1/14
夏の残響
幽霊が出てきますが、ホラー要素はありません。
今年も、あの夏のようにうるさいぐらいにセミが鳴いていた。
昼間に聞いた鳴き声が、夜に耳の中で反響して眠れなくなるぐらい。
たった一週間と少ししかしかない短い命を、燃やし尽くして鳴いていた。
あるいは、だから夏は暑いのかもしれない。
彼らの生命の輝きを糧として、太陽は高く高くのぼるのかもしれない。
そしてその寿命が尽きる頃に秋がやってくるのだ。
ひと夏を共に過ごした煩わしさがなくなって、嬉しい半面、少し寂しい。
そういう感傷を毎年のように感じていた。
だけどわたしはあの夏、いつセミが鳴き止んだか覚えていない。
虫達の命より大切なものが失われた日々だったから。