表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

5


ぐ〜〜〜〜


脅威は退き、一旦の平和を噛み締めていると、可愛らしい音が鳴る。


「この木の実、少し硬いんだけど良かったら。あとこのキノコも生で食べれるから」


葉の包みからユウキが選りすぐりの食料を渡してくる。


見た目も、香りも悪くない。


きっと食べやすいものを渡してくれたんだろう。


まだ解決したとは言えないが、今は体が資本。


渡されたキノコたちをお腹に収める。


「その背中の傷もどうにかしないとな。」


ユウキは背を壁に預ける事はしない。


背負われた時に感じたが、骨は見えずとも引き摺られた皮膚には土と汚れが付いていた。


早めに水で洗い流してやらないと不味いだろう。


それに、口では何も言ってこないが相当痛いはずだ。


「そう、だね。顔もまだ痛いけど、背中程じゃない。でも今から動くにしては、、」


暗すぎる。


言わずとも洞窟の外に目を向ければ分かる。


水があればユウキの傷も喉の乾きも潤せる。


ただもう洞窟内に差し込むのは月明かりしかない。


森の中は木々で遮られて、その光すら届き辛いだろう。


湖や川を探すには危険すぎる。


「多分、今晩くらいなら大丈夫だと、思う。」


ボロボロの服から覗いた背中はとても痛々しく感じた。


しかし、そうとは思わせないほど、痛みを訴えてる様子はない。




その日は、その言葉を鵜呑みにして、見張り番など立てず二人で川の字で寝ることにした。



━━━━━



「うぅ」



外から差し込まれた強い日差しと、ユウキの呻き声によって意識が覚醒させられる。


「ユウキ?おいユウキ大丈夫か」


背中を庇うように、うつ伏せで寝ていたユウキは痛みを紛らわせるように自分の腕に噛み付いていた。


「痛い…、痛いよ」


昨日、気高に振舞ってたとは思えないほど衰弱したユウキに心がざわつく。


「無理、してたんだな。」


昨日の夜更け、お互い疲れて、倒れるように眠った。


ユウキは寝る前に心配させたくなかったのだろう。


辛そうな素振りは見せなかった。


(少し考えればわかったはず…いや内心分かっていたのかもしれない)


俺は訪れた仮初の平穏を崩したくなかったのかもしれない。


暗闇の中、水辺を探す事の恐ろしさから無意識に逃げていたのか。


昨日滲んでいた背中の血は土による成分のおかげか既に凝固している。


しかし汚れた傷口が痛むのだろう。


こいつはどこまでも、優しくて。


俺は馬鹿だ。


一蓮托生。


それなのに、またどこか自分を優先してしまっていた。


「今、水を探してくる。それまで我慢できるか。」


理不尽に抗うと決めた以上、逃げるつもりはない。


「ごめん、ごめん、、」


謝るのは俺の方だ。


こんなにこいつは俺を信じているのに、俺はこいつの辛さに目を背けていた。


「絶対に戻ってくる。それまで耐えるんだ。」


「うん。」


痛みと涙を堪えながらユウキは此方を見て、一生懸命頷く。


ポーチと短剣を腰に装着する。


今俺たちが持ってる全財産。


しかし見送るユウキの眼に疑いは微塵も宿っていなかった。



━━━━━




慎重に洞窟から顔を出し、安全を確保する。


大岩に囲まれているとは言え、『怪物種』が居ないとは限らない。


目に見える脅威も感じる気配も無く、外の空気に触れる。


(また、独りか)


しかし、覚悟は揺らがない。


驚異が跋扈する森の中で見つけた仲間。


既にユウキは俺の中での守るべきものになっていた。


(とは言っても、手がかりが無い)


村から大きく離れ、森の深くまで来た今土地勘などあるはずがなく。


しかしここからそう大きく離れることは出来ない。


もし森の中で迷い、運悪く日を跨ぐようなことがあれば、ユウキが耐えれてるとも思えない。


そこに裏切られたかもしれないという思いが重なってしまえば、末路は想像も容易い。


(行くなら岩壁を右に辿ってか。)


