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第 1 話 龍、異世界に降り立つのこと

新たな物語が始まります。

「親父は何の用だろう?」


昨日のことだ。親父から連絡があり、実家に戻ってきてくれと言われた。


まぁ、暇だったから良かったけどね。


明日は私の二十歳の誕生日で、いつもは誕生日会を開いてドンチャン騒ぎをするのだが、生憎と皆用事があるとかで明日の誕生日会は中止と相成ったわけだ。


さて、親父の用って何だろう


「(ピーン、ポーン)はいはい、今出ますよ(ガラガラ)――あら? 坊ちゃま、お帰りなさいませ」

「ああ。(きよ)さん、元気かい?」

「ええ、元気だけが取り柄ですからねぇ」


実家のチャイムを鳴らすと、出てきたのは家政婦の氷上清美(ひかみきよみ)さん。

私の生まれる前から――四十年近く勤めてくれている人だ。


「親父はいるかい?」

「今ですと、道場で剣術指南をしていらっしゃいますよ」

「そう。じゃ、行ってみるよ」

「はい、いってらっしゃいませ」


清さんにそう告げると道場の方に向かった。

私の家は代々、剣術道場を開いていて親父はその九代目の師範だ。


ん? 私はならないし、なる気もないよ。

私には三つ上の兄貴で師範代がいるのだから。


「お~い、親父。帰ったよ」

「ん? おお、政也(まさなり)か。ちょっと待ってくれ。よし、打ち方やめ! 休憩に入りなさい」

「「「「「はい!」」」」」


親父の号令で門下生の子ども達が、休憩に入る。

それを見届けた親父は正面に座ると、口を開いた。


「・・・・・・政也、渡したいものがある」


渡したいもの? なんだろう・・・・・・?


「・・・・・・お前には、色々な事を教えてきたつもりだ。刀を扱う時の心構えとかな」

「あ、うん」

「明日はお前の二十歳の誕生日だな。明日からお前は成人として扱われる。つまり、昔の元服。そこで俺は、父から授かったものをお前に託したいと思う」

「そ、それって・・・・・・」

「ああ。我が家に伝わる宝刀、白狐(びゃっこ)だ」


親父が差し出したのは、我が家に伝わる宝刀、白狐だったこの刀は、私のご先祖様である初代、龍政宗(まさむね)が鍛え上げた代物だ。

生涯を賭して鍛え上げられたこの刀は何人もの人を切っても刃毀れせず、血を吸っても錆を起こさなかったと伝えられている。


その神聖な刀を私に授けるというのはどういうわけなのだろうか?


「親父、質問いいかい?」

「何だ?」

「何故、私に・・・・・・? それに兄貴は何と言ってるの?」

「そのことか・・・・・・まずお前の兄、政孝(まさたか)だが、お前にその刀を授けて欲しいと言っている」

「兄貴が・・・・・・?」

「ああ」


兄貴が私に白狐を授けてほしいと言っていた・・・・・・?

何故・・・・・・? 兄はこの刀を授かるのが夢だったのではないのか・・・・・・?


「・・・・・・お前が疑問に思うのも分かる。政孝はこの刀を授かるために頑張ってきたのだからな。だが、政孝は知ったのだよ。自分にはこの白狐を扱えるだけの器量がないとな・・・・・・」

「器量・・・・・・? 私にはそれがあると・・・・・・?」

「ああ。政孝は――いや、私もだな。お前ならこの白狐を十全に使いこなせるようになると信じている」

「何故・・・・・・?」


私は兄貴とは違い、刀には興味がなかった。

でも、剣術は好きだったから、親父が受け継いだ、狐龍(こりゅう)剣術を学んでいた。

今では親父や兄貴よりも凌駕していると言われているが、私はそうは思っていない。


その人間に何故、白狐を扱うだけの器量があるのだろうか、いやないのではないだろうか?


「・・・・・・お前の左目だ・・・・・・」

「私の左目?」


咄嗟に左目についている眼帯を触る。

私の左目は、生まれつき視力がなく光に触れると目が腫れるため、眼帯をしている。


その左目がどうしたと言うんだ?


