第18話 龍、趙雲(ちょううん)に再会するのこと
第十八話、更新しました。
良かったらお読みください。
「やぁ。久しぶりですね、趙雲さん」
華琳殿たちに着せられた服で再会してしまうという最悪のシチュエーションに、私は内心冷や汗をかいていた。しかし、冷静を装って趙雲殿に近づく。
「おや? よく似合っている服だと思ったら、お主それ“女物”ではないか。たしかあの時、“男”だと申していたはずだが、やはりお主“女”だったのか?」
「ああ、まぁ、それは・・・、ちょっと趙雲さん」
「? なんだ?」
私は苦笑の表情をはりつけて曖昧な返事をしつつ、趙雲殿の背後に隠れている少女に聞こえるか聞こえないかのギリギリの小声で、話し始めた。
<実はですね>
<うむ>
<あの後、官軍に囲まれてしまったのですが、その責任者である孟徳殿になぜか気に入られてしまいまして、孟徳殿のところに身を寄せることになったんですよ>
<なるほどな。あの時の官軍は曹孟徳のところであったか。ん? 待てよ。ということは、孟徳のところに現れたという天の御遣いは、ひょっとしてお主か?>
<ええ、まぁ。そういうことになりますかね>
私は苦笑して答える。
ここで注意しておくと、私は一度も自分から天の御遣いだと名乗ってはいない。
華琳殿から天の御遣いだと説明しなさいとは言われていたが、全くその機会はなく、勝手に天の御遣いや独眼龍姫が広がってし まったのである。
<そうか。お主が、あの噂の独眼龍姫だったのか。関羽が知ったら飛んできそうだな、これは。おっと今はそのことよりも、重要なことがあったな。龍殿。肝心なことをまだ答えておらんぞ。お主は、一体どちらなのだ? “女”か? それとも“男”か?>
私は曖昧な表情で返して肩を竦めた。
華琳殿に“男発言禁止”を言い渡されているので、迂闊に“男”であるとは言えない。
かと言って“女”であると言えるはずもない。
<それは内緒ということで>
<むむ。そう来たか。しかし、そう言われるとますます気になってしまうというもの。どうだ龍殿。必ず秘密にするから教えてくれ>
「私に何かご用でしょうか? お嬢さん」
「あわわ!?」
なおも食い下がる趙雲殿の気をそらすために、私に話し掛けようとしていた少女を利用することにした。
しかし、少しタイミングがズレてしまったらしい。
少女が飛び上がらんばかりに驚いてしまった。
「驚かせてしまったようだね。すまない」
「あ、い、いえ。あの。だ、大丈夫でしゅ! あぅ、噛んじゃった・・・・・・」
少女は恥ずかしそうに帽子を目深にかぶって、帽子のツバを手で抑えてしまった。
私は目線を下げると、少女の目を見つめて微笑んだ。
「お嬢さん、名前をお聞かせいただきませんか?」
「あ、あの・・・、鳳統です」
「そうですか。では鳳統殿。改めてお訊ねします。私に何かご用でしょうか?」
「あ、あのあの・・・・・・」
三国志において諸葛亮とともに臥龍鳳雛と称された鳳統と名乗った少女。
彼女は帽子のツバを手で抑えて恥ずかしそうにしていたか、深呼吸で気持ちを落ち着かせると、顔を上げた。
「あの。貴女さまは、陳留の天の御遣い、独眼龍姫さまであらせられましゅか」
噛み噛みで訊ねたと思ったら、すぐに趙雲殿の後ろに隠れてしまった。
「やれやれ。雛里。そう恥ずかしがっては話が進まないぞ。雛里は、この龍殿が天の御遣いだったとして、一体どうしたいのだ?」
「え、えっと朱里ちゃんと話してたことがあったの。もしも陳留の天の御遣い様とお会いできたら、ぜひ話をお聞きしたいって」
「なるほど。だから龍殿に天の御遣いかと訊ねたのか。ところでこの龍殿が、天の御遣いだと思ったのはどうしてだ? 我々の話が聞こえていたわけではあるまい?」