大きく離れたとはいえ、西側には村がある。


今多数の『怪物種』に囲まれるのは死を意味する。


慎重に歩を進め、岩壁から離れすぎない森を辿る。


昨日は気付けなかったが、いる。


ゴブリンやコボルトのような脅威とは言わずとも、小型の『怪物種』。


スライムやレッドラビット。


どれも凶暴性は低く、こちらが攻撃しない限り近付くことすらしないだろう。


「しかし不気味なほど、景色が変わらないな…」


靴もすり減り、いつ襲われるかも分からず削られる精神。


そして希望を見せてくれない、変わらぬ景色。


次第にユウキだけの問題じゃないと気づく。


喉の乾き。


散々走り回り、昨日から何も飲んでいない。


空腹はまだどうにかなる。


しかしこの乾きは、徐々に精神を蝕む。


もうどれくらい歩いただろうか。


時計もないこの世界じゃ時間が分からない。


しかし足の疲労から、これ以上あの洞窟を離れる訳には行かないと悟る。


しかし今折り返しても、信じてくれたユウキに合わせる顔がない。


岩壁から遠ざかることも考えたが流石に辞める。


それこそ自殺行為だ。


目印の無い森を彷徨い、もし方向感覚を失えば洞窟に戻るのは至難になる。


かと言ってここまで歩き、成果がなければ何かを変える必要がある。


思考し、水だけのことを考える。


そして、一つ。


確実性はあり、しかし消耗する思考の中、別解のようなものを思いつく。


(できるのか、俺に)


いやもうこれしかない。


もう太陽は高く上がりかけ、正午を迎えようとしてる。


流石に今日死ぬほどでは無いにしろ、時間が経てばユウキの体力が持たない。



それに実行する力も恐らくある。


奪った短剣もある。


昨日の夜寝る前に、気付いた事実。


()()()()()()()()()()()()


