第29話 龍、留守番を仰せつかるのこと
一年近く遅れて申し訳ありません。
第29話、更新いたしました。
よろしければお読みください。
奉先殿たちとの面会から数日後、華琳殿は西園八校尉の任命式に出席するため、春蘭殿、桂花殿、季衣の3人とともに都に向けて出発した。
今回、私は居残り組だ。華琳殿曰く、『袁本初も呼ばれてるようだから、政也も留守番よろしくね。本初に貴女を会わせたくないのよ』とのこと。
今一つ意味がわからなかったが、私に否はなかったので了承し、華琳殿たちを見送った。
「龍。今いいか?」
その翌日。寝室でお茶をすすりながら、凪の報告書に目を通していると、秋蘭殿が侍女二人とともにやってきた。その二人は、大きな大きな葛籠のようなものを両端で支えていた。
「それは何だい?」
「華琳さまがお前のために用意したものだ。お前たち、そこの上に置くといい。置いたら持ち場にもどってもよいぞ」
「「はい。妙才様」」
目を丸くしながら訊ねる。
秋蘭殿は簡潔に応えると、侍女たちに箪笥の上を指差し侍女二人に指示を出す。そして、二人が指示通り葛籠を箪笥の上におき、一礼して退室したあと、葛篭を開けて中身を見せてくる。
「!!」
中身を見て、私は驚き目を見開いてしまう。
葛篭の中にはたくさんの女物の服が詰め込まれていたからだ。
「見た通り服一式だ。華琳様が着た感想が欲しいと言っていたぞ」
「・・・・・・何着あるんだい、これ」
「うむ。50着ほどだ。桂花と嬉しそうに選んでいたぞ。姉者が羨ましがっていたよ」
「・・・・・・・・・・・・」
絶句して葛籠に詰め込まれた服を見つめる。意識が急に遠退いていく感じがした。
「お前がこれらの服を着るのが苦手なのは分かっているが、これらは先程も申した通り、華琳様が自らお選びになったものだ。着たくないとは決して言うなよ? まぁ言ったところで、華琳様は笑って強制的に着させるとは思うが、姉者と桂花はそうもいくまい?」
その時、秋蘭殿が忠告してきた。我に返った私は、ため息をはいて気持ちを落ち着かせると、着用を拒否したときの二人の対応を思い浮かべて苦笑する。
「最悪、春蘭殿に斬られるだろうね」
「そうなりたくなければ諦めて毎日着ることだな。どの服を着るかはお前に任せる」
秋蘭殿はそう告げて退室していく。
それを見送った私は、箪笥の上の葛篭に視線を向けて、ため息をもう一度吐き出した。
「まぁいいや」
諦めに似た感情を抱きながらそう呟きつつ、報告書に視線を戻す。
「・・・・・・ん?」
その時、ある一文に目がとまる。
『商人たちの間で、周辺の村々で神隠しが起こっているという噂が広まっている』
眉間にシワを寄せて続きを読む。
報告書には、信憑性を確かめるため、商人たちから聞き込みを行い、周辺の村に兵士を派遣し調査したと書かれてあった。
その結果、若い娘や子供が数人、忽然と姿が見えなくなったことが分かったようだ。
「詳細は調査中か・・・」
報告書だけでは埒があかないため、直接聞こうと立ち上がる。その時、葛篭が目に入ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・(このままの格好で行っても、秋蘭殿は何も言わないだろうが、あとあと面倒なことになりそうだなぁ。)はぁ。こうなったらヤケだ」
三度目のため息を吐くと、葛篭の中の服を一着を手にとって着替える。そして色々準備をしてから、凪たちのいる警備隊の詰所へ向かったのだった。
*****
詰所内に凪がいることを確認し、見張りの兵士に呼んでもらう。
「隊長、お呼びです・・・か? ・・・え?」
中から現れた凪が、私の姿を見た途端固まってしまった。
肩をすくめつつ、凪の肩を叩いて再起動させる。
「はっ。・・・た、隊長。その格好は・・・」
再起動した凪だったが、驚いた表情のまま私の格好を見つめる。
私は自分の服装を見つめながら、もう一度肩をすくめる。
「これは華琳殿が用意されたものでね。似合っていないかい?」