「お前には言っていなかったが、父が生きていた時、言っていたことがあった・・・・・・」

「お祖父ちゃんが・・・・・・?」

「ああ」


親父は姿勢を正すと私を見据えてポツポツと話をしてくれた。

長い話だったが、要約すると私は初代、龍政宗と瓜二つらしい。

政宗もまた左目が生まれつき視力がなかったが、武士の家系に生まれた政宗もまた、兄達と同じように剣術を学び、兄をも凌駕するほどの剣術家にまで成長したらしい。


それと、私が似ている? そんなバカな・・・・・・、そんなわけがない・・・・・・。

私はまだ剣術家としては半人前だと自負しているのだから。


「・・・・・・そして、決定的なことはこの白狐がお前を選んだと言うことだ」

「白狐が私を選んだ・・・・・・?」

「そうだ。政也、十五歳の誕生日のことを覚えているか?」

「十五歳の誕生日・・・・・・」


十五歳の誕生日、五年前の明日か・・・・・・


「代々の習わしで私からお前に白狐を渡したことがあっただろう?」

「あ、ああ」


十五歳の誕生日、親父から私へ白狐を渡すという恒例行事が行われた。

これは龍家一族の習わしで十五歳(昔の元服の年)の誕生日に本家・分家、男女問わず、現白狐所有者からその人物に渡されるというものがあり、その一日は白狐を所有することが許されるのである。


兄貴の時は、寝てたから知らないが、あんまり違うことをした覚えはないけど・・・・・・。


「その時、私――いや、一族全員が驚いた。もちろん、政孝もだ」

「?」


あの時、私は何をしたんだっけ?

ああ、そう言えば白狐を鞘から抜いたんだっけ・・・・・・。


「お前はこの白狐を鞘から抜いたな?」

「ああ。 でも、それがどうしたの?」

「この鞘には特別な細工がしてあってな――」


親父が言うには、白狐が収められている鞘には親父が後継者と認めた者にしか抜くことができない細工が施されていたらしい。

しかし、当時の親父は誰も後継者を決めていなかった。

だから、私が鞘から抜いたから、驚いたと、でも・・・・・・。


「それはおかしくないかな? だって、私は確かにこうやって鞘から抜いたんだから」

「ああ。私はお前が寝た後、父に問うた『どういうことでしょうか?』と・・・・・・」

「うんうん」

「・・・・・・その時、父はこう言われた。『お前には、ワシが死ぬ時に言うつもりであった。しかし、まさか政也が抜くとは思わなんだ。これは父、お前の祖父が死ぬ前にワシに伝えたことだが、白狐は人を選ぶ。その白狐が認めた者はたとえ現所有者が後継者と認めていない者でも鞘が抜かれるとな』」

「え? それって・・・・・・」

「ああ、お前は白狐に選ばれたんだ。だから、政孝も『自分が抜けなかった鞘をいとも簡単に抜くとは・・・・・・、やはり俺より政也の方が才能があったんだな。親父、この白狐・・・・・・俺が二十歳になったら渡すってことになってただろう? それを俺じゃなくってさ、政也に渡してやってくれ』と言って白狐の所持を辞退したんだ」

「・・・・・・・・・・・・」


親父の言葉を聞いて、言葉が出なかった。

兄貴は私が剣術を習い始めた七歳の時から、いつも言っていた。

『俺は必ず白狐を受け継いでみせる』と・・・・・・、その兄貴が、私に白狐を譲ったということが未だに信じられなかった。


「・・・・・・兄貴はそれで納得してるのか・・・・・・?」

「・・・・・・政孝は納得している。今までの政孝は白狐を受け継ぐことだけを考えて鍛錬していた。それが悪いとは言わない。だが、それに固執するあまり私の言う通りにしか鍛錬をしてこなかったのも事実だ。しかし、白狐という呪縛から解き放たれた政孝は、今では私の言う通りではなく、自分の考えで鍛錬をしている。それが何よりも私は嬉しいのだよ」

「親父、私は・・・・・・」


この白狐を受け取るということは、親父の後継ぎになると言うことだ。

私はなる気はないし、親父も兄貴を後継ぎにしようと考えているだろう。

でも、親戚達がどういうか・・・・・・。


「いや、今受け取るか受け取らないかの結論を出せとは言わない。それに、白狐を受け継いだ者を後継ぎにするとは考えていない。私の後継ぎは政孝しかいないのだからな」

「・・・・・・・・・・・・それは分かってるよ」

「そうか。それと親戚どものことは考えなくて良ろしい。そこは私が何とかする。だから、考えてほしい、受け取るのか受け取らないのかをな。今日は泊ってゆっくり考えなさい」

「・・・・・・分かった」

「うむ。では稽古を始めるぞ!」

「「「「「はい!」」」」」


親父は白狐を私に渡すと、稽古に戻っていった。


明日は二十歳の誕生日・・・・・・、それまでに考えないといけない。

白狐を受け継ぐか、受け継がないのかを・・・・・・。


私は白狐を見つめながら、どうするか考えていくのだった。


*****


「・・・・・・ん?・・・・・・」


どうやら、白狐について考えているうちに寝てしまったみたいだ。


「え?」


ゆっくりと起きあがった時、思わず驚いてしまった。

なぜなら、周りが何もない荒野だったからだ。


なんだこれ? 実家の俺の部屋で寝たはずだよな・・・・・・?

