第 4 話 龍、牛猪(ぎゅうい)の暴走を治めるのこと
第四話、更新しました。
良かったらお読みください。
試験の翌朝。お茶が飲みたくなったため、厨房に向かった。
だいたいの城の配置は、昨日教えてもらっていたので、なんなく厨房へと着くことができた。
そこでは、従者2人が忙しなく働いていた。
「ご苦労様」
「はっ! りゅ、龍さま!?」
「な、なな、なにかご用でしょうか!?」
声をかけた途端、物凄く慌てた様子でこちらを向く従者2人。
・・・・・・そんなに緊張しなくてもいいのに。
とは言え、私の事は昨日、伝わっているみたいだし、仕方がないと言えば仕方がないかな。
「そんなに驚かなくてもいいよ。ただ、お茶が飲みたくなっただけだから」
「あっ、お、お茶ですね」
「い、今すぐおいr――」
「あ、いいよ、いいよ。私が入れるから」
「え? しかし――」
「いいの。貴女方は今の仕事に専念してよ(ニコッ)」
「「あ、はい/////」」
こんなやり取りをし私が笑顔になると、従者2人は顔を赤くして俯いてしまった。
理由は考えないでおこう、うん。
「じゃ、勝手にお茶を入れさせていただくよ?」
「「あ、はい」」
私は従者2人に許可をもらうと、茶葉を確認する。
「ふむふむ、この茶葉だとお湯の温度は――」
そう呟きながら、湯呑にお茶を入れていく。
同じ緑茶でも茶葉により、お湯の温度や入れ方が多少異なる。
だから注意が必要だ。
「・・・・・・うん、美味い」
「私にもくれないかしら、政也?」
お茶を入れ終わったので、近くの椅子に座って啜っていたら、後ろから華琳殿の声がした。
「ん? 華琳殿、なにか用ですか?」
「いいえ、通りかかっただけよ。で、私にもお茶を入れてくれないかしら?」
「ええ、いいですよ」
私は再度、お茶を入れていく。
華琳殿は、私の手をじっと見て、感心した声を出してきた。
「へぇ~」
「ん? どうかしました?」
「いいえ、なかなかの入れ方だなと思っただけよ」
「それは光栄です。どうぞ、口に合うかどうか分かりませんが」
「ええ、頂くわ」
華琳殿は湯呑に口をつけてお茶を飲んでいる。
なぜか、従者2人がソワソワとその様子を見ているけど・・・・・・。
「これは・・・・・・」
華琳殿が驚いた表情をしている。
ん? 華琳殿には、この苦さがちょうどいいと思ったんだけど、ちょっと苦くしすぎたかな?
「口に合いませんでしたでしょうか?」
「いいえ、美味しいわ。今まで飲んできたお茶よりもね」
「それは良かった」
華琳殿はそう言うと美味しそうにお茶を啜っていく。
そんなに喜んでもらえると入れた甲斐がある。
「華琳さま!! こちらにおいででしたか!」
「春蘭、どうしたの?」
「今、城下で牛と猪が暴れてると言う情報が」
「「はっ?」」
牛と猪が暴れてる? それはどういう状況だい?