「え!? い、いいえ! そんな(ああ! 隊長がお洒落してるの!)・・・・・・」
苦笑したまま問いかけると、凪は慌てて否定しようとする。しかし、巡回から戻ってきた沙和の大声で遮られ、最後まで言えずに固まってしまう。
沙和は、そんな凪には目もくれず、真剣な目で私の全身をくまなく見つめたかと思うと、満面の笑みを浮かべて頷いてくる。
「よく似合ってるの~。これは隊長が買ったの?」
「いや。華琳殿が私のために用意してくださったものだよ」
「さすが華琳さまなの! 普段の隊長も魅力的だけど、その格好のほうも良いの! ね! 凪ちゃん!」
「え!? あ、うん! す、素晴らしいです! 隊長」
「そ、そうかい? ありがとう」
和の問いかけに我に返った凪も、私を褒めた。
私は、内心泣きそうになるが、ぐっとこらえてお礼を言った。
「ああ、そうそう。沙和、実務報告書がまだ出てないぞ。早く出すように」
「沙和~?」
「わ、分かったの! 今すぐ持ってくるの!」
このままだと何かとマズいため、強引に話題を変える。それが効を奏したのか、凪と沙和の関心が服からそれる。
「さて、凪に聞きたいことがあるんだ。中に入らせてもらうよ」
「あ、はい!」
沙和が慌てて詰所内に駆け込むのを見送ったあと、凪を促して自分も詰所内に入った。
「・・・・・・・・・・・・」
入ってすぐ春蘭殿を模したからくり人形を真剣にイジっでいる真桜が目にはいる。『やれやれ』と四度目のため息を吐き出す。しかし、すぐに気持ちをきりかえて、真桜を怒ろうとしている凪を止める。そして、誰もいないところまで進み、適当な場所で振り返った。
「凪。報告書に書かれてあった『神隠し』の調査の進捗状況はどうなってる?」
「はい。『神隠し』にあったとされる女子供は15人。『神隠し』は豫州汝南の中央付近の村から始まり、最近は沛国の季衣の村です」
「そうか・・・・・・」
季衣が都に行っていて良かった。
これは帰ってくるまでに解決しなければならないな。
「一つ確認だが、身売りという可能性は?」
「私もそれを疑い調査しました。その結果、どの家も裕福とは言えませんが、身売りしなければならないほど切迫している事実は確認できませんでした。また、季衣の村で調査したところ、誰かが争った形跡が僅かにありました」
「なるほど・・・、これは『神隠し』ではなく『拐かし』と見たほうがよいか」
「はい、間違いないかと」
「ふむ・・・、『拐かし』と断定して、それは豫州のみで起きているのかい?」
華琳殿が治めるのは、兗州と豫州。
兗州は完全とは言いがたいが、一応の警備体制はひかれている。しかし、豫州は黄巾党との戦いの最中に組込まれた州のため、まだ警備体制が整っていない。
賊はその警備の穴をついたと思うのだが。
「兗州すべて調べたわけではありませんが、今のところは報告はあがっておりません」
「そうか。兗州での事案があがったら、すぐに知らせてくれ」
「はっ!」
「さて豫州で『拐かし』が起きているとなると、燈殿か喜雨に協力を要請したほうがいい気がするが」
「燈様は華琳様の先触れとして、一昨日から都に向かわれております」
「喜雨は喜雨で、農業の指導で忙しそうだからなぁ。今すぐというのは難しいか。仕方がない。こちらでできることをしよう。凪。豫州の地図を持ってきてくれ。確かめたいことがある」
「はっ」
私の考えが正しければ、賊はあそこにいるはずだ。
間違っていたらマズいが、燈殿たちに確かめられない状況では、可能性を一つ一つ潰していくしかない。
「隊長。持ってきました」
「了解。そこに広げてくれ。それと『神隠し』があったとされる村の位置に駒を置いてみてくれ」
「はい」
凪は地図を机の上に広げ、大まかの位置に駒を置いていく。
あらゆる可能性を考慮しながら、それを目で追う。そして、すべての駒が置かれたとき、ある一つの可能性が高くなったことを確信したのだった。
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