それが何故、外で・・・・・・。


「これは夢・・・・・・ではないな」


私は長年の鍛錬の賜物で夢と現実を把握することができるようになった。


まぁ、いわゆる勘なんだが。

その勘ではこれは現実だと知らせている。

う~む、これは面妖な。


「ん? この服は高校の時の制服・・・・・・?」


ふと服装を見ると、何故か高校の時に着ていた制服だった。


「おい、嬢ちゃん! いい服を着てるじゃないか」

「なんだな」

「兄貴、こいつ良いとこの嬢ちゃんか何かじゃないですか?」


突然、声をかけられたので振り返った次の瞬間、そこには衝撃の光景が映った。

そこには小汚い服を着て山賊の服装をした人物が三人立っていた。


えっと、この服装は・・・・・・、中国の三国時代ぐらいの服装かな?

まぁ、それはさておき・・・・・・。


「えっと、あなた達は・・・・・・?」

「おっ♪ なかなか、別嬪じゃないか♪」

「そうなんだな。が、眼帯も似合っているんだな」

「兄貴、こいつに酒でもついでもらいましょうよ」

「おお、良いね♪」


三人は私の顔を見て何やら邪な考えをしている様子である。


え? 何でお嬢ちゃんと言われて驚かないのかって?

まぁ、言われ慣れているからね・・・・・・。


ここで私の容姿を説明すると、よく友人から女性が男装しているみたいねって言われるほど女顔で、髪をポニーテールにしている。

髪を切る暇がなかったため、下ろすと腰まで届く長さにまで伸びてしまった。


「・・・・・・それにしても何で男装なんかしてるんでしょうね?」

「それは俺が分かるわけないだろ!」

「そ、そんなに怒鳴らないでくださいよ~」

「ど、怒鳴るのは良くないんだな」

「うるさい! お前達はいつも――(クドクド)」


私が考え事をしていると三人はケンカを始めていた。


えっと、これは止めるべきか・・・・・・、それとも追剥みたいだから逃げるべきか・・・・・・。

う~ん、どうしよう?


「兄貴、今はこっちす、こっち」


あ、考えてるうちに逃げられなくなったぞ。


「あ、ああ、そうだったな。じゃ、嬢ちゃん、死にたくなかったら俺達についてくるんだ」

「そ、そうなんだな。大人しくしていると痛くしないんだな」

「むしろ、違う意味で痛くしちゃうかもな」

「・・・・・・・・・・・・」


完全に女と勘違いしてるなぁ・・・・・・、今更、男だって言えないし。

さて、どうしよう?


「おい、デブ。嬢ちゃんを縄で縛りな」

「分かったんだな。お、大人しくしてるんだな」

「・・・・・・・・・・・・」

「うへへ、こいつ。恐ろしくて声も出ないようっすね」


いや、声は出せるんだけどね。

どうやってここから逃げ出すか考えていたら、デブさんに掴まれてしまっただけで。


≪政也、我を使え≫


縛られていると突然、頭の中で誰かの声が響いた


≪政也、我を使え。我は白狐。我は政也を守りたい。政也、我を使え≫


白狐・・・・・・?

あっ! こ、この声は聞き覚えがあるぞ。

確か、あれは剣術を始めてから一週間後辺りで見た夢の声にそっくりだ。

あの声は白狐だったのか・・・・・・。

ふっ。分かったよ、白狐。お前を使ってやる。

だから、私の力になってくれ。


≪分かった。我が名は白狐。我、政也の守り刀なり!≫


 ザシュッ、ポロ


「「「!?」」」

「やれやれ、派手な登場だね、白狐(苦笑)」


どこからか飛んできた白狐が、縄を切り裂いたため、盗賊さん達が驚いてしまった。


「でも、ありがとう」

≪よい。我は政也の守り刀。政也を守るのは当たり前≫

「ははは、頼もしいなぁ。じゃ、行くよ、白狐」


私が白狐を持つと、刀身が光り出した。

そして、光が収まるとそこには


「ほぅ・・・・・・まさしく、白狐だな」


刀身は白く輝き、まるで狐の尻尾のような波紋があった。


「く・・・・・っ!? 逃げるぞ!」

「わ、分かったんだな!」

「お、おい兄貴、デブ。待ってくれっ!」


その刀を見た瞬間、盗賊さん達は何もせずに逃げてしまった・・・・・・。


なんか、呆気ないなぁ。まぁ、良いや。

えっと、鞘は・・・・・・。


「ん? いつの間にか鞘が腰に差してあったよ・・・・・・・・。まぁ、良いか。白狐、これからもよろしくね」

≪よろしく≫


白狐にそう言うと、鞘に収める。


「そこの人達は私に何か用かな?」

「「「!?」」」


そして、後ろを振り向きながらそう告げると、そこには三人の少女達が驚いた表情で立っていた。

第一話をお読みいただきありがとうございます。

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