「・・・・・・秋蘭、詳しく説明してちょうだい」
「はい」
華琳殿が春蘭殿に遅れてやってきた秋蘭殿に尋ねると、秋蘭殿は掻い摘んで話をしてくれた。
今朝、猪と牛を運んでいる途中に仕留めたと思っていた猪が、突如暴れ出して、荷車を壊し逃走。
その直後に興奮した牛も暴れだしたというわけらしい。
な、何というか・・・・・・。
「それで警備の者はどうしたの?」
「はい。それがその騒動で街は混乱、その混乱に乗じて賊が入ったとかでその対応に追われていまして」
「そう・・・・・・」
華琳殿は秋蘭殿の報告を聴いて考えこむ仕草を取る。
そして徐に顔を上げると、春蘭殿と私の顔を見つめた。
「春蘭は、警備の者の手助けを! 政也は暴れている猪と牛を何とかしてちょうだい!」
「はい、華琳さま!! いくぞ、政也!」
「はいはい」
華琳殿の命令で春蘭と私が城下の混乱を治めることになった。
さて、猪と牛を止められるかなぁ。
*****
「政也、牛と猪の居場所は分かるか?」
「ああ、獣の気配は把握している。春蘭殿は警備隊の方へいってくれ」
「分かった」
私と春蘭殿は城下に出ると、それぞれの場所に向かう。
う~ん、でも、ちょっと人が多いな。それなら・・・・・・。
「はっ!」
私は跳躍すると、屋根に登って屋根伝いに獣たちがいる場所に向かった。
そして、その場所に到着すると、人だかりができていた。
立ち止まって様子を窺うと、牛と猪が子ども達の周りをグルグルと回っているのが見えた。
民衆は、牛と猪に阻まれて子ども達を救出する事ができないらしく、頻りに子ども達に動くなと言い聞かせている。
「さて、どうやって止めるかな・・・・・・、むっ!」
どうするか考えている時、1人の女の子が動き出してしまった。
それに向かって猪と牛が突進してきているのが見える。
マズい・・・・・・!!
「「「「「きゃぁあああああああっ!?」」」」」
**********
「はい、華琳さま!! いくぞ、政也!」
「はいはい」
政也は春蘭の嬉々とした表情に苦笑しながら、春蘭と城下に向かう。
「華琳さま」
「なに? 秋蘭」
「猪と牛は姉者の方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうね。でも、政也は昨日、私の臣下になったのよ? 警備の者にはまだ、政也の事を伝えていないし、春蘭がいった方がいいのよ」
「・・・・・・それもそうですな」
「けれど秋蘭の心配も分かるわ。だから政也の様子を見に行きましょ」
「はい」
私と秋蘭は、お忍びで城下に向かった。
城下にでると、政也が屋根に登って屋根伝いに移動しているのが見えた。
「1回の跳躍で屋根まで登ったようですね」
「そう・・・・・・、本当に政也には驚かされてばかりね」
ふふ、面白いわ。政也。
貴女の事、もっと知りたくなっちゃった。
「華琳さま」
「ええ、いきましょう」
私は政也を追って、秋蘭と共に騒ぎになっている場所に向かった。
「「「「「きゃぁあああああああっ!?」」」」」
「!? 華琳さま!!」
「ええ! 急ぎましょう!」
民衆達の叫び声が聞こえてきたため、私と秋蘭は急ぎ叫び声が聞こえた方向に走る。
そして、人込みをかき分けて通り抜けた先では・・・・・・、牛と猪を髪を結んでいた紐で抑えている政也の姿があった。
「うわぁああん!! お母さーーーーーん!!」
「もう大丈夫だよ・・・・・・」
政也は泣いている女の子を安心させるように優しく話しかけて、次に周囲の民衆たちに告げる。
「今のうちに子ども達を!!」
「「「「お、おう!!」」」」
呆けていた皆は我に返ると、子ども達を救出に向かう。
「「「「「嬢ちゃん!! 皆、助けたぞ!」」」」」
「それは良かった・・・・・・」
救出後、皆が政也に声をかけると、牛と猪を押し倒して紐を解いた。
そして立ち上がると、政也の解かれた髪が揺れる・・・・・・。
「「「「「・・・・・・美しい」」」」」
その姿を見た民衆からは、そんな言葉が零れた。
太陽の光で輝く政也の髪は、何とも言えない美しさがあった。
そして政也の澄ました表情と合わさって、幻想のように感じる。
本当に美しい・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