「うん。よく分からないの。で、でもその方の雰囲気が、ご主人様と同じような気がして。だから・・・・・・」
「ふっ。雛里。その読みは正しいぞ。この龍殿こそ、正真正銘天の御遣い様だ。なぁ。龍殿」
やれやれ。『なぁ。龍殿』じゃないよ趙雲殿。
この雰囲気じゃ、否定ができないじゃないか。
まぁ、するつもりは元々なかったから良いけどね。
「はぁ・・・。鳳統殿、私はどうすればよろしいですか?」
私はため息を吐き、鳳統殿に肯定の意味を込めて訊ねる。
鳳統殿は恥ずかしそうに、されど嬉しそうに自分たちの陣営に来てほしいと伝えてきた。
「分かりました。行かせていただきます」
願ってもないことに、そこはちょうど一刀くんがいる場所であった。
私は二つ返事で承諾し、鳳統殿に笑顔を向ける。
「あ、ありがとうございましゅ!」
「ははは。では主のところへ帰るとしよう。龍殿、ついてきてくれ。案内するぞ」
趙雲殿は意気揚々と歩いていく。
その後をあわてて追いかける鳳統殿の後を、私は苦笑しながらついていった。
**********
「ま、政也さん・・・、なんで?」
「ははは。また会ったね一刀くん」
俺は、縄で縛られた政也さんが皆と一緒にいることに呆気にとられた。
これってどういう状況・・・・・・?
「と、桃香・・・、こ、これはどういう?」
「えっと愛紗ちゃんに雛里ちゃんと星さんが帰って来たって訊いて、ご主人様と朱里ちゃんにそのことを伝えてから、ここに来たらこうなってたの。だから雛里ちゃんと星さんに事情を聞こうとしたんだけど、すぐにご主人様たちが来たから」
「そうか・・・。雛里、星。って、どうして少し離れてるんだ? 二人とも」
頷いた俺は、二人に事情を訊こうとした。
しかし、二人は少し政也さんから距離をとっていた。
疑問に思って訊ねると、その答えは二人ではなく、政也さんから返ってきた。
「おそらくこれを警戒してるんじゃないかな」
「「「「「え?」」」」」
政也さんは縛られていた縄をいとも簡単にほどき、俺たちに見せてきた。
思わずそれを見つめた俺たちはすぐに呆気にとられた。
なぜなら縄がひとりでに動きだしたからだ。
一瞬、政也さんが動かしてると思ったが、朱里の言葉でそれが間違いだと分かった。
「そ、それって蛇ですか!?」
「「「「え?!(なっ!?)」」」」
「ははは。そんなに驚かなくても大丈夫だよ。このヘビは、ナワメヘビと言ってね。毒はないし、大人しい性格の子だから、噛むことはないよ」
驚いて少し後ずさった俺たちに笑顔を向けて説明する政也さん。
そ、そう言えば政也さんって、ヘビ博士って呼ばれてたっけ・・・・・・。
ああ。確か大学ではヘビの血清などの研究をしてるって祖父ちゃんが言ってたな。
「ごほん。して雛里、星。この者を、この陣営に連れてきた理由を訊こうか」
「・・・・・・はい。実は―――」
どうでもいい事を思い出しながら、ヘビを腰に巻きつけている政也さんを見つめていると、咳払いをした愛紗が雛里と星に政也さんについて訊ねた。
雛里はいったん星を見つめ、政也さんとの出会いからここまでのことを語りだした。
それを訊いて俺が思ったことは、『政也さん、やっぱり女だって間違われてるんだね』だった。
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≪説明≫
ナワメヘビ(架空のヘビ)
中国の固有種で、全土に分布している。主食はアリなどの小さい昆虫。
毒はなく、大人しい性格。夜行性。縄と見間違えてしまうほど似ており、日中のほとんどは動かずに過ごす。また、その唾液および血には炎症などを治す効果があり、元時代から、漢方薬の生薬として使われている。




