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第 6 話 龍、許緒(きょちょ)に出会うのこと

柾棟様、感想ありがとうございます。


第六話、更新しました。

良かったらお読みください。

最終確認を終えて、出撃を開始。

私は腰に白狐を提げ制服の下に簡易の帷子(かたびら)を着ていた。

この帷子は牛猪(ぎゅうい)事件の時、奥様方からもらったお礼で作ったもので、防御力は低い。

しかし、ないよりはあった方が良いということで、作成したわけだ。


「龍、大丈夫か?」


隣で並行している秋蘭殿が声をかけてきたので、大丈夫と返事する。

今まで馬に乗る機会がなかったから乗れるか心配だったけど、初めてなりに上手く乗れているから一安心だ。


ただまぁ、乗馬しながらの攻撃は別の問題だけど・・・・・・。


「それにしても・・・・・・、凄く面白いことになったなぁ」

「龍・・・・・・」

「おっと、すまない」


秋蘭殿が顔をしかめたため素直に謝って、直ぐに緩んだ顔を引き締めた。

しかし、あの荀文若や曹孟徳の手腕をこの目に見ることができる。

顔が緩んできてしまうのは仕方がないことだろう。


「・・・・・・・・・・・・(ジー)」

「ん? 桂花殿、何かご用か?」

「(ビクッ)いえ、何でもないわ」


桂花殿がじーっと私を見つめていたため、何か用かと尋ねると、肩を僅かに動かし返事する。


ふぅ。やはり私のような若輩者に真名を言われるのは嫌みたいだな。

華琳殿から私や秋蘭殿が自分のことを真名で呼ぶようにと言われているから、顔にださないようにしているが・・・・・・、まぁ桂花殿に認められるようにがんばるしかないな。


「・・・・・・しかし桂花。あのやり取りは肝が冷えたぞ」

「仕方がないじゃない。軍師の募集なんてしてなかったんだから」

「はは、そうだね。軍師になりたいと思っていたのなら尚更だ」


 まぁ、経歴を偽って申告する輩も多いみたいらしいし、文官はよほど名の通った輩でない限り、使ってみないと判断がつかないのは当然だ。


「・・・・・・うむ。それもそうだな」

「そうよ。だから一刻も早く孟徳さまの目に留まる働きをして、召し上げていただこうと思ったのだけれど・・・・・・、その機が思ったより早くきて良かったわ」


だから、ああいう強攻策にでたってわけか。


「で、華琳さまはどうだったのだ?」

「思った通り、素晴らしいお方だったわ・・・・・・。あのお方こそ、私が命を懸けてお仕えするに相応しいお方だわ!」


桂花殿は乗馬しながら、頬に両手を置いて恍惚の表情をしている。

華琳殿の尊敬度が相当なものであると推測できる。

桂花殿にとって華琳殿は崇高なるお方みたいだな。


「おお、貴様ら、こんな所にいたか」