政也はじっと牛と猪を見つめている。
倒れていた牛と猪は起き上がって、雄叫びを上げ政也に突進してくる。
「「「「「嬢ちゃん!! 逃げろ!!」」」」」
「・・・・・・・・・・・・」
皆が政也に声をかけるが、政也は逃げる素振りも見せない。
しかし、私は安心している。
だって政也が自身の剣(白狐)を鞘から抜いたのだから。
「・・・・・・・・・・・・」
「「「「「嬢ちゃん!?」」」」」
政也が牛と猪に向かって歩き出したので、皆が政也を呼ぶ。
牛と猪が政也に襲いかかった瞬間、政也の腕が僅かに動いた。
そして、牛と猪は襲いかかる格好のまま、そこから動かなくなった。
「・・・・・・狐火斬り」
牛と猪の間を素通りした政也が呟きながら剣を鞘に納める。
すると牛と猪の身体が真っ二つに切り離された。
ふふっ・・・・・・。これで大丈夫ね。
「秋蘭、帰りましょう」
「はい」
私と秋蘭は踵を返して、城に戻っていく。
「「「「「うわぁあああああああっ!!」」」」」
その後ろでは・・・・・・、民衆たちの喝采が聞こえていた。
後は任せるわね、政也。
**********
「お~い、政也」
「ん? おお、春蘭殿。そっちはもういいのかい?」
「ああ、全員、捕まえた」
「それは良かった」
騒ぎが落ち着きを取り戻した時、春蘭殿が何人かの警備隊と共にやってきた。
どうやら賊の件は片がついたようだ。
「で、そっちの首尾はどうだ?」
「なんとか大丈夫だよ。あ、そうそう。この中に、この牛と猪を運んできた人はいるかい?」
「へ、へい。あっしらです」
髪を結びながら牛と猪を運んできた人物が見物人の中にいるか尋ねると、3人の男たちが名乗り出てくる。
気配からいって、狩人らしい。
「牛と猪を斬ってしまったが、大丈夫だったかい?」
「へ、へい。むしろ、こっちが申し訳ねぇことで。猪は仕留めたと思ってたんですが、どうやら気絶していただけだったようで」
「牛はどういう経緯で?」
「へい。それは―――」
その3人に事情聴取を行っていく。
今回は狩人達の驕りが、この騒ぎを引き起こしたと思った私は、狩人達に厳重注意と確認作業の徹底を約束させることで、この場を治める。
その後、春蘭殿と城へ戻っていると、さっきの子ども達と親御さん達が近づいてきて、その中の代表の女の人が話しかけてきた。
「先程はこの子たちを助けていただき、ありがとうございました」
「いえいえ、当たり前の事をしたまでのこと、お礼を言われるほどではないよ」
「しかし、それでは私たちの気持ちが・・・・・・」
「それじゃ、これに書いてあるものを今日中にお城に届けてほしい。 できるかな?」
「え? は、はい! 大丈夫です!」
親御さん達に届けてほしいものをメモしたものを渡しながら頼むと、必ず届けると言い子ども達と去っていく。
それを見送った後、春蘭殿が声をかけてきた。
「政也、あれに書いたものとは何だ?」
「ん? ああ、あれはあの人達の商売品だよ」
「そうなのか?」
「ああ」
メモしたものはどれもあの人達が取り扱っているものばかりである。
何故、分かったのかは企業秘密ってことで、よろしく。
「・・・・・・という事にしましたが、よろしかったでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ。じゃ、政也は秋蘭の手伝いをして頂戴」
「はい」
城に戻ると、一通り華琳殿に報告する。
その後、秋蘭殿の手伝いとして文官の仕事に取り掛かった。
しかし、秋蘭殿の手伝いのはずなのに私の方の竹簡の量が多い気がするのは気せいだろうか?
「秋蘭殿、私は手伝いですよね?」
「ああ、そうだが?」
「何だか、こっちの量の方が多いき――」
「気のせいだろう」
「そうですか?」
「ああ」
竹簡の整理をしながら尋ねると、秋蘭殿は顔色を変えずに私の言葉を遮ってそう答えた。
まぁ多い気がすると言っても、100枚ほどだ。
文句を言うほど多くないし、いいや。
私はそう思うと、新たな竹簡に手を伸ばして目を通していくのだった。
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