ディモーレ 依頼 ミルチ
ミルチ・ロット 女性 19歳 160cm 表情豊かな優しい子
黒髪 ショート
しばらくして演奏が終わった。
アリアは女性の方を覗き見る。
その女性はスカートを軽くつまみ、魔物たちに向かいお辞儀をしていた。
『魔物が怖いとか、思わないのかねぇ』
と、苦笑いのアリア
彼女が顔を上げると、距離をとって取り巻くようにして演奏を聞いていた?魔物たちが彼女めがけて一斉に集まりだした。
アリアは慌てず、何かあればすぐにでも動けるように、動向を見る。
そして、気付いた。
魔物たちが手に何か持っていることに。
注目すると、それが果物だということが分かった。
他の魔物を見ても、同様に何か持っている。
その、ほとんどが食べ物だった。
まるで演奏者に花を送るかのように、魔物たちは女性の回りに食料を置き、去る。
女性は
「今日もありがとう!また来てね!」
と魔物たちに声をかけていた。
その様子をみて『もうわけわかんねー』と考えることを止めたアリアは
「ルル、ちょっとここで待っててくれ」
と言い、隠れていた木陰から出て行った。
「どうもこんにちはー」
女性の近くにはまだ魔物がいたが、アリアは気にせず歩いていく。
突然人が出てきて、女性の方はびっくりしていた。
「えっ?あっ!・・・この子たちは悪い魔物ではありません!だから、殺したりしないでくださいっ!」
一般的に魔物は人から忌み嫌われる存在である。
どうやらアリアが魔物退治に来たのだと勘違いしたらしい。
彼女の声に魔物たちは反応し、アリアを警戒する。
「あー、まぁ落ち着いて。俺は君と話がしたいだけだよ」
笑って敵意は無いことを告げる
「だからさ、あの子たちに威嚇はやめて、って言ってくれないかなぁ」
軽く手を上げ降参のポーズをとってみせる。
アリアに指摘され、魔物たちが警戒の体勢に入っている事を知り
「あっ、すみません。みんな!この人は大丈夫!だから落ち着いて!」
と彼女は言った。
その言葉を聞き、魔物たちはおとなしくなり、それぞれ去っていく。
『んー、やっぱり操ってるわけじゃないな。ってことは、魔物と意思疎通ができると考えるべきか』
とアリアは脳内にメモをとる
「君、すごいねぇ。魔物と会話でもできるのかい?」
けっこうストレートに聞いてみた。
「えと、会話はできません。ですが、あの子たちには私の言っていることが分かるみたいです」
少しオドオドしながらだったが、嘘は付いてないように聞こえた。
「それはすごいなぁ。あ、そうだ。もう一人連れがいるんだけど、呼んでも良いかな?」
念には念を。彼女が魔物を操っている場合、目の前にいるアリア一人を襲わせるために、一人で姿を表したが、そうでない場合、離れている方があぶないかもしれない。と考える。
「えっ?もう一人いるんですか?えと・・・どちらに・・・」
人気が無いところなので警戒しているのだろう。
彼女は挙動不審だった。
「心配しなくてもいいですよ。連れは女の子ですから。ルル、おいで」
アリアに呼ばれて、木陰から姿を表す。
そんな所に!と彼女はびっくり
「こんにちは。私はルルと申します。兄さんが何かしましたか?」
「何もしてないって・・・」
開口一番それですか、と苦笑いのアリア
「あっ、こんにちは!私はミルチ・ロットです!」
勢いよく頭を下げて自己紹介をしてきた。
演奏後の優雅なお辞儀とのギャップで笑いそうになりながら
「あー、落ち着いて、ね?」
と声をかけ
「俺の名前はアリアね。んとさ、君に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
ルルのおかげで多少なりとも安心したのか、ミルチは落ち着きを取り戻したようだった。
「えと、私がわかることなら・・・」
「ん、どうも。んじゃまずは、あの子たちが持ってきた果物とかさ、君が持ってくるように強要しているの?」
彼女はハッとなり、周りを見渡す。
そして、誰が見てもこの状況は、そのように捉えるだろうと考えがまとまる。
「いえっ!強要なんてしていません!私が演奏をすると、みんなが置いていってくれるんです!」
嘘偽り無く答えていることが、その様子から分かったので、次の質問へ移る。
「そかそか。となるとさ、この山道を通る馬車を襲わせたりってこともやってないよね?」
彼女は『えっ?』と言い、固まってしまった。
『やっぱ、魔物の独断かぁ』
ふむふむ、と一人頷くアリアをルルが呼ぶ。
「兄さん。ミルチさんが戻って来ません」
と言い、ルルはミルチの目の前で手を振っていた。
名前を呼ばれ、我に返ったミルチはアリアに聞き返す。
「あのっ!あの子たちがまだ馬車を襲っているというのは事実なのですか!?」
『まだ』?と疑問に思いつつ
「事実だよ。もしかすると、君への贈り物でも探してたんじゃないかな?食べ物以外にも何かもらったこと無い?」
と聞いてみる。
「・・・私が演奏を始めた頃には様々なものを貰いました・・・すぐに、あの子たちが悪さをして得た物だと気づき、私は何もいらないからと言って・・・そしたら次からは果物など、この山に実るものを持ってきてくれたので、あの子たちの気持ちを受け取ろうと・・・」
事実を知り、顔を青くして自分はとんでもないことをしてしまっていた。と後悔に声を震わせながらミルチはアリアの質問に答えた。
ルルがミルチの背中をなでている。
しばらくの間、ミルチが落ち着くのを待ち
「まぁ君に悪気がなかったってのは、よく分かったからさ、馬車を襲うの止めるように言ってくれないかな?」
と提案する。
「はい、すぐに・・・」
ミルチは涙を拭い、フルートを構える。
何度聞いても飽きない音色が響き渡り、魔物たちが集まり出す。
そして
「みんな!お願いがあるの!あのっ、私はもう何もいらないから!だから、これからは人の物を盗ったりしないでください!」
ほとんど叫び声だったが、ミルチの言葉を理解したのか、魔物たちはすぐに去っていった。
去り際に魔物たちはアリアのことを睨んでいたが、気付かないふりをするアリア。
「・・・これで、大丈夫だと思います・・・もし、まだ何かを持ってくる子がいたら、その都度言い聞かせますので・・・」
あの子たちを許してあげてください。とミルチは続けた。
ルルもこちらを見ていたのか、目が合った。
魔物のことをこんなに気にかける人も珍しいな、と微笑ましい気分になりながら
「許すよ。あの子たちにも悪意ってのは無かったって分かるしね。・・・よし、これでこの話も終わりにしよう。一件落着っとー」
と、笑って締めくくる。続けて、
「そんなことよりさ、俺はその楽器のことが気になるんだよね」
と、次は自分たちのための質問をするのだった。
楽しんで頂ければ嬉しいです。