「どうした、姉者。急ぎか?」

「うむ。前方に何やら大人数の集団がいるらしい。華琳さまがお呼びだ。すぐに来い」

「分かったわ!」

「うむ」

「私も?」

「なに当たり前のことを言っているのだ、お前は? 龍も来い」


私は苦笑しながら了解して、三人と一緒に華琳殿の元へと急いだ。


「・・・・・・遅くなりました」

「丁度、偵察が帰ってきたところよ。報告を」

「はっ! 行軍中の前方集団は、数十人ほど。旗がないため所属は不明ですが、格好がまちまちなところから、どこかの野盗か山賊だと思われます」

「・・・・・・様子を見るべきかしら」

「もう一度、偵察隊をだしましょう。元譲、龍、貴女たちが指揮を執って」

「おう」

「了解した。春蘭殿の抑え役は任してもらいましょう」

「おい、ちょっと待て! それではまるで、わたしが敵と見ればすぐ突撃するようではないか!」

「違うの?」

「違わないでしょう?」

「うう、華琳さままでぇ~・・・・・・」


少し落ち込む春蘭殿を見ると可哀相だが、まぁ日頃が日頃だ。

仕方がないことと諦めてほしいものだ。


「私もでると、こちらが手薄になりすぎる。それにもし戦闘になった場合も姉者と龍の方が適任・・・・・・。そういう判断だな、桂花」

「そうよ。龍の実力は知らないけれどね」


今まで私と戦ったことがあるのは、華琳殿、春蘭殿、秋蘭殿と一部の兵士さんだけだ。


まぁ、私の実力なんてたかが知れてるけどね。


「行ってくれるでしょう? 春蘭、政也」

「はっ! 承知いたしましたー!」

「了解しました」

「では春蘭、政也。すぐに出撃なさい」


私と春蘭殿は華琳殿の命により、春蘭殿の隊をまるまる偵察部隊に割り振り、本隊から離れて移動を始めた。


「全く。先行部隊の指揮など、わたし一人で十分だというのに・・・・・・」


移動開始直後、春蘭殿がそう愚痴をこぼす。


「偵察も兼ねているのだから、通りすがりの傭兵隊とかだったら、突っ込んではダメだよ?」

「言われるまでもないわ。そこまでわたしも迂闊ではないぞ」

(やれやれ。その迂闊が有り得るから私がつけられたワケなんだけど・・・・・・)


私は肩を竦めながら苦笑する。


しかし、春蘭殿の性格を正確に判断して私をつけるとは、流石は名軍師、荀彧だなぁ。


そう思っていると一人の兵士が近づいてきた。


「元譲さま! 見えました!」

「ご苦労!」


向こうの集団は行軍してるって言う感じではなく、一カ所に集まって何やら騒いでいるように見える。

見えるとは言っても、酒盛りのような雰囲気ではない。


「何かと戦っているようだね」

「そうだな」


その時、人だかりの一部が高く打ち上げられた。


(へぇ~。人って、あんなに飛ぶもんなんだな。大発見だ)

