買った。


正直言うと、部屋の竹カゴの底が抜けていたから、ちょうど良かったよ♪


*****


集合場所は、突き当たりの門の所。

ゆっくりと回ったと思ったのに、集まったのは私と華琳殿が一番早かった。

とはいえ、それほど待つこともなく、二人も合流したんだけど・・・・・・。


「・・・・・・で?」

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

「どうしてみんな、揃いも揃って竹カゴなんて抱えているのかしら」

「はぁ。今朝、部屋のカゴの底が抜けているのに気付きまして・・・・・・」

「・・・・・・まぁ、なら仕方ないわね。どうせあなたの事だから、気になって仕方なかったのでしょう?」

「は。直そうとは思っていたのですが、こればかりはどうにも・・・・・・」

「いいわ。で、春蘭は? 何か山ほど入れているようだけれど・・・・・・」

「こっ、これは・・・・・・、季衣の土産にございます!」

「何? 服?」

「はっ! 左様でございます!」

「・・・・・・そう。土産も良いけどほどほどになさいね」

「はいっ! ほどほどにしますっ!」

「・・・・・・で、どうして龍もそんなカゴを背負っているのだ?」

「試作品を壊してしまってね。そのお詫びさ」

「・・・・・・そうか」

「それで、視察はちゃんと済ませたのでしょうね。カゴなり土産なりを選ぶのに時間をかけすぎたとは、言わせないわよ」

「はいっ!」

「無論です」

「なら良いわ。帰ったら今回の視察の件、報告書にまとめて提出するように・・・・・・、政也もね」

「了解です」


私が華琳殿の言葉に頷いた時、その声は、唐突に掛けられた。


「そこの、若いの・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・誰?」

「そこの、お主・・・・・・」


声の主は、目深に布を被った人物だった。

低くしわがれた声は、お婆さんのようにも・・・・・・、若い男が無理に声を作っているようにも聞こえてくる。

もちろん被った布のせいで、表情なんか全く分からないし、気配すら読み取ることができない。


この人は相当できるぞ・・・・・・。


「なんだ? 貴様」

「占い師か・・・・・・」

「華琳さまは占いなどお信じにならん。慎め!」

「・・・・・・春蘭、秋蘭。控えなさい」

「は? ・・・・・・はっ」

「強い相が見えるの・・・・・・。希にすら見たことの無い強い強い相じゃ」

「いったい何が見えると? 言ってごらんなさい」

「力の有る相じゃ。兵を従え、知を尊び・・・・・・、お主が持つは、この国の器を満たし繁らせ栄えさせる事のできる強い相・・・・・・。この国にとって、稀代の名臣となる相じゃ・・・・・・」

「ほほぅ。よく分かっているではないか」

「・・・・・・国にそれだけの器があれば・・・・・・、じゃがの」

「・・・・・・・どういうことだ?」

「お主の力、今の弱った国の器には収まりきらぬ。その野心、留まるを知らず・・・・・・、あふれた野心は、国を犯し、野を侵し・・・・・・、いずれ、この国の歴史に名を残すほどの、類い希なる奸雄となるであろう」

「貴様! 華琳さまを愚弄する気か・・・・・・っ!」

「秋蘭殿、落ち着きなさい」

「・・・・・・・し、しかし龍!」


私は今に飛びださんばかりに怒った秋蘭殿を手で制する。それでも動こうとする秋蘭殿を華琳殿が目で制する。

そしてその顔に笑みを浮かべながら、口を開いた。


「そう。乱世においては、奸雄となると・・・・・・・?」

「左様・・・・・・。それも、今までの歴史にないほどのな」

「・・・・・・ふふっ。面白い。気に入ったわ・・・・・・。秋蘭、この占い師に謝礼を」

「は・・・・・・?」

「聞こえなかった? 礼を」

「し、しかし華琳さま・・・・・・」

「・・・・・・政也。この占い師に、幾ばくかの礼を」

「はい」


私は頷くと、幾らかのお金を占い師が置いていた茶碗の中に入れる。

秋蘭殿は華琳殿を悪く言われたことが気に入らないんだろう。占い師を静かに睨み付けている。


「乱世の奸雄大いに結構。その程度の覚悟もないようでは、この乱れた世に覇を唱えるなどできはしない。そういうことでしょう?」


それでこそ華琳殿だ・・・・・・。


「それから、そこのお主・・・・・・」

「・・・・・・私かい?」

「大局の帰路が、数度訪れる。しかし、己の信ずる道を突き進みなされ。さすれば道は開かれよう」

「・・・・・・分かった。その言葉、確かに心に刻みこもう」


私はそう言うと、華琳殿たちとともにその場を後にした。

大局の帰路が何なのか分からない。

しかし己の信ずる道を突き進めと占い師は言った。


何があっても、華琳殿とともに・・・・・・、それが私の信ずる道だ・・・・・・!


私は改めて華琳殿に忠誠を誓うのだった。

第九話をお読みいただきありがとうございます。

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