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葛藤が見える。
弱い自分と、正義の心。
共存するその内に秘めた気持ちに踏ん切りがつかないのだろう。
敵わないと分かる敵を前にして、逃げない心は美徳だと思う。
だから俺は見捨てなかったし、そんなユウキを好ましく思う。
それとは逆に、危うさも孕んでいる。
この世界では、時には残酷な決断が必要な時があるだろう。
しかし、その心が判断を狂わせる。
まだ15歳。
前世であれば、まだ中学生か高校生といった所だろう。
ならば、その残酷さは俺が引き受けよう。
少しばかりではあるが先輩なのだから。
「気持ちはわかる。だが今回は相手が悪い。」
「そう、だよね。」
心に折り合いが着いたのか、ユウキは進行方向を変える。
「ふむ、かかっては来ぬか」
遠く離れた、木々の先。
再びの重圧感が周辺を覆う。
「まさか気付かれておらぬと思っているのではあるまいな?」
「オウ?ワレワレ、サカラウツモリナイ。」
「お主たちではない。聞こえておるのだろう?そこの人間」
心臓が早鐘を打つ。
今までの比では無い、死の気配。
「なに、まさか黙すれば見逃されるとでも?」
悪寒がするほどの殺意に全身の毛穴から汗が吹き出る。
見てはいけない。
分かっていても振り変えざるを得ない。
機械仕掛けの人形のように、体はぎこちなく動く。
「おぉ、お前はあの時の童ではないか。まだ生きていたか」
自然な歩みに、危機感が薄れる。
「あの時は気付かなかったが今ならわかる。お前はナニか、違う。言うなれば珍味の混じりもの。なんと甘美な香りか、今日は良き日だな」
同じ言語であるはずが、理解が追いつかない。
化け物の視界に映された俺達は、精神も肉体も縛り付けられている。
目と鼻の先。
微動だに出来ない。
動けば即、殺されるという本能。
しかし逃げずとも、結末は分からぬだろうが。
キャパを超えた恐怖に、ゲームの一画面のような俯瞰視になる。
どこか現実味を帯ない感覚は正に精神の逃避。
死を間近にして俺の肉体は死を受け入れてしまっていた。
伸びる分厚い手が俺の頭を掴もうとするその時まで、俺はその場から動けずにいた。
「ゃ、やめろ…」
もはや、空間が歪んでいるかのような錯覚の中。
小さな勇者が立ち上がり、怪物の前に立ち塞がる
手も震え、小鹿のように震える足はしっかりと化け物を見据える。
「コ、コージに近寄れば、ゆ、許さないぞ!」
「ふむ、お前には興味を持たぬ故見逃しても良かったのだが、なぜ死に急ぐ?非力な身に不相応な蛮勇で、愚かなり。」
時間にして数秒。
しかし、それは意味のある一助となった。
『秘技とは、神の欠片である。
名も無き神達から分かたれた異能。
それは神の魂であり、不変の才能。
有した器に宿るその奇跡は、稀にだが進化する。
条件は未知であり、事例も少数。』
賢者メルヴァ・トロスが記した禁本の一ページ。
最後の一文は。
『されど、進化したソレは神へ至る一歩と言えるだろう』
その時、
『仮想顕現』が新たな扉を開ける。