「何だ、あれは!?」


しかし、春蘭殿の驚きを見るに、あの情景は滅多にないものみたいだ。


一体、誰があんなに人を飛ばしてるんだ? ん? あれは・・・・・・。


「誰かが戦っているようです! その数・・・・・・、一人! それも子供の様子!」

「何だと!?」


その報告を聞くが早いか、春蘭殿は馬に鞭を振り、一気に加速させていく。


「ふぅ。止める暇がなかったな・・・・・・。誰かいるかい!」

「はっ!」

「このことを孟徳殿たちに報告! それと何人かはあの者たちが退却したときに追跡をしなさい! 元譲殿は私が止める! いいね!」

「「「「「はっ!」」」」」


私は兵士たちに指示をだした後、春蘭殿を追っていった。

そして春蘭殿の後ろ姿を確認した私は、馬から飛び降り、加速しながら野盗の一人の後頭部に飛び蹴りをかます。


「よっ!」


その相手を踏み台にして、春蘭殿と子どものところに降り立つ。

私が駆けつけた時には、既に春蘭殿が大抵の野盗たちを倒しており、子どもの安全を確かめた春蘭殿が野盗たちを睨みつける。


「貴様らぁっ! 子供一人によってたかって・・・・・・、卑怯というにも生温いわ! てやああああああっ!」

「うわぁ・・・・・・っ! 退却! 退却ーーーっ!」


野盗の一人がそう叫ぶと、それに呼応するかのように全員も撤退していった。


しかし、ここからが私の出番だ。春蘭殿の性格からして・・・・・・。


「逃がすか! 全員、叩き斬ってくれるわ!!」


こうなるよね、やっぱり。

たく自分の任務を忘れてちゃ世話ないよ。


「春蘭殿! ちょっと待つんだ!」

「龍、何故止める!」

「私たちの仕事はあくまでも偵察だよ。その子を助けるために戦うのはいいとして、敵を全滅させることが目的ではないんだよ」

「ふんっ。敵の戦力を削って何が悪い!」


やれやれ。私を威圧しても意味がないよ。


「それも尤もだけど、今はあの野盗たちにを追跡して敵の本拠地を掴んだ方がいい」

「おぉ、それは良い考えだな。誰か、おおい、誰かおらんか!」

「もう何人か偵察に出しといたよ」

「うむ、そうか・・・・・・」


これが魏の最強戦力かぁ~。

武勇の方は確かに無敵だけど、この猪突猛進は何とかしてほしいなぁ。

まぁ、これが春蘭殿なのだろう。ならば仕方がないかな。


「あ、あの・・・・・・」

「おお、怪我はないか? 少女よ」

「はいっ。ありがとうございます! おかげで助かりました!」

「うむ。それは何よりだ」


うん、良い子だ。

しかも、その小柄で大の大人を軽々とあんな高く飛ばす力があるとは凄いなぁ。けど・・・・・・。


「何故こんなところで一人で戦っていたんだい?」

「はい、それは・・・・・・」


少女がそんな話をしようとすると、向こうから本隊がやってきた。

その本隊を見つめた少女は何だか訝しげな表情をした。


どうしたのだろう?


「政也。謎の集団とやらはどうしたの? 戦闘があったという報告はきいたけれど・・・・・・」

「やっこさん達は春蘭殿の勢いに負けて逃げて行きましたよ。何人かに尾行してもらってるので、本拠地はすぐ見つかると思います」

「そう。ん? この子は?」


華琳殿は頷くと、こっちを見つめる少女に気がつく。

少女は華琳殿の問いには答えず、春蘭殿の方を見つめる。


「お姉さん、もしかして、国の軍隊・・・・・・っ!?」

「まぁ、そうn――(春蘭殿!)うぉっ!?」


春蘭殿目掛けて、得物(巨大な鉄球)で攻撃をしてきたため、咄嗟に春蘭殿と少女の間に身体を入れて、白狐を真横に構え防御する。


 ドン!


く・・・・・・っ!

何て重い一撃を放つんだ・・・・・・!

白狐みたいな刀ではなかったら防げないほどだぞ・・・・・・!

しかし、何故いきなり攻撃をしてきたんだ・・・・・・?


「き、貴様、何をっ!」

「国の軍隊なんか信用できるもんか! ボク達を守ってもくれないクセに税金ばっかり持っていって!」


春蘭殿の問いにそう答えた少女は、もう一度鉄球を振りかざす。


「てやぁあああああっ!」


掛け声と共に私に向かい攻撃をしてきた。


「龍!」


白狐で防ぎながら春蘭殿に大丈夫という意味で笑顔を見せると、少女を見据えて口を開く。


「・・・・・・だから、君は一人で戦っていたのかい・・・・・・?」

「そうだよ! ボクが村で一番強いから、ボクがみんなを守らなきゃいけないんだっ! 盗人からも、おまえたち・・・・・・、役人からもっ!」

(そうか。この一撃の重さは力だけではなさそうだな)


少女の一撃の重さは皆を守りたいという気持ちも加わっているのだろう。

しかし、華琳殿がそんな悪いことをするわけはない。

街を見ても全然酷い感じではなかったはずだし、外の街でも重税を掛けているわけではないはずだ。


ああ。そう言えば、ここら辺は華琳殿が治めている地域ではなかったな。

そういうことか・・・・・・、少女は華琳殿が官であるということで自分たちを苦しめている者の仲間だと思ったわけか。


 ドン!


く・・・・・・!

流石に受け流すのがやっとになってきたな、少しやばいか・・・・・・。


「二人とも、そこまでよ!」

「え・・・・・・っ?」


私が少し冷や汗を流しながら、少女の攻撃を受け流していると、華琳殿の静止命令が届いた。


「剣を引きなさい! そこの娘も、政也も!」

「は・・・・・・はいっ!」


その場に歩いてくる華琳殿の気迫にあてられて、女の子は軽々と振り回していた鉄球をその場に取り落とした。

それを確認した私は白狐を鞘に納めて、少女に近づいていく華琳殿を見つめる。


「・・・・・・春蘭、政也。この子の名は?」

「訊く暇もなかったので」

「そう。名前はなんて言うの?」

「きょ・・・・・・、許緒と言います」


こういう威圧感のある相手を前にするのは初めてみたいだな。

許緒と名乗った少女は、完全に華琳殿の空気に呑まれきっている。


というか、この子が許緒か・・・・・・、どうりで力持ちのはずだ。


「そう・・・・・・」


許緒の名を訊いた華琳殿が取った行動は・・・・・・、許緒に頭を下げることだった。


「許緒、ごめんなさい」

「・・・・・・え?」

「華琳、さま・・・・・・?」

「なんと・・・・・・」

「あ、あの・・・・・・っ!」


その行動にその場にいた誰もが呆気に取られている。


「名乗るのが遅れたわね。私は曹孟徳、山向こうの陳留の街で、刺史をしている者よ」

「山向こうの・・・・・・? あ・・・・・・それじゃっ!? ご、ごめんなさいっ!」


どうやら自分が勘違いをしていたことに気付いたようだ。


「山向こうの街の噂は聞いてます! 向こうの刺史さまは凄く立派な人で、悪いことはしないし、税金も安くなったし、盗賊も凄く少なくなったって! そんな人に、ボク・・・・・・、ボク・・・・・・!」

「構わないわ。今の国が腐敗しているのは、刺史の私が一番よく知っているもの。官と聞いて許緒が憤るのも、当たり前の話だわ」

「で、でも・・・・・・」


話を聞いていて分かったことは、華琳殿ところは治安が良くなってきてるけど、他はまだまだらしいということだ。


まぁ後漢末期という時代だ。腐敗していてもおかしくはない。


「だから許緒。貴女の勇気と力、この曹操に貸してくれないかしら?」

「え・・・・・・? ボクの、力を・・・・・・?」

「私はいずれこの大陸の王となる。けれど今の私の力はあまりに少なすぎるわ。だから・・・・・・、村の皆を守るために振るった貴女の力と勇気。この私に貸してほしい」

「孟徳さまが、王に・・・・・・?」

「ええ」

「あ・・・・・・、あの・・・・・・、孟徳さまが王様になったら・・・・・・、ボク達の村も守ってくれますか? 盗賊も、やっつけてくれますか?」

「約束するわ陳留だけでなく、貴女たちの村だけでなく・・・・・・、この大陸の皆がそうして暮らせるようになるために、私はこの大陸の王になるの」

「この大陸の・・・・・・、みんなが・・・・・・」


ふっ。流石は曹孟徳殿だ。この人ならば必ず大陸の王となるだろう。


私は華琳殿が歩むであろう道を思い浮かべる。


自分がきたのは、華琳殿を大陸の王にするためだと、少しだけだがそう思えてきた。

だから、ここで宣言しよう。


≪私、龍政也は華琳殿に忠誠を誓いましょう≫


気持ちを新たにしていると、偵察に出していた兵士さんが帰ってくるのが見えた。


「華琳さま、偵察の兵が戻りました! 盗賊団の本拠地は、直ぐそこです!」

「判ったわ。・・・・・・ねぇ、許緒」

「は、はいっ!」

「まず貴女の村を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずそこだけでいい。貴女の力を貸してくれるかしら?」

「はい! それなら、いくらでも!」

「ふふっ、ありがとう。・・・・・・政也。許緒は一先ず、貴女の下に付ける。分からないことは教えてあげなさい」

「了解しました」


私はそう返事をすると、許緒の方を見据える。

許緒は私の方を振り返ると、何やら言い難そうにしながらも話しかけてきた


「あ、あの・・・・・・龍、さま・・・・・・」

「ん? ああ。さっきのことなら気にしないでいいよ。あと、さま付けはやめてほしい。私はそんなに偉くはないからね」

「じゃ、じゃあ・・・・・・、お姉ちゃん・・・・・・」

「ははは、それでも構わないよ」

「うん!」


ま、まぁ。希望としては『お兄ちゃん』が良かったけど、贅沢は言わないぞ、うん。


私はそう思いながらも笑顔で許緒の頭を撫でる。

許緒は気持ちよさそうに目を細めながら、無邪気な笑顔を返してくれた。


やっぱり子どもは笑っていてくれるのが一番良いなぁ。


「・・・・・・では総員、行軍を再開するわ! 騎乗!」

「総員! 騎乗! 騎乗っ!」


華琳殿と秋蘭殿のかけ声で兵士さん達が一斉に馬に騎乗し、行軍を再開した。

目的地は偵察部隊の報告にあった盗賊団の本拠地(隠れ家)だ。


ふぅ・・・・・・、ここからは気を引き締めて行くぞ。

私の最初の戦いなのだから・・・・・・。

第六話をお読みいただきありがとうございます。

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