短剣を持たせて相打ち特攻ができるのだ。


まだ生物には試していないが確かめたところ刃の鋭さもしっかりと再現されてた。


作戦を固めた俺は踵を返し、まずは洞窟まで足早に戻る。



━━━━━



「ユウキ戻ったぞ。」


変わらずうつ伏せのまま、こちらに目線を向ける。


腫れた顔も痛ましい背中も変わらないが、とりあえず何事もなく息はしているようだった。


「どう、でした…?」


手ぶらであり、晴れた顔をしていない俺に不安げに尋ねる顔は少し落胆が見える。


「すまない。行ける所まで行ったが。見つからなかった。」


僅かながらにも期待していた気持ちを裏切る回答。


心が、痛む。


「他の案を持ってきたんだが、少し聞いてくれるか」


俯いていた顔をこちらに向け、体を起こそうとする。


「いやそのままでいい。」


しかしユウキは意地で体を起こし、苦しみながらも座ってこちらに顔を向ける。


覚悟を決めている目。


俺も座り目線を合わせる。


「まず、聞きたい。今自分のレベルがいくつか分かるか」


レベルとは神殿などに行かない限り、自分では正確には把握できない。


しかし大雑把であれば分かるらしい。


それは『怪物種』を殺し、何回格が上がる体験をしたか。


最初はレベル1。


そこから徐々に上がっていく。


ユウキは意味を察したのか、熟考する。


「多分だけど、2、だと思う」


冒険者などではなければ普通の村人は一桁だ。


狩人などでなければ、レベル1で生涯を終えることもあるだろう。


「今、俺が考えてること、分かるか。」


「魔法、ですね」


「そうだ」


水魔法適性。


ユウキが言っていた水の適性。


彼は()()()が少なくて使えないとは言ったが、もし格が足りて魔力量が増えれば使用できるかもしれない。


この時、コージが考えたことは奇しくも魔力量が足りない初心者魔法使いを育成する時によく行われる養殖行為。


『怪物種』を瀕死にし、トドメをささせる。


そして格を上げていき、魔力量を上げていくのだ


「でも危険すぎる!確証もないのにそんなリスク背負わせられない!」


ユウキは戦力にはならない。


なら、弱らせるまでは俺が行わなくてはならないだろう。


出来ればコボルトやゴブリン。


一体で俺の格をあげるほどの強敵にトドメをささせる。


綱渡りに近い命のやり取りを複数回する覚悟はもうできている。


あとはユウキ次第。


「俺の事はいい。ユウキやろう。それしか無いんだ。」


死の淵に立たされているというのに、俺の身を案じているユウキ。


思案した末に、顔付きが変わる。


「分かった。お願いします」


まとめた作戦を伝えて、外に出てもらう。


ずっと日陰に居たからか、ユウキは眩しそうに太陽から目を背ける。


「今から瀕死のモンスターをここに連れてくる。流れはさっき言った通りだ。」


しっかりと理解したのか、ユウキは深く頷いた。


(ふぅ、、俺も腹くくるか)


二人三脚。


今からのしかかる命は一つではなく二つ。


名の通り命を賭ける。


大岩の間を通り獲物を探す。


辺りを見渡し、小型では無い『怪物種』の気配を探る。


昨日とは真逆。


助かるために、『怪物種』を狩る。


(居た)


洞窟から少し離れ、大きな木の下で横たわるコボルトを見つける。


(二体…か)


傍に同族であろうコボルトがレッドラビットを殺し食事している。


息を潜め、獲物を狩るシュミレーションをする。


欲を言えば一体ずつ相手したいが、そうはいかないだろう。


撤退し他の獲物を探すか迷うが、妙案を思いつく。


転がっている石を掴みながら食事しているコボルトと洞窟までの距離を測る。


(これなら二体相手取れる)


想定するコボルトの動きを読み、石を投げる。


滴る血を拭き寄せず、コボルトは投げられた石の主を探そうと腰をあげる。


そこで俺は態とらしく逃げる様をそのコボルトに見せつける。


洞窟まで、そのコボルトとの距離を計算しながら走る。


遠目で寝ていたコボルトが目を覚まし、何事かとこちらを眺め、獲物だと認識する。


(ここまでは大方想定通り。)


思ったよりコボルトの足が()()()()()こと以外は上手くいっている。


洞窟までの距離はあと少し。


まだコチラを追っている二匹のコボルトの位置関係を把握しながら、洞窟前の大岩に姿を隠す。


心を落ち着かせて、洞窟前にいるユウキに合図を送る。


同時に、今回はデコイとしてではなく、戦闘員として分身を作成する。


大岩から少し顔を出し、タイミングを見計らう。


大岩と大岩の間を通過する直前、秘技スキルを発動。


入力したコマンドが発動し、瓜二つの俺の分身は岩陰から姿を表す。


瞬間、コボルトの体が横切り、分身は後ろに倒れる。


コボルトが油断しその歯が首に到達したと同時に短剣がコボルトの口を貫通する。


そこに本物の短剣を持ったユウキがとどめを刺す。


「ユウキ!!二体目が来る!短剣を!」


「!わかった!」


絶命を確認した後直ぐにユウキは短剣を渡しに来る。


が、思ったより後方にいたコボルトが早い。


既に大岩のすぐそこまで迫っていた。


時間が無い中で分身を動かせる自信が無い。


柄を持つ手に力が入る。


今までは有利な状況での戦闘だった。


昨日のコボルトへの不意打ちも、ゴブリンへの時間稼ぎも、さっきのコボルトだって自身へのリスクはそこまで負ってない。


全部、想定通り行く上で秘技スキルが使える状況だった。


だが今は違う。


頼れるのは身一つ。


迫るコボルトに武器は見当たらないが、その大きな口と尖った爪は狂気になり得るだろう。


ここで俺が負傷すれば、共倒れも有り得る。


条件は完勝。


集中する。


既に敵は眼前。



瞬間、レベルアップした恩恵を感じる。


先程から感じていたコボルトへの違和感。


(コボルトが遅いんじゃない。俺が早くなったんだ)


振り上げる手から不格好ながら体を仰け反らせ、その捻る反動で短剣をコボルトの目へ横一閃。


飛び散る血を意に返さず、目を抑え踞ろうとするコボルトの四肢に短剣で刺突していく。


「ユウキ!こいつもだ!」


死ぬ間際までコボルトを追い込み、ユウキにバトンタッチする。



グサリ



『怪物種』の弱点とも言える核に刃を入れ込み、確実に命を奪う。



これで二体。


激戦を終え、俺にも格の上昇を感じる。


(アシストでも経験値は入る、か)


数え間違えでなければ、これで俺はレベル3。


「お疲れ様」


コボルトに丁寧に短剣をねじ込んだユウキは、痛む背中を庇うように腰を下ろす。


「レベル、多分2つもしかしたら3つ上がったのかもしれない。」


動くのも辛そうにユウキは、レベルの上昇を伝える。


「3つ?二体しか倒してないのに有り得るのか?」


「わかんない。けど二体目殺した時、何かいつもとは違って感じたんだ。」


(低レベルによる、格上討伐の恩恵)


考えていなかった訳では無いが、僥倖。


この世界のレベル制度は詳しく知らないが、ありえない話ではない。


「取り敢えずは、これでレベル4か5付近って訳だ」


「そうなる、ね。どうする?魔法使ってみる?」


「出来そうか?」


「わかんない。出せたとしても、少しかも…」


思案する。


ここで魔法を使わせて、失敗もしくは少量しか出せず空っ穴になれば、次使えるのは明日かそれ以降。


しかし今のように動かすには、ユウキの体力が限界に見える。


ここでも、かけるしかない。


「もう、限界だろう。今の戦闘を繰り返すのは無理だ。次善の策はある。試そう」


先程の戦闘での気付き。


まだ恐らく自分はまだレベル3だろうが、コボルト程度なら渡り合える。


命の危険は依然あるが。


ユウキに洞窟に戻ってもらい、死体を処理する。


ここに死体を置いたままにすれば、もしかしたら他の『怪物種』に襲われる可能性がある。


出来るだけ遠ざけて、洞窟でユウキと向かい合う。



「それじゃあ、行くよ」



ユウキは手をお椀のようにし、念じ唸る。


それを静かに見守る。



ちゃぽっ



手の上にどんどんと大きな水球ができていく。


成功


手応えを感じたユウキが水球越しにこちらを見る。



ファンタジー。


今世の記憶上ではなく、しっかりとこの眼で見た魔法。


ユウキも初めて使えた魔法に感嘆が漏れる。


「ユウキそのままだぞ」


感動もそこそこに当初の目的を思い出す。


ユウキがこの状態をずっと維持できる確証は無い。


「その水球動かせそうか?」


「わ、分かんない。けど力を抜くと消えちゃいそう。」


まさに砂上の楼閣。


いつ崩れてもおかしくない。


「分かった、そのままにしててくれ、俺が手で掬ってみる。」


まさに天上の雫を扱うかのように、細心の注意を払う。


触れた感覚は、水。


特に変哲もない水の塊。


不思議と水球の形を保つ中から、手でお椀を作り掬う。


無事取れたその水を飲みたい気持ちを抑え、ユウキの背中に垂らしていく。


「滲みるだろうが、我慢してくれ」


やはり傷が痛むのか、苦悶の表情を浮かべる。


しかしそれを配慮する余裕は無く、バシャバシャと水で洗っていく。


所々カサブタが取れ、生傷が現れるがお構い無しに汚れを取っていく。


拭うものがないので自然乾燥にはなるが、あんなに汚れていた背中は傷以外とても綺麗になった。


「これで終わりだ。どうだ気分は。」


「まだヒリヒリするけど、凄く良くなったと思う。」


今のユウキは苦痛の種を取り除き、使えないと思っていた魔法が使えた二つの喜びからかいい笑顔をしていた。


「ついでにこの水飲んでいいか?」


「この水って大丈夫なの?」


魔法のことはメル爺ちゃんから聞いてはいたが、水が飲めるかなんて話は聞いていない。


しかし飲めないことは無いと思う。


濁ったように見えず、毒のようなものが入っていればもっと広まっているだろう。


「少なくとも、死にはしないと思う。」


「なら飲もうかな…」


順番に残った水球に口をつけて飲み干していく。




「「ぷはぁ」」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