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背中の負傷を厭わず、足の速さは青年の方が上だった。


必死に走りながらも徐々に差が開く。


するとそれを感じ取ったのだろう、青年はスピードを急速に下げる。


「乗って!多分僕が背負った方が早いと思うから!」


やっぱりこいつはおかしい。


仲間意識があるのかもしれないが、こんな危機的状況で俺を見捨てない辺り、善性が極まってる。


俺は、死にたくない。


言葉に甘えて痛ましい背中に飛び乗る。


まだ幼いとはいえしっかりとした重みがあるだろうに青年は懸命に走る。


こんな森の中に街灯などある訳もなく、光の無い森の中でまだ追われているのかも分からない。


視野が狭まっている今なら他の『怪物種』に出会う可能性も格段に上がっているだろう。


安地を見つけるため目をこらす。


想定では、先程の洞窟に一旦戻るつもりだったがきっともう通り過ぎているだろう。


移りゆく陰鬱な景色の中で懸命に首を振っていると、大岩が連なった先に新たな洞窟を見つける。


声をかけ、逃げ込む先を示す前に青年は加速を感じる程力強く、真っ直ぐに洞窟を目指す。


一瞬、洞窟の中を確認したと思えば直ぐに身体を投げ出す。


「はぁはぁはぁはぁ、はぁ」


背負った俺を下ろし、息を整える。


広い。


正確な時間など分かるわけもないが、もう既に月明かりしかない暗闇の洞窟を見回る。


入口は少し狭く感じたが、俺がいた洞窟よりこちらの洞窟の方が数倍広い。


前世で住んでいた自分の部屋より大きいかもしれない。


少し生活感を感じる布や積まれた木々があるが、埃を被っており、先住者はここをもう使っていないようだ。


うつ伏せに倒れ込む青年を尻目に外の気配を探る。


「どうやら追っては来てないようだな。」


「よかっ、た、はぁはぁ。あー本当に死ぬかと思いました。」


うつ伏せのまま、息を整えている。


日に何度も、死の淵に立っている俺たちだが、同時に運がいいとも思う。


岩壁に背を預けて、脱力する。


前世の記憶を思い出し、混乱したあの時から。


ずっと張り詰めていた心がやっと落ち着く。


「今回も、助かった。背中痛いだろう。大丈夫か」


「何を、言ってるんですか。僕の方こそ助けられてばかりで。コボルトの時だって、今だって僕がドジしたのに守ってくれて。」


確かに助けはした。


しかしそれでも、命の危機で他者を思いやれるこいつは良い奴だと思う。


「まずはお互いができること、自己紹介を簡潔にすましておこう。」


これから一蓮托生なのだ。


生き延びるため、お互いに出来ることは少なからず知っておきたい。


これからは何が役に立つか分からないのだから。


「確かに名前もまだ知らなかったね」


コボルトに殴られ、腫れた顔は痛々しいが笑いながらポケットを漁っている。


こんな状況で笑っていることに、すこし精神構造を疑いたい。


「僕の名前はユウキ。今年十五歳。さっき言った通り狩人の家計で小型の『怪物種』を捌いたり、食べれる木の実、キノコとかはある程度分かると思う。ほら見てこれ」


破れかぶれのズボンから、新鮮なキノコと少し硬そうな木の実が出てくる。


「捕まる前に摘んでおいたんだけど、これで多少の食料になると思う。」


大きな葉っぱに包まれたそれらは今解決すべき問題の1つを緩和した。


「後は、君が使ってたスキルなんて大層な物はないけど、特技、かな。人より目がいいんだ。遠くの物はよく見えるし、夜目も普通の人よりはきくとおもう。」


なるほど、と思った。


自身より早く洞窟を見つけ、洞窟の前で一瞬立ち止まったように見えたのは、中を確認していたのだろう。


これは存外役に立つ。


目の良さは、これから外敵から身を隠す上で役に立つし、本人を信じるなら小型の『怪物種』であれば狩猟し、食料にすることができる。


「あと、これはあんまり意味がないんだけど、一応魔法の適性はあるんだ」


「魔法!?」


スキルほどでは無いにしろ、レア物。


自分が持ちえなかった魔法、どんなものでも選択肢が広がる。


「いや本当に役立ずなんだ。適性自体は4つ、火、水、風、闇。けど魔力量が無いし、学も無いから今まで使って来なくて。」


複数属性もち。


メル爺ちゃんから聞いた話によると、二種でも少なく、四種以上の魔法使いになると挙げられる名も限られるらしい。


(闇は置いといて、火と水は今とても有用すぎる)


が、役立ずというのは謙遜なんかではなく事実だろう。


もし少しでも使えるなら、冒険者か魔法使いにでもなって、村から出ていたであろう。


それほど希少かつ強力なのだ。


「役立ずっていうのは、一つの魔法も使えないって認識であってる?」


「うん…、小さい頃、魔法使いさんに調べてもらったんだけど、一つの魔法を使う量もないって言われて、それっきり…。」


「一応、小型の『怪物種』を何体も仕留めててレベルが一つ上がってるんだけど、でも使える気がしないんだ」


ユウキは手をかかげて念じるが、一瞬火花が散るのみ。


その一瞬で使い切ったのか、気まずそうな顔を向ける。


惜しい。


魔法が使えればいくつかの問題は簡単に解決したが、無いものは無い。


「僕が持ってるものと言えばそれくらいかな。強いていえばその短剣は僕の両親からのお下がりなんだけど、君に使って欲しい。」


コボルトから剥ぎとったカバーに収まる短剣を見る。


今唯一の殺傷武器。


多分、俺の秘技スキルと今同等の価値がある貴重品。


「いいのか?親からのお下がりなんだろ?」


「いいんだ。僕が持つより君が持ってた方が役に立つと思う。」


論理的に考えればそうだろう。


しかし唯一の武器をそう簡単に手放すか。


底知れずなその善性はもはや聖人だと思えてきた。


「じゃあ次は俺だな。年は多分九歳。名前はコージ。使える魔法はゼロ。スキル名は分からないけど、見た通り自分に瓜二つな分身を作り出せる」


適当に座るだけの自分を想像して顕現させる。


作った分身に触れながらユウキは様々な質問をしてくる。


検証や戦闘に使った経験を元に性質を伝えていく。


「コージさんすごいなぁこんな秘技スキルが使えるなんて。コボルトだって倒せちゃうんだもんね。」


「敬称なんかいらない。俺もユウキって呼ぶし」


精神年齢で言えば確かに上なのだろうが、そんな礼儀を強要するつもりなどない。


「そんな、呼び捨てなんて出来るわけないよ。確かにコージさんは年下なんだろうけど、そう見えないし、頼りになる。それに助けてもらった僕は凄く感謝してるんだ。まだ生きてられるのはコージさんのおかげです。」


こんなに真っ直ぐな目で敬意を払われるほど高尚な人間じゃない。


ユウキを助けたのだって、一種の恩返しのつもりだった。


見逃されたから、助けた。


自分の命も危険だったから、ゴブリンを足止めした。


それをこんな純粋な目で感謝されると申し訳なくなるが悪い気分では無い。


「分かった。けど緊急時にさん付けなんて敬称は非効率だ。コージでいい。」


ユウキは苦い顔をして顔を顰める。


瞬間、いい考えが浮かんだのか顔を綻ばせる。


「ならボスなんてどうでしょう。都会では組織の長の事をボスというらしいですからね!」


「いい訳ないだろ。それにその知識は絶対違う。」


「だめかぁ」


まるで変わってない状況なのに、自然と笑ってしまうほど破顔する。


彼なりにこの暗雲を消し飛ばしたかったのだろう。


結局、打ち解けた俺らは名前で呼ぶことにした。

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