第 8 話 龍、模擬試合に参加するのこと
第八話、更新しました。
良かったらお読みください。
盗賊団討伐から一週間ほどが経った。
その間、私は秋蘭殿の手伝い、街の警備隊の指示等の文武官として忙しく働いていた。
で、今現在、私は執務室でお茶(自分で入れた)を啜って寛いでいる。
華琳殿の州牧就任で治める街が増えたことによる事務処理がさっき終わったのだ。
いや~、普段の竹簡の量より多くて大変だったよ。
『龍将軍! 龍隊の新人全員、修練場に集合しました!』
「ああ。すぐ行くよ」
その時、私の部隊の副長(仮)が呼びにくる。
さて湯のみを片付けて行くとしますか・・・・・・。
*****
「で、華琳殿。何故ここにいるんです?」
修練場に着いたら龍隊の新人たちの他に華琳殿が待っていた。
新人たちは直立不動だ。
まぁ、それは仕方がないとしても、何故ここに華琳殿がいるのかが分からない。
「秋蘭の報告を聞いてたら、政也の隊の子たちの話が聞こえてきてね」
「はぁ・・・・・・」
私の問いにそう返事をしてきた華琳殿。
うちの部隊の子たちの話とは・・・・・・?
「『将軍達の中で一番強いのは誰だと思う?』とか、『そりゃ、元譲さまだろう』とか、『いやいや、龍さまも捨て難い』とかね。それを聞いていたら、面白いと思って」
「・・・・・・将軍同士を戦わせて一番強いの決めようということですか?」
「ええ。春蘭や秋蘭、季衣も承諾してくれたわ」
華琳殿はそう言うと、私の方を見てくる。
あなたも承諾してくれるわよねと言わんばかりの良い笑顔だ。
で、新人たちの方に視視線を向けると、物凄く期待した表情で私の返事を待っているようだった。
はぁ、仕方がない・・・・・・。
「分かりました」
「ふふ。承諾してくれると思ったわ。じゃ、試合の会場に行きましょう」
「はい」
私は返事をすると、華琳殿と一緒に試合の会場へと向かった。
その際、華琳殿は部隊の皆に『貴方たちも将軍たちの戦いを見といた方が良いわ。一緒に来なさい』と言ったので、新人の皆も一緒に試合会場へと向かった。
「華琳さま、お待ちしておりました」
試合会場(城門を少し外れた場所)に到着した時、会場準備の指示をしているらしい桂花殿が近寄ってきて、華琳殿に挨拶をした。
どうやら準備は整ってるみたいで、各隊の新人たちが固唾を飲んで、今か今かと試合が始まるのを待っている。
「桂花、準備はできてる?」
「はい。こちらです」
華琳殿は私に『頑張ってね』と言うと、桂花殿についていった。
そこは戦いがよく見える特等席。
刺客からすれば殺しやすい場所だが、それを阻止するかのように親衛隊がいるから安心だろう。
それに万が一の場合は私が動けばいい。
そう思った私は、自分の部隊の新人たちに、他の新人たちの方に向かうよう指示してから春蘭殿たちがいる場所に向かった。
「遅いぞ、龍!」
「ああ、悪かったね」
控え場所につくと、開口一番に春蘭殿に怒鳴られる。
私は苦笑しながら謝ると、秋蘭殿の隣に立った。
「しかし、秋蘭殿が承諾するとは珍しい。どういう心境の変化だい?」
「ふっ。私も龍とは戦いたいと思ってたのでな。いい機会だし、新人たちにも良い刺激になるだろうからな」
秋蘭殿は今か今かと戦いの火蓋が落とされるのを待っている春蘭殿を愛でながら、私の問いにそう返してきた。
私と戦いたいとは意外だ。
普段の秋蘭殿を見ると、少し信じがたい。
まぁ、春蘭殿と秋蘭殿は双子だから、似ている部分もあるのだろうから、納得するしかないな。
「えっと対戦するにしてもどのようにするんだい?」
「うむ。それは――ん? そろそろ始まるみたいだ。桂花から戦いの流れを説明されるだろう」
「ああ、そうだね」
秋蘭殿は戦いの流れを喋ろうとした時、桂花殿が出てきたのに気付いたので喋るのをやめる。
いよいよみたいだな・・・・・・。
桂花殿が戦いの趣旨や流れを説明する。
まず総当たり戦を行い、第一位と第二位の将軍が再度戦って勝者が魏で一番強い将軍となるらしい。
「という事は最低でも三回戦うということか・・・・・・」
「うむ。そう言う事だ」
秋蘭殿が私の呟きに頷いた時、桂花殿と入れ替わりに私の部隊の副長(仮)が出てきた。
って、君は何をしてるんだい?
『孟徳さまから審判役を仰せつかいました龍隊副長(仮)・王継です。よろしくお願いします』
あ、そう。審判は副長(仮)なのね・・・・・・、って華琳殿。
一応、私に断りを入れてくださいよ。まぁいいですが・・・・・・
『では試合を始めさせていただきます。まずは夏侯元譲・妙才両将軍前へ!』
「よし!」
「うむ」
副長(仮)の呼び出しにより、春蘭殿と秋蘭殿が定位置につく。
という事は、私は季衣と最初に戦うわけか・・・・・・。
「お姉ちゃん、最初はボクとだね」
「ああ、そうみたいだね」
「ボク、負けないよ!」
「ははは、お手柔らかに頼むよ」
春蘭殿と秋蘭殿を見つめる中、季衣が近寄ってきた。
仕事の都合上、季衣とは今まで手合わせをしてなかったから、楽しみではある。
『時間無制限、武器を離した時点で終了とします。両者、それでよろしいですか?』
『『ああ!』』
『では始め!』
副長(仮)の合図により、秋蘭殿と春蘭殿の戦いが切って落とされた。
はてさて、どちらが勝つのかねぇ・・・・・・。
*****
『それまで! 勝者、夏侯元譲将軍!』
『『『『『おおっ!』』』』』
副長(仮)がそう叫ぶと、周りの新人達が歓声を上げる。
秋蘭殿が春蘭殿の猛追に耐えきれずに弓を落としてしまい、春蘭殿の勝利が決まったのだ。
春蘭殿に接近されての猛追は流石の秋蘭殿もってところかな?
さて次は私と季衣の戦いか・・・・・・。
『夏侯元譲・妙才両将軍は戻ってください。続きましては、龍・許仲康両将軍前へ!』
「さて行くか」
「うん」
春蘭殿と秋蘭殿と入れ替わりに、私と季衣が定位置につきお互いの得物を構える。
季衣の得物は巨大鉄球。
それを軽々持ち上げるのを見ると、どこにそんな力があるのか疑問に思ってしまう。
『龍! 私と戦う前に負けるなよ!』
春蘭殿が叫でいるのを聞き流し、精神統一をしながら試合開始の合図があるのを待つ。
そう言えばこんなに沢山の観衆の中、試合をするのは久しぶりだっけ。
ふふ、春蘭殿ではないが、確かにこの試合は楽しくやらないといけないな。
「両者準備はよいでしょうか?」
「うん!」
「ああ」
「では始め!」
副長(仮)の合図により、私と季衣の戦いが切って落とされた。
さて季衣・・・・・・、楽しもう!
**********
『両者準備はよいでしょうか?』
『うん!』
『ああ』
あら? ふふ、政也の雰囲気が変わったわね。
『では始め!』
王の合図で政也と季衣との戦いが始まる。
最初に仕掛けたのは季衣。得物を政也目掛けて放り投げる。
しかし、政也は少ない動きでそれを避けた。
ふふ。やはりあのとき、季衣の攻撃を受けたのは、季衣の思いを受け取るためだったみたいね。
そう思いながら戦いを見守る。
次に仕掛けたのは政也。一瞬のうちに季衣の懐に飛び込み、中段に構えていた得物で突きをする。
季衣は横に跳んでかわして、得物を戻し構える。
政也の攻撃時の瞬間的な加速はかなり凄いわね。
でも、試験の時の最後に見せた速さよりは、遅い感じがするから今のは様子見ってところかしら。
「ねぇ、桂花」
「はい?」
「貴女はどっちが勝つと思う?」
「政也ではないでしょうか?」
「どうして?」
「季衣は、あの得物を持ち上げられるほどの力があります。それは春蘭と同等ぐらいでしょう。ですが、戦いにおいては経験不足と言わざる負えません。それに対して政也は、片目という不利をものともしない技量や状況判断能力が高いです。その点を鑑みて、政也の勝利の可能性が高いと言えます」
「そうね、私もそう思うわ。桂花、褒美をあげるわ。この試合が終わったら、私のところに来てちょうだい」
「華琳さま~、ありがとうございます//////」
桂花と話をしながら、試合を見つめる。
攻撃をかわした季衣はお返しとばかりに得物を振り回して、何度も政也に攻撃するが、政也は冷静にそれを捌く。
季衣が攻撃、政也が防御・回避という構図を数回繰り返した時、政也が動き出す。
季衣が得物を投げた瞬間、政也は前に見せた速さで季衣の懐に飛び込んだ。
季衣はその速さに驚愕して一瞬動きを止めてしまう。
その隙を見逃さなかった政也は季衣の得物を払い落し、季衣の首筋に得物を当てた。
ふふ、政也の勝利ね・・・・・・
『『『『『・・・・・・・・・・・・』』』』』
『・・・・・・はっ! そ、それまで! 勝者、龍将軍!』
『『『『『おおおっ!!』』』』』
時が止まったかのように静まり返る兵士たち。
しかし、王のその宣言で一気に歓声が上がった。
『す、凄い・・・・・・!』、『一生、ついていきます!』等の声も聞こえる。
ふふ、やはり新人たちにこの試合を見せて良かったわ。
これで一層、修練に励んでくれるでしょう。
**********
模擬試合は夜まで続いて終決した。
結果を次のようになった。
総当たり戦
第一位 私 (3-0)
第二位 春蘭殿(2-1)
第三位 秋蘭殿(1-0)
第四位 季衣 (0-3)
決勝戦
○春蘭殿vs私●(体力の差で春蘭殿の勝利)
「皆、素晴らしい戦いだったわ。元譲、優勝おめでとう」
「はい!」
春蘭殿は物凄く良い笑顔だ。
まぁ、大好きな華琳殿に褒められたのだから仕方がないか。
それにしても今日はいつもより疲れたなぁ。
けど、良い経験だったし、たまにはいいかな。
「お姉ちゃん! お腹すいたよ~」
「ははは、そうだね。じゃ、(春蘭殿の奢りで)何か食いに行こうか」
「やった! 早く行こう!」
華琳殿の祝辞で模擬試験を終えて城へと戻る道中、季衣がそんなことを言ってきた。
私が微笑みながらそう提案すると、季衣は物凄く良い笑顔になって私の手をとり、街へと急いでいく。
そして城に戻った私と季衣と秋蘭殿は季衣のオススメの店へと繰り出した。
春蘭殿は桂花殿と共に華琳殿に呼ばれているので、不参加だ。
「おっ♪ これ、美味しいな」
「うむ」
「うん! 美味しいよね!」
季衣がオススメするだけあって、物凄く美味しかった。
この麻婆豆腐も私好みの辛さで良い。
そう思いながら私は皿に盛られた料理を堪能していった。
「親仁さん、美味しかったよ。また来るよ」
「へい! ありがとうごぜいやす」
十分に料理を堪能した私たちは店の親仁さんにお礼を言って城へと戻っていった。
お支払いは優勝及び華琳殿に呼ばれたことでテンションMAXの春蘭殿がしてくれるらしい